史上最短の異世界召喚
突然思いついて三時間くらいで書いた短編です。
楽しんでいただけたら幸いです。
「ここはどこだ?」
というテンプレ台詞が口から出るのを、なんとか我慢した。
突然白い光に包まれたと思ったら、全く覚えのない薄暗い地下室のようなところにいたんだ。
「なんだここは!?」
「おい、マジかこれ!」
「え、なに?」
「ママー、ママー」
「……ふふふ」
ぱっと見で、オレの他に5人いるようだった。
くたびれた紺のスーツの中年サラリーマン。
やや素行に問題のありそうな人相と身なりの青年。
買い物帰りと思われる母親と、未就学っぽい娘。
トートバッグを胸の前で抱えて俯きながら肩を震わせている女性。
顔よりもその出で立ちで、直前に近くにいた人たちだとわかった。
その日その時間、京浜急行線平和島駅の下りホームで各駅停車待ちをしていた人のうち、ホームの品川寄り、即ち最後尾車両に乗ろうと並んでいた6人全員が召喚されたらしい。
まさか自分が異世界召喚される日が来るとは、夢にも思っていなかったオレは、内心かなり焦りながらも、6人という人数にやや安心感も覚えつつ、落ち着け落ち着けと念仏のように心の中で唱えていた。
「ようこそ、異世界の勇者のみなさま」
キター!
異世界召喚ときたらこの展開だよね。
さぁ問題はこの後だ。
当たりパターンか、外れパターンか――。
金がかかっていそうな派手な衣装の女が、目線よりも高い位置から見下ろしている。
その横には、紺のローブを着た男たちが数名並んでいた。
男たちだけなぜか、みな疲労困憊の様子だった。
「なにをバカなことを言ってるんだ」
「いま勇者っつったのか?」
「ここはどこなの?」
「ママー、ママー」
「……ぐふっ」
「みなさまには特別な力があります。その力で、悪しき魔王を倒してください」
あー、いきなり命令口調ってことは、外れパターンの可能性大だなぁ。
ちくしょう! 一生に一度あるかないかのチャンスなのに……。
「ふざけるな!」
「なんでオレがそんなことしなきゃならねーんだよ」
「メイ、大丈夫よ」
「ママー、ママー」
「特別な力……」
トートバッグの女がここでやっと顔を上げた。
目が合った――めっちゃ鋭い三白眼でニタリと笑った。
「ひっ!」
思わず声出た。
こえーよ! 完全にホラーだよ!
今この状況より、魔王より、お前の方が絶対にこえー。
オレの全身全神経がそう叫んでいた。
その時、頭上の女が、隣にいるローブを着た初老の男となにやら小声で話をしているのが見えた。
こちらに聞かせたくない話なのかもしれない。
そんなこれみよがしにされたら聞きたくなっちゃうなぁ。
自慢じゃないけど、オレは聴力だけは自信がある。
超低音から超高音まで完璧に聞き分けられるんだ。
「……どういうことなの? どいつもこいつも外ればっかり。 まさか失敗したんじゃないでしょうね」
ほらね、聞こえたでしょ。
ってかやっぱ悪いヤツじゃないかこの女。
「……ステータス」
ホラー女がすぐ横で呟いたのが聞こえた。
さりげなく観察していると、さっきまでニタニタしていた顔が、一瞬で不機嫌になった。
よほどステータスがお気に召さなかったのかな。
なら、オレも――。
「ステータス」
目の前50センチほどの空中に、突然バーチャルディスプレイのようなものが現れた。
STATUS:レイジ・アムロ(18)
勇者LV(1)
HP:173
MP:68
SP:31
VIT:15
ATK:13
DEF:13
AGI:18
INT:10
DEX:16
LUK:31
SKILL
・言語翻訳
・隠蔽
・鑑定
・固有魔法:リターン
ステータス、普通過ぎだろ。
もうちょっとテンションあがる程度には高くしてほしいな。
だが、気になる部分もある。
運だけ無駄に高いwww
なんだよ、オレの人生全然いいことなかったのに、こんな目にあったのに運が高いとか。
悪い冗談としか思えないよ。
そして最後の固有魔法とかいうやつ。
オレの予想が正しければ、これは今のオレにとって一番必要かつありがたい魔法のはず。
だが、上の偉そうな女は、外ればかりと言っていた。
本当にそうなのかな。
試しに見てみるかw
「鑑定」
STATUS:トシアキ・ササモト(46)
勇者LV(1)
HP:164
MP:55
SP:49
VIT:16
ATK:15
DEF:18
AGI:12
INT:15
DEX:15
LUK:11
SKILL
・言語翻訳
・占星術
・火属性魔法
・土属性魔法
ん? 運以外はオレよりまともじゃないか。
しかも属性魔法二種類持ちとか。
占星術ってなんだよ、もしかしてオッサンの趣味かw
だがどのみちこの世界の星じゃ、役に立たないかもしれないなぁ、残念。
「鑑定」
STATUS:リョウ・ヒガシヤマ(21)
勇者LV(1)
HP:182
MP:47
SP:51
VIT:15
ATK:19
DEF:14
AGI:14
INT:8
DEX:13
LUK:15
SKILL
・言語翻訳
・加速
・罠解除
・闇属性魔法
あったま悪っ。
だが、それ以外はそこそこに思える。
罠解除に闇属性って、やっぱこいつ小悪党なんだろうな。
加速は地味に脅威なんじゃないのかな。
「鑑定」
STATUS:ユキエ・カガヤ(34)
聖女LV(1)
HP:135
MP:85
SP:45
VIT:13
ATK:8
DEF:11
AGI:12
INT:38
DEX:19
LUK:11
SKILL
・言語翻訳
・魔力UP(中)
・魔法防御(中)
・聖属性魔法
え、この人だけ聖女?
レアなんじゃないの?
スキルも良さそうなのに、ダメなのこれでも?
「鑑定」
STATUS:メイ・カガヤ(5)
勇者LV(1)
HP:42
MP:33
SP:27
VIT:8
ATK:3
DEF:3
AGI:4
INT:10
DEX:15
LUK:15
SKILL
・錬金術
・反射
・水属性魔法
娘、5歳なのか!
ステータスさすがにやばい。
スキルも3個しかない。子供だからか?
どっちみちこれじゃとても戦えないよ。
だけど、致命的なのはそれよりむしろ「言語翻訳」がこの子だけない!
母親と離れたらもう生きてくのも大変レベルじゃないか。
ユキエさん、絶対メイちゃんと離れちゃダメだよ。
そして最後は――正直あまり見たくはない。
見たくはないが、こいつだけ見ないのもなんだか癪だから仕方がない。
「鑑定」
STATUS:ヒナ・カシワバラ(23)
勇者LV(1)
HP:158
MP:88
SP:44
VIT:17
ATK:17
DEF:15
AGI:13
INT:22
DEX:19
LUK:11
SKILL
・言語翻訳
・分身
・召喚術
・雷属性魔法
いやいやいや、やっぱこえーよお前。
スキルも普通にやばいよ。
なんか召喚して、分身して、雷落としまくるのが見えるようだ……。
ごめんなさい、関わりたくないです。
「勇者のみなさん、どうか今日のところはゆっくり休んでください。向こうに個室をご用意しております。詳しい話はまた明日にでも……」
「おい!ちょっと待て!」
リョウとかいうヤツが大声で話を遮った。
女はいかにも不快そうに顔を歪めたが、すぐに作り笑いに戻る。
「どうしましたか、勇者さま」
「お前、いったい誰なんだよ。勇者だなんだってわけわかんねーこと言う前に、こんなとこに呼び出した責任者呼んで来いや!」
あー、まぁ気持ちはわかるけれど、もう少し言い方。
「わたくしが責任者のフローラです。この国の王妃です」
「おーひ?」
「王様の奥さんだよ」
ササモトさん、ナイスフォロー。
「ああ、そうか。じゃあオレたち王妃様の客ってことなら、それなりのことしてもらわないとなぁ」
リョウがふんぞり返って横柄にしゃべる傍らで、今度はカガヤ母が発言した。
「あの、すみません。これから夕食の支度をしなければならないので、できるだけ早く返していただきたいのですが」
「はぁ?バカかテメェ。今まで何聞いてやがったんだよ」
「ママにバカって言うな。このバカ!」
「やめなさい、メイ。そんなこと言っちゃいけません」
「だってぇ……」
「だってじゃねーよ!」
ボカッ!
いきなりリョウがメイちゃんの頭をグーで叩いた。
「うわああああああああん!!!」
火がついたように泣き出すメイちゃん。
「なにするんですかっ!!」
メイちゃんを抱きしめてリョウから引き離すカガヤ母。
「君ぃっ! そんな子供に暴力を振るうとは、けしからん!」
ササモトさんが、リョウの右腕を両手で掴むと、そのまま見事な一本背負いでリョウを地面に叩きつけた。
バンッ!
「ぐあっ!!」
おそらく息が出来なくなったのだろう。
リョウが背中を押さえて口をぱくぱくしながら、悶絶している。
正直いい気味だ。
「おやめなさい! 勇者さまと言えど、この城内で暴力沙汰は許しませんよ!」
フローラ王妃もさすがに堪忍袋の緒が切れたみたいだ。
「早く連れて行きなさい!」
部屋の隅で待機していた兵らしき人たちが駆け寄ってくると、犯罪者でも連行するように、オレたちを出口へ追い立て始めた。
「早く歩けっ! 止まるな!」
もうどこが客なのか、どこが勇者さまなのか。
完全に正体がバレてしまっているんですけど。
「あの、ちょっといいですか?」
オレはカガヤ母とメイちゃんに両手を伸ばして、それぞれの片手を掴んだ。
「何をしている! 離れろ!」
兵士がオレたちを掴もうとするのを横目に見ながら――
「リターン」
***
「こ、ここは?」
「ママ、電車が来るよ」
各停浦賀行きがまさにホームに入ってくるところだった。
やはり予想通り。
リターンは、元いた場所に戻る移動魔法だったらしい。
異世界なのが心配だったが、関係なくて助かった。
「あの、今のはいったい……」
カガヤ母が、困惑した表情でこちらを見ていた。
「なんでもないです。ちょっとした白昼夢ですよ」
電車が停止してドアが開いた。
なんとなくオレは電車には乗らず、カガヤ母娘が座席に座るのを、ホームから見守った。
発車ベルが鳴った。
「ばいばい、お兄ちゃん」
「ばいばい」
元気に両手を振るメイちゃんに、片手で軽く振り返す。
電車のドアが閉まる時、カガヤ母はゆっくりと頭を下げた。
電車を見送りながら、オレは呟いた。
「ステータス」
うん、まだスキルは残ってる。
史上最短の異世界召喚でスキルだけもらっちゃった話。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
そのうち続編を、また短編形式で書きたいと思ってます。
いつになるかわかりませんが、気長にお待ちいただけたら嬉しいです。





