婚約破棄されたら、なぜか各国の王子から求婚が殺到しました!? ~反逆者呼ばわりされた令嬢、実は各国の恩人でした!!!~
「クラリス・エッジワース! 貴様との婚約は、本日をもって破棄する!」
大講堂に響き渡る第一王子アルフレッドの声を聞きながら、わたくしは静かにため息をついた。
「殿下、理由をお伺いしてもよろしくて?」
「貴様が裏で他国の要人と密会し、この国の情報を売り渡していたという証言がある!」
「まあ........それはまた、随分と創造力豊かな証言ですことね?」
「証言者はここにいるぞ! さあ、名乗り出るがいい!」
促されて進み出たのは、下級貴族の令息だった。ずっと以前、わたくしに縁談を断られたことを根に持っている男である。動機が実に分かりやすい......
「――なるほど、そういうことでしたのね」
事情を察したわたくしが小さく笑うと、アルフレッドは苛立たしげに声を荒らげた。
「なぜ笑っていられる......!? 貴様は国家反逆の罪に問われているのだぞ!」
「あら殿下、反逆というものは、もう少し証拠を固めてから仰るものですわよ。この程度の言いがかりで断罪ごっこを始められては、こちらの品位まで疑われてしまいますもの」
「ご、ごっこ、だと……!?」
「ええ。証拠が令息お一人の言葉のみとは、随分と心もとない裁判でございますこと。この程度で反逆罪が成立するなら、わたくし、明日にでも殿下を『わたくしの縁談を邪魔した罪』で訴えて差し上げたいくらいですわ」
「なっ、それとこれとは話が違うだろう!!!」
「あら、証拠の質という意味では大して変わりませんことよ?」
会場のあちこちから失笑が漏れ始めたその時、大講堂の扉が勢いよく開かれた。
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「――待たれよ!!!」
朗々とした声とともに現れたのは、見覚えのある異国の正装をまとった青年だった。
「オリエンス王国、第二王子カインだ!! クラリス嬢を反逆者と呼ぶとは、聞き捨てならぬ」
「な、なぜオリエンスの王子がここに……!?」
うろたえるアルフレッドを尻目に、カインは堂々とわたくしの前に進み出た。
「二年前、我が国の視察団が国境の山賊に襲われた際、覆面の令嬢が颯爽と現れ、我々を救ってくれた。その正体が、クラリス嬢だと突き止めるのに随分と時間がかかったが――ようやく答え合わせができたな」
「あら、律儀に調べていらしたのね? 感心いたしますわ」
「感心している場合か.......私はあの日から、貴女に会う機会をずっと窺っていたのだぞ」
「まあ、それは光栄ですこと。もう少し早く名乗り出てくださっても構いませんでしたのに」
「正体を隠していたのは貴女の方だろう.....?」
しれっと肯定するわたくしに、会場がどよめいた。だがそのどよめきは序の口に過ぎなかった。
「待て、それがしも黙ってはおれん!」
続けて扉から現れたのは、メリディアス王国の王子ダミアンだった。
「一年前、我が国の使節団が疫病に苦しんだ折、身分を隠して薬と知識をもたらしてくれた恩人こそ、クラリス嬢その人だと聞き及んでいる!!!」
「あの時の商人、正体がバレておりましたのね。少々詰めが甘かったようですわ」
「詰めが甘いなどと言えるあたり、貴女らしいというべきか........それより、まさか薬売りの変装まで様になっていたとは、末恐ろしい」
苦笑するダミアンの声に重なるように、三人目の声が響いた。
「私はオクシデントの第三王子リアムだ。クラリス嬢には、我が国の暗殺未遂事件を未然に防いでいただいた恩がある。この場で失礼を働くというなら、我が国としても黙ってはいられぬぞ!!」
三国の王子が揃い踏みするという異例の光景に、アルフレッドは完全に顔面蒼白になっていた。
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「ちょ、ちょっと待て……クラリス、お前は一体何者なんだ……!?」
震える声で問いかけてくるアルフレッドに、わたくしは優雅に扇を広げて見せた。
「あら殿下........反逆者だと断じる前に、そのくらいはお調べになるべきでしたわね?」
「そ、それは……」
「ちなみに殿下、この国の情報を売り渡したという証言、その証言者の令息、実は隣国の商会と個人的な借金トラブルを抱えていらっしゃいますの。証言と引き換えに、借金の肩代わりでも持ちかけられたのではなくて?」
「なっ……!!!」
図星を突かれたらしい証言者の顔が、見る間に青ざめていく。周囲の貴族たちの視線が、一斉に彼へと突き刺さった。
「クラリス嬢、貴女を娶りたいと考えているのは私だけではないようだな?」
カインが一歩前に出ると、ダミアンとリアムも負けじと並び立った。
「正式に求婚を申し込ませていただくのは私だ!」
「私も同様だ!! むしろ最初に名乗り出たのは私のはずだが?」
「いや.......恩を受けた期間の長さで言えば私の方が――」
「期間の長さより、命の危険度で比べるべきだろう? 山賊に襲われた私の方が切実だったはずだ」
「疫病の方がよほど命に関わる話だと思うが?」
「暗殺未遂を防いでもらった私が一番深刻に決まっている」
三人が言い争いを始める光景に、わたくしは思わず笑いを堪えきれなくなった。断罪の場のはずが、いつの間にか求婚合戦の会場に早変わりしている。
「あら、皆様お待ちくださいませ。順番に伺いますので、喧嘩なさらないでくださいまし」
「「「クラリス嬢!!!」」」
声を揃えて詰め寄る三人に、わたくしは扇の陰でくすりと笑った。
「では、まず質問に答えていただこうかしら。皆様、わたくしのどこがお気に召したのかしら?」
「――そ、それは......」
「危機に動じない胆力だ!!!」
「知略に長けたところに惹かれた」
「いや、優しさと強さを兼ね備えたところだろう」
食い気味に答える三人の様子に、わたくしはとうとう扇を口元に当てて笑いを噛み殺すのをやめた。
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「ま、待て……この状況で、私との婚約はどうなる……!?」
蚊帳の外に置かれたアルフレッドが、震える声で割り込んでくる。わたくしは彼にゆっくりと視線を戻した。
「殿下、婚約は先ほどご自身が破棄なさったではございませんか? まさか、証拠もなく断罪した挙句、都合よく前言撤回なさるおつもりで?」
「そ、それは……!? しかし、状況が変わったのだから――」
「都合が悪くなった途端に前言を撤回なさるようでは、殿下の言葉に何の重みもございませんわね? それに、三国の王子方が揃って求婚なさっている女性を、証拠もなく反逆者呼ばわりした事実は消えませんもの」
「殿下は、証言一つで大国の恩人を切り捨てようとなさった。その判断が、他国からどう見えるか――少しはお考えになった方がよろしいのでは?」
カインが冷ややかに言い添えると、アルフレッドの顔色はさらに悪くなった。
「い、いや、その、証言をきちんと精査していれば……」
「精査もせず断罪なさったのは、殿下ご自身ですわ。今さら悔やんでも遅うございますわよ?」
三人の王子たちが、そろって冷ややかな眼差しをアルフレッドに向けた。国際問題に発展しかねない失態を犯した第一王子の未来は、推して知るべしというものである。
先ほどまで得意げにわたくしを断罪していた証言者も、周囲の視線に耐えかねたのか、いつの間にか会場から姿を消していた。逃げ足だけは大したものである。
「クラリス嬢、これに懲りたら、次は正々堂々こちらから口説かせていただこう」
「私も、同意見だ!!!」
「私が一番に選ばれる自信があるがな」
三者三様に宣言する王子たちを前に、わたくしはとうとう声を立てて笑ってしまった。
「あら、まずは皆様、わたくしの好みの一つでも把握なさってからにしてくださいませ」
会場中に響く笑い声の中、断罪されるはずだった夜会は、思いもよらない形で幕を閉じようとしていた。
――もっとも、この騒動が国際的な話題になるのは、まだ少し先の話である.....
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三国の王子たちの求婚合戦、これからどう転がっていくのか、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると、幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




