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短編に挑戦シリーズ

史上最短の異世界召喚

作者: くろイけ
掲載日:2026/08/15

突然思いついて三時間くらいで書いた短編です。

楽しんでいただけたら幸いです。

「ここはどこだ?」


 というテンプレ台詞が口から出るのを、なんとか我慢した。

 突然白い光に包まれたと思ったら、全く覚えのない薄暗い地下室のようなところにいたんだ。


「なんだここは!?」

「おい、マジかこれ!」

「え、なに?」

「ママー、ママー」

「……ふふふ」


 ぱっと見で、オレの他に5人いるようだった。


 くたびれた紺のスーツの中年サラリーマン。

 やや素行に問題のありそうな人相と身なりの青年。

 買い物帰りと思われる母親と、未就学っぽい娘。

 トートバッグを胸の前で抱えて俯きながら肩を震わせている女性。


 顔よりもその出で立ちで、直前に近くにいた人たちだとわかった。


 その日その時間、京浜急行線平和島駅の下りホームで各駅停車待ちをしていた人のうち、ホームの品川寄り、即ち最後尾車両に乗ろうと並んでいた6人全員が召喚されたらしい。


 まさか自分が異世界召喚される日が来るとは、夢にも思っていなかったオレは、内心かなり焦りながらも、6人という人数にやや安心感も覚えつつ、落ち着け落ち着けと念仏のように心の中で唱えていた。


「ようこそ、異世界の勇者のみなさま」


 キター!

 異世界召喚ときたらこの展開だよね。

 さぁ問題はこの後だ。

 当たりパターンか、外れパターンか――。


 金がかかっていそうな派手な衣装の女が、目線よりも高い位置から見下ろしている。

 その横には、紺のローブを着た男たちが数名並んでいた。

 男たちだけなぜか、みな疲労困憊の様子だった。


「なにをバカなことを言ってるんだ」

「いま勇者っつったのか?」

「ここはどこなの?」

「ママー、ママー」

「……ぐふっ」


「みなさまには特別な力があります。その力で、悪しき魔王を倒してください」


 あー、いきなり命令口調ってことは、外れパターンの可能性大だなぁ。

 ちくしょう! 一生に一度あるかないかのチャンスなのに……。


「ふざけるな!」

「なんでオレがそんなことしなきゃならねーんだよ」

「メイ、大丈夫よ」

「ママー、ママー」

「特別な力……」


 トートバッグの女がここでやっと顔を上げた。

 目が合った――めっちゃ鋭い三白眼でニタリと笑った。


「ひっ!」


 思わず声出た。

 こえーよ! 完全にホラーだよ!


 今この状況より、魔王より、お前の方が絶対にこえー。

 オレの全身全神経がそう叫んでいた。


 その時、頭上の女が、隣にいるローブを着た初老の男となにやら小声で話をしているのが見えた。

 こちらに聞かせたくない話なのかもしれない。


 そんなこれみよがしにされたら聞きたくなっちゃうなぁ。

 自慢じゃないけど、オレは聴力だけは自信がある。

 超低音から超高音まで完璧に聞き分けられるんだ。


「……どういうことなの? どいつもこいつも外ればっかり。 まさか失敗したんじゃないでしょうね」


 ほらね、聞こえたでしょ。

 ってかやっぱ悪いヤツじゃないかこの女。


「……ステータス」


 ホラー女がすぐ横で呟いたのが聞こえた。

 さりげなく観察していると、さっきまでニタニタしていた顔が、一瞬で不機嫌になった。

 よほどステータスがお気に召さなかったのかな。


 なら、オレも――。


「ステータス」


 目の前50センチほどの空中に、突然バーチャルディスプレイのようなものが現れた。


STATUS:レイジ・アムロ(18)

勇者LV(1)

HP:173

MP:68

SP:31

VIT:15

ATK:13

DEF:13

AGI:18

INT:10

DEX:16

LUK:31

SKILL

 ・言語翻訳

 ・隠蔽

 ・鑑定

 ・固有魔法:リターン


 ステータス、普通過ぎだろ。

 もうちょっとテンションあがる程度には高くしてほしいな。


 だが、気になる部分もある。

 運だけ無駄に高いwww

 なんだよ、オレの人生全然いいことなかったのに、こんな目にあったのに運が高いとか。

 悪い冗談としか思えないよ。


 そして最後の固有魔法とかいうやつ。

 オレの予想が正しければ、これは今のオレにとって一番必要かつありがたい魔法のはず。


 だが、上の偉そうな女は、外ればかりと言っていた。

 本当にそうなのかな。

 試しに見てみるかw


「鑑定」


STATUS:トシアキ・ササモト(46)

勇者LV(1)

HP:164

MP:55

SP:49

VIT:16

ATK:15

DEF:18

AGI:12

INT:15

DEX:15

LUK:11

SKILL

 ・言語翻訳

 ・占星術

 ・火属性魔法

 ・土属性魔法


 ん? 運以外はオレよりまともじゃないか。

 しかも属性魔法二種類持ちとか。

 占星術ってなんだよ、もしかしてオッサンの趣味かw

 だがどのみちこの世界の星じゃ、役に立たないかもしれないなぁ、残念。


「鑑定」


STATUS:リョウ・ヒガシヤマ(21)

勇者LV(1)

HP:182

MP:47

SP:51

VIT:15

ATK:19

DEF:14

AGI:14

INT:8

DEX:13

LUK:15

SKILL

 ・言語翻訳

 ・加速

 ・罠解除

 ・闇属性魔法


 あったま悪っ。

 だが、それ以外はそこそこに思える。

 罠解除に闇属性って、やっぱこいつ小悪党なんだろうな。

 加速は地味に脅威なんじゃないのかな。


「鑑定」


STATUS:ユキエ・カガヤ(34)

聖女LV(1)

HP:135

MP:85

SP:45

VIT:13

ATK:8

DEF:11

AGI:12

INT:38

DEX:19

LUK:11

SKILL

 ・言語翻訳

 ・魔力UP(中)

 ・魔法防御(中)

 ・聖属性魔法


 え、この人だけ聖女?

 レアなんじゃないの?

 スキルも良さそうなのに、ダメなのこれでも?


「鑑定」

 

STATUS:メイ・カガヤ(5)

勇者LV(1)

HP:42

MP:33

SP:27

VIT:8

ATK:3

DEF:3

AGI:4

INT:10

DEX:15

LUK:15

SKILL

 ・錬金術

 ・反射

 ・水属性魔法

 

 娘、5歳なのか!

 ステータスさすがにやばい。

 スキルも3個しかない。子供だからか?

 どっちみちこれじゃとても戦えないよ。

 だけど、致命的なのはそれよりむしろ「言語翻訳」がこの子だけない!

 母親と離れたらもう生きてくのも大変レベルじゃないか。

 ユキエさん、絶対メイちゃんと離れちゃダメだよ。


 そして最後は――正直あまり見たくはない。

 見たくはないが、こいつだけ見ないのもなんだか癪だから仕方がない。


「鑑定」

 

STATUS:ヒナ・カシワバラ(23)

勇者LV(1)

HP:158

MP:88

SP:44

VIT:17

ATK:17

DEF:15

AGI:13

INT:22

DEX:19

LUK:11

SKILL

 ・言語翻訳

 ・分身

 ・召喚術

 ・雷属性魔法


 いやいやいや、やっぱこえーよお前。

 スキルも普通にやばいよ。

 なんか召喚して、分身して、雷落としまくるのが見えるようだ……。

 ごめんなさい、関わりたくないです。


「勇者のみなさん、どうか今日のところはゆっくり休んでください。向こうに個室をご用意しております。詳しい話はまた明日にでも……」


「おい!ちょっと待て!」


 リョウとかいうヤツが大声で話を遮った。


 女はいかにも不快そうに顔を歪めたが、すぐに作り笑いに戻る。


「どうしましたか、勇者さま」


「お前、いったい誰なんだよ。勇者だなんだってわけわかんねーこと言う前に、こんなとこに呼び出した責任者呼んで来いや!」


 あー、まぁ気持ちはわかるけれど、もう少し言い方。


「わたくしが責任者のフローラです。この国の王妃です」


「おーひ?」

「王様の奥さんだよ」


 ササモトさん、ナイスフォロー。


「ああ、そうか。じゃあオレたち王妃様の客ってことなら、それなりのことしてもらわないとなぁ」


 リョウがふんぞり返って横柄にしゃべる傍らで、今度はカガヤ母が発言した。


「あの、すみません。これから夕食の支度をしなければならないので、できるだけ早く返していただきたいのですが」


「はぁ?バカかテメェ。今まで何聞いてやがったんだよ」

「ママにバカって言うな。このバカ!」

「やめなさい、メイ。そんなこと言っちゃいけません」

「だってぇ……」

「だってじゃねーよ!」


 ボカッ!


 いきなりリョウがメイちゃんの頭をグーで叩いた。


「うわああああああああん!!!」


 火がついたように泣き出すメイちゃん。


「なにするんですかっ!!」


 メイちゃんを抱きしめてリョウから引き離すカガヤ母。


「君ぃっ! そんな子供に暴力を振るうとは、けしからん!」


 ササモトさんが、リョウの右腕を両手で掴むと、そのまま見事な一本背負いでリョウを地面に叩きつけた。


 バンッ!

「ぐあっ!!」


 おそらく息が出来なくなったのだろう。

 リョウが背中を押さえて口をぱくぱくしながら、悶絶している。


 正直いい気味だ。


「おやめなさい! 勇者さまと言えど、この城内で暴力沙汰は許しませんよ!」


 フローラ王妃もさすがに堪忍袋の緒が切れたみたいだ。


「早く連れて行きなさい!」


 部屋の隅で待機していた兵らしき人たちが駆け寄ってくると、犯罪者でも連行するように、オレたちを出口へ追い立て始めた。


「早く歩けっ! 止まるな!」


 もうどこが客なのか、どこが勇者さまなのか。

 完全に正体がバレてしまっているんですけど。


「あの、ちょっといいですか?」


 オレはカガヤ母とメイちゃんに両手を伸ばして、それぞれの片手を掴んだ。


「何をしている! 離れろ!」


 兵士がオレたちを掴もうとするのを横目に見ながら――


「リターン」



***



「こ、ここは?」

「ママ、電車が来るよ」


 各停浦賀行きがまさにホームに入ってくるところだった。


 やはり予想通り。

 リターンは、元いた場所に戻る移動魔法だったらしい。

 異世界なのが心配だったが、関係なくて助かった。


「あの、今のはいったい……」


 カガヤ母が、困惑した表情でこちらを見ていた。


「なんでもないです。ちょっとした白昼夢ですよ」


 電車が停止してドアが開いた。


 なんとなくオレは電車には乗らず、カガヤ母娘が座席に座るのを、ホームから見守った。

 

 発車ベルが鳴った。


「ばいばい、お兄ちゃん」


「ばいばい」


 元気に両手を振るメイちゃんに、片手で軽く振り返す。

 電車のドアが閉まる時、カガヤ母はゆっくりと頭を下げた。


 電車を見送りながら、オレは呟いた。


「ステータス」


 うん、まだスキルは残ってる。

 史上最短の異世界召喚でスキルだけもらっちゃった話。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

そのうち続編を、また短編形式で書きたいと思ってます。

いつになるかわかりませんが、気長にお待ちいただけたら嬉しいです。


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