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西洋風のお城

「お通夜が重なると忙しいぜ。なあ、九さん」

「そうですね。でも文句は言ってられないですから。早いとこ行きましょう」

 千代の通夜を済ませた俺と弦さんは、おクマさんの家までに急いで駆けた。

「なんだこりゃ! こりゃまた随分と立派なと言うか、変わった家だ……」

 弦さんは家を仰ぎ見て呆然としている。俺も思わずあんぐりと口を開けた。

 銀座のビルが立ち並ぶ一等地に、個人のお屋敷が邪魔なくらい幅を利かせている、のならまだいい。どこまでも続く高いブロック塀の奥に、派手な原色をギドギド塗りたくった西洋風のお城が建っている。見ているだけで目がチカチカしてしまいそうだ。頑丈な鉄の扉から敷地に入ると、ゴルフで使う幌つきカートが一台止まっている。

 一足早く来ていた真弓がカートから顔を出した。なぜかとても嬉しそうな顔をしている。「そろそろ来ると思ったんで、お迎えに来ましたよ」

「カートでお迎え? そうか、見ればお城まで距離がありそうだ」

「九さんも弦さんも、これで驚いてちゃいけませんよ。行けば分かるから、早く乗ってください」

 真弓が運転するカートは、芝生を横目にくねくねとした細い道をトコトコ走り、何体もある大理石の像とゴージャスな噴水を抜け、やっとどぎついお城に着いた。

「近くで見ると、ますますひでえな……」

 弦さんは眉間に皺を寄せた。俺はもうなにがあっても驚きはしない、と心に決めカートを降りた。

 三メートルはあろうかと言う両扉が開くと、小さい弓吉が出てきた。まるで巨人の家から、小人が出てきたようだ。

「おう、ご苦労さん。わざわざすまねえな。さあ、入った入った」

 家の中に入り、決めていたはずの俺の心は無残にも砕け散ってしまった。

 ここは本当のお城の中だ。家丸ごと一軒は入るであろう面積に、十メートルはある高い天井から、どでかいシャンデリアが釣り下がり、正面に宝塚の皆様が踊りながら下りて来るような階段があった。それも、赤い絨毯が敷かれて。

 俺も弦さんも目が点になり立ちすくんでいると、弓吉が手招きした。

「なにやってる。こっちだぜ」

 我に返った俺達は、フラフラと弓吉のあとに続いた。

 ピンク色した大理石の廊下を進み、通された部屋は今までとはなぜか場違いな雰囲気の畳敷きだ。

「九さん、俺はなんか酔っちまったよ……」

「俺もです……。家酔いようですね。はぁ~」

「ねっ、驚いたでしょ」

 真弓が嬉しそうに笑った。

 殿様のようなふかふかの布団におクマさんは寝かされている。それも、やはり派手な原色だった。

 羽田と天野もすでに来ていた。天野は酒をかっ喰らっているが、羽田はガチガチに正座してかしこまっている。だが、緊張しているのは、羽田だけではない。キューピット会社の三代目前社長の天童善衛門と、四代目の現社長天童矢吾郎もかしこまって座っている。無理もない。大天使のノンちゃんがそばにいては、顔も引きつるだろう。

 しかし、通夜に来ているのはこれだけしかいなかった。地球を統括し、尚且つこれだけの財を成したおクマさんなら、各国の政財界や財閥の人間が来てもおかしくない。弓吉に聞くと、「あいつは嫌われているのよ」で片付けられてしまった。だが、弓吉は寂しそうにこんなことも言った。

「あいつのお陰で、地球の人間は守られているのにな。おクマがいなけりゃ、とっくに地球は核でお陀仏してんだぜ。なにもしてねえように見えるけど、要所要所はちゃんと抑えていたのよ、あいつは……。まぁ、意地が悪いから、人間の好き勝手にさせてたようだけどな。じゃなかったら、もっと平和になってるよ」

 意地が悪いのは納得できるが、それでも地球にとっては重要人物のはずだ。

「おクマさんが居ないと、地球は誰が統括するんです? 代わりが必要ですよね」

「もう必要ねえだろ。人間達だけで上手くやっていくんじゃねえか。それによ、おクマの通夜にも来ねえ人間なんざ、ほっとけばいいんだよ」

 弓吉はにがにがしく言う。なんだかんだ言っても、誰も来ないので怒っているのだろう。おクマさんがいなくなり、大神の弓吉には見放されては、この先地球の人間も大変だ。だが自業自得かもしれない。

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