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貸出禁止の人生図書館

作者: 暁夜

勢いで書いた短編なので誤字脱字や矛盾点などあると思いますが、生暖かい目でスルーしていただけると嬉しいです。

大学生の来宮きのみや理斗りとには後悔がある。それはある友人を見捨ててしまったことだ。

友人は親子関係や学校、塾での人間関係が上手くいかず悩んでいた。どこにも居場所のない友人にとって、おそらく唯一の心の拠り所であり相談相手であったのが理斗だった。

初めのうちは理斗も、純粋にその友人を心配してでの行動だった。放課後、学校の門限ギリギリまで友人の相談に付き合ってやり、学校を出たあとも夜が更けるまで話していた。

ただそれも3年、4年、5年と付き合いが長くなっていくうちに理斗はだんだんうんざりしてきた。解決策をどれだけ提示しても、友人のある行動を必死で止めようとしても全く解決の兆しが見えないのだから。

転機は高校三年生の時。理斗が友人と会って6年目の春だ。それまで5年間同じクラスだった友人が別のクラスになった。それが偶然では無いことを理斗は知っていた。彼が担任に頼んだのだ、「来年はアイツと違うクラスにしてくれ」と。

その後の大学受験では地元から遠く離れた県の大学を受験した。何とか友人と距離を置きたかった。頭のどこかで「友人を見捨てることになるんじゃないか」という葛藤があった気がした。そんなものも、第1志望の大学の合格通知でどこかへ消し飛んでしまった。


大学に入学した理斗は、新しい土地でできた新たな友人と一緒に時間過ごした。しかし気は抜けない。親身になって相談に乗ると中学校と高校の二の舞になってしまう。理斗は全ての友人から一定の距離をとって接していた。

他愛のない会話で流れる時間は、理斗にとって天国のようだった。無駄に神経を使わなくていいし、何より自分の言葉で誰かが笑ってくれるのが嬉しかった。

しかしある日、新しい生活に馴染んできた頃、理斗はふとスマホのメール画面を見た。


「なあ……少し相談に乗って欲しいんだけど……」


長いこと見続けたのと同じ文面。一気に現実に引き戻される感じがした。

出来れば関わりたくないと思っていた。しかし、気づけばすぐ様返事を返していた。


「どうした?何かあったのか?」


ああ、まただ。これ以上続けたら、また陰鬱になるのに。わかっているのに。

無視をして返信をしないのは簡単だ。だが、そうしようとする度考えてしまう。


(お前が返事を返さないとアイツはどうなる)

(自分で足を突っ込んだのならきちんと解決しろ)


相手からの返信が途切れるまでメールを返し続ける。一息ついて時計を見るともう夜中の3時だ。


「明日一限からなんだけどなあ……」


興奮して眠れない頭を無理やり枕にうずめ、理斗は布団に潜り込んだ。



しばらくは、再び友人から連絡が来るのではと半ば怯えながら過ごしていた。しかし、一ヶ月経っても、二ヶ月経っても、半年経っても、メールは来なかった。

いくら大学が離れたからって、そんなにメールが来ないのには理斗も不思議に思わずには居られなかった。たった1ヶ月の長期休暇の間でも二三度メールをよこした相手なのだ。不自然に思ってもおかしくないだろう。


(大学むこうで新しい友でもできたんだろうか……)


この時の理斗は呑気なもので、せいぜいこの程度にしか思っていなかった。



半年ぶりに帰省し、母校の高校に立ち寄った時、理斗は友人の訃報を聞いた。


-----------------------------------------------



母校からの帰り道、放心状態だった。

死因は事故死だったらしい。青信号を渡っていた友人は、赤信号を無視した車に跳ねられたとの事だった。

誰の目から見ても不運な事故だ。

ただ、理斗の内心は全く穏やかではなかった。

アイツは自分を恨んでいるんじゃないか。前よりも親身になってくれなかった自分のことを恨んでいたんじゃないか。

あの事故死は本当に事故死だったのだろうか。

誰かに心の内を見られていたら「自意識過剰じゃないか」「気にしすぎじゃないか」と呆れられて笑われていたかもしれない。

理斗自身もそう思っていた。そう思いたかった。

しかし願望と裏腹に、理斗の頭の中はぐるぐると黒い渦を巻いていった。


ふと、視界の端の掲示板に目がいった。至って普通の町内掲示板のようなそれの真ん中に、見たことないようなチラシが目に止まった。それは決して派手ではなかったが、妙に目を引いた。


『人生図書館 この先の角を曲がってすぐ』


不思議な迷彩模様のような柄の上に、ゴシック体の文字でそう書かれていた。

なんだこれと考える間もなく、足が勝手に示された方向に進んでいた。脳からの司令を無視した足が、見たことの無い裏路地を進んでいく。



気がつくと理斗は、本だらけのずっしりとした見知らぬ空間に来ていた。

直感的に気づいた。

ここが「人生図書館」なのだと。


「ん?ああ、なんだ。客か。」


前方から聞こえたぶっきらぼうな声に、理斗の意識は引き戻される。

目の前には、一見サラリーマンのように見えるメガネの若い男が真顔で立っていた。格好はワイシャツにネクタイにスーツのズボンと、どう見ても夏場のサラリーマンだ。身長は高いが年齢は理斗と同じくらい……20代くらいだろうか。ヒゲひとつない綺麗な顔と引き替えに、適当に一つくくりにされたどう見ても手入れを怠っているようなボサボサな髪が理斗の目には異様に映った。


「初めまして。」

「……?!は……はじめまして……?」


男は急に声色を変えて話しかけてきた。今度は物腰柔らかな妙に優しい声だった。

しかし相変わらず無表情だ。声色に対して不釣り合いな全ての感情が抜け落ちてしまったようなその顔が、男の不気味さを引き立てていた。


「申し訳ありませんが、担当の者は現在席を外しております。もう少々お待ちください。」

「は……はぁ……」


なんというか、ただただ怖い。その表情のどこからそんな優しい声が出るのだろうか。


「りんたろー、その中途半端ビジネスモードやめときなよ!お客人が怖がってるでしょー!」


今度は理斗の頭上から、幼い声が降ってきた。

見上げると、そこにはパーカーの上にコートを羽織った少年……いや、少女かもしれない。そんな姿が目に映った。

それはスタンッ!と理斗の目の前に降り立ち、満面の笑顔を見せてきた。


「やあやあ初めまして!ボクは詩初うたはじめ瀬戸せと!みんなからはシショって呼ばれてるんだ!」


首にかけた名札を見せながら明るい声で自己紹介をしてくる。

なるほど、苗字の読み方を変えて詩初シショなのだろう。


「さっきは助手がごめんね〜、怖い人でも悪い人でもないから安心して!コイツは輪太朗りんたろう!ボクの助手だよ!」


輪太朗と呼ばれた男は、理斗に向かってぺこりとお辞儀をする。よく見ると胸元に名札がつけられている。


「怖がらせてしまったようなら悪い。」

「いえ……大丈夫…です……」


自分の声が震えているのがわかる。この不思議な空間に圧倒されたのかもしれないし、変な2人組にしり込みしてしまっているのかもしれない。


「それで、君の名前は?」

「あ……りと…来宮理斗です……」

「理斗か、わかった!それで、どなたのアルバムをお求めかな?」

「アルバム……?」


一体なんの話だ?図書館にアルバムなどあるものなのか?


「瀬戸、これはまず説明をした方がいいんじゃないか。」

「あれ、噂とかで予め聞いてるもんだと思ったけど……」

「あ、えっと……なんか、歩いてたら偶然ここに……」

「ああーそういう事ね!分かった、ならば説明しよう!ここは死んだ人の一生が綴じられたアルバム、名付けて‘’人生アルバム‘’を集めた図書館なのだ!」


理斗は動かない頭を無理やり動かし、ゆっくりと今言われたことを反芻する。

死んだ人の一生を見ることの出来るアルバム……そんなものが存在するのか?


「人生アルバム……?」

「そう!アルバムと言ってもただ出来事が綴られるだけじゃなくて、その人にとって大きな出来事には補足メモが付いてたりする。要はその人の一生をまとめた一冊の本ってワケ!」

「本とアルバムは違うんじゃ……」

「細かいことはいいの!」


理斗の言葉に瀬戸はムスーっと頬を膨らませる。

そこにすかさず輪太朗が口を開く。


「それで、アンタは一体誰のアルバムを求めてきたんだ。ここに来たってことは、死んだ誰かに対して心残りがあるんだろ。」


その言葉が理斗に刺さる。心残り。確かにあるだろう。

ただ……


「あるにはありますけど……」


アルバムを見たところで、何ができるのだろう。結局自分が安心したいだけじゃ無いだろうか。

心残りと言っても、今の理斗にとっての最優先事項は事故死の原因が自分で無いことを証明することだ。

……恐ろしいのだ。もし友人の死が不注意の事故じゃなくて……もしかすると……そしてその原因が自分なのでは無いかと思うと……


「結局、自分は自分が安心したいだけなんです……アイツに何か思い入れがあるわけでも…」

「あーうるせえ。とりあえず読め。」


しゃがみこむ理斗の頭に、輪太朗はドスッと分厚いアルバムを乗せる。


「いっ?!」

「これだろお前が探してるものは。コイツ、お前がブツブツ何か言い出した瞬間俺に突っ込んできたんだよ。」


理斗はアルバムを手に取る。黒い表紙に、見覚えのある名前がローマ字で書かれている。


「とわ…かわはら……川原斗和……」

「……これは君の友達かい?」

「……うん…」


表紙を、1ページ目をめくる。そして2ページ目、3ページ目、4ページ目…………

理斗は知らなかった、いや、聞いたことはあった。斗和が幼い頃の家庭環境。両親が叩いてくる、殴ってくる、暴言をあびせてくる、そんなことは当たり前。いじめが蔓延る小学校、不登校になることも許されず、我慢して学校に通っていた小学生の頃。

斗和の口から聞いたことはあっても想像するしか出来なかった現実が、カラーの写真と共に眼前に叩きつけられる。


「う……」

「大丈夫?無理して読まなくても……」

「まだ大丈夫です……」


少し進むと、中学生の頃の写真が増えてきた。何故か灰色な桜の写真。そのほかの写真も、カラーなのにモノクロのような、不思議な色合いをしている。

さらにもう1ページめくってみる。


「……!」


その瞬間、溢れんばかりの色がページいっぱいに広がる。さっきまでの灰色が嘘のようだ。

その色はその先何ページも続いていた。中学二年生、三年生、高校一年生、二年生。

特に高校三年生の写真はより一層煌びやかだった。そういえば、クラスは別になっても遠足や修学旅行の自由行動の時は一緒に行動していた。

北海道のテレビ塔、ハスカップのジェラート。東京に行った時のスカイツリー。2人は共に写っている写真は、そのほかのどの写真よりも輝いて見えた。


「斗和にとって、理斗とのこの思い出はさぞかし素晴らしいものだったんだろうね!すごく楽しそう!」

「修学旅行で北海道か。俺も行ったな。」


最後のページは、何故かがっちりと封がされていて開けなかった。まるでめくられるのを拒んでいるようだ。


「あれ…なんだこれ」

「お前に見せたくないんだろ。噂じゃ全身を強く打って即死だったらしいからな。」


輪太朗がそう言い、理斗の手からアルバムを取り上げる。

するとアルバムは、まるでひと仕事終えたと言わんばかりに満足気に本棚に向かって飛んで行った……ように見えた。


「いい友情じゃないか〜」


瀬戸がうんうんと満面の笑みで頷いている。


「どうよ理斗?斗和は君を恨んでなんかないし、むしろ君に感謝していたんじゃないかな?」

「……」

「なにか言いたげだな。」


パッとしない表情の理斗に、輪太朗は言い放つ。


「……正直、高校の頃とか、アイツにしょっちゅう相談されるの……鬱陶しかったんだ。でも、さ…それのお陰でアイツが満足な人生送れてたなら……無駄じゃ無かったんだなって……」


そう話す理斗の声は震えている。顔を伏せているせいで、瀬戸と輪太朗にはその表情は見えなかった。


「理斗……」


オロオロとする瀬戸を横目に、輪太朗は理斗の頭にポンッと手を置く。


「…………」


ぶっきらぼうで無表情な男の手は、優しい温もりがあるような気がした。



--------------------------------------------------



理斗は気がつくと、元いた通りに立っていた。空は夕焼けに染っていて、遠くではひっきりなしに走る車やバイクのエンジン音や電車の走る音が聞こえる。

正直、ここ数時間の記憶が無い。でも、頭の中はかなりスッキリしたように感じる。

ふと、時間が気になってスマホを手に取る。


「ん?」


見知らぬ番号から写真が送られてきている。

普段ならもう少し開くのに躊躇するものだと思うが、何故かすぐさまそれを開いてしまっていた。


「!」


そこには、撮られた覚えのない数々の美しいツーショットが貼られていた。自分と友人…理斗と斗和が満面の笑みでピースする写真、東京の夜景、北海道の旅館でのカードゲーム……


「この写真、一体どこから……?」


さらにメールを見ようとしたところで、母からの連絡の通知が来る。


『今どこにいるの?もうすぐご飯だから早く帰ってきなさいね』


これは急いで帰らなければ。理斗はスマホを閉じると、少し小走りで帰路に着いた。


瀬「理斗、大丈夫かなー?」

輪「あいつは強い。もう問題は無いだろう。」

瀬「…それにしてもりんたろーがあんな事するなんてねー!頭ポンって」

輪「……かける言葉が分からなかった。」

瀬「でも、きっと気持ちは伝わってると思うな!なんとなくだけど!」

輪「なんとなくかよ。」

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