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眼で見るな、心の眼で見よ

 キューピットの自覚などしていない俺は鼻で笑った。

「ふふっ、キューピットってなんだよ。親父も汚いおもちゃの弓矢を渡すしよ。一体なんなの? かくし芸でもやれってことか?」

「黙りなさい! あたしの話を聞きなさい」

 お袋は厳しい口調で言うと自ら正座をし、俺にも座るように睨み付けた。


 その時から俺のキューピット人生が始まったのだが、手紙一枚の申し伝えがあっただけで、誰からもやり方も何も聞いてやしない。お袋はただ単にキューピットの歴史を教えただけで、自分でも詳しくは分かっていないようだ。

 親父の場合は、爺さんが長くキューピットの役目をしていたので、受け継いだ年齢が遅い。尚且つ早死にした為に、キューピットになっていた期間が三年しかない。お袋もその期間のことしか知らないのだ。キューピットになった本人と、嫁さん意外は知らされないしきたりだからだ。

 しかし、俺も弓矢を担いで持ち歩くようになると、徐々に色々な事が分かってきた。

 人間もピンク色の弓と矢を一本ずつ、老若男女問わずに誰でも持っている。だがそれはキューピットだけにしか見えない。人間の持つ弓矢は胸の中心にある。矢を上に向けて弓の弦で引っ張っている格好をしているので、弓矢全体の形はハート型に見える。

 好きな人がいる場合、自分が持っている矢を相手のハート型した弓に撃ち込むと、その相手も持っている矢を撃ち返して恋が成就される。しかし、キューピットとは違い、人間は実際に弓で矢を撃つのではない。恋愛感情が芽生えると、勝手に矢が恋する相手にめがけて飛んで行くのだ。

 だが、そこはそう上手くはいかない。

 矢を撃っても、ハート型をした弓のど真ん中に撃ち込まないと相手は見向きもしない。良く見かけるのは、美人の女性は弓ハートの回りに何本もの矢が突き刺さっている。それは片思いで撃ち込む男が多いが、的からそれてしまって恋愛には発展しないということだ。その逆の男女関係も当たり前だがある。

 そこで、キューピットの俺達が手を貸してやる。キューピットなら確実にど真ん中を貫いてみせる。やり方は簡単だ。人間の男女が持っているそれぞれの矢を拝借して、キューピットの弓でその矢を両方の弓ハートのど真ん中に撃ち込むだけ、それだけで上手くいく。

 キューピットに成り立ての頃は好奇心もあって、だれかれ構わず撃ち込んでいた。

 知らないのは罪な事で、今思うと可哀想な人も出してしまった。

 人間同士が撃ち込んでいるのはいいのだ。だが、恋は冷める時もある。

 恋が冷めてしまうと、異性からど真ん中に撃ち込まれた矢でも、自然とポロリと抜けて持ち主に帰って行く。そうなると、今度は相手に撃ち込んだ自分の矢も回収されるわけだが、振った相手に突き刺さった矢は、自然にポロリなどとはいかない。恋が冷めているわけではないので、半ば強引に引っこ抜かれるのだ。

 自然に抜けた矢の傷口はきれいに塞がるので、後遺症もなければ未練などもない。だがそうではなく、強引に引っこ抜かれた矢の傷口はきれいに塞がらない。傷口は疼き未練タラタラで、癒えるまで時間がかかる。だから失恋すると傷は深い。

 それで、キューピットが撃ち込んだ矢だが、その矢は二度と抜けないのだ。撃ち込んだ当人のキューピットが抜こうと頑張っても、一度刺さった矢は決して抜けない。

 可哀想な人というのは、学校で一番美男子のA君と、一番不美人女子のB子さんに冗談半分で撃ち込んでしまったことがある。当時は学校でも凄い話題だった。

「なんでA君が?」「どうしてB子が?」

 俺はその時はかげでニヤついていた。卒業する時に抜いてやろうと思っていたからだ。しかし、抜けなかった。どうやっても駄目だった。可哀想に二人は結ばれてしまった。

 だが、毎年届く写真年賀状には、子供六人に囲まれた幸せそうな二人の顔を見ることができる。可哀想ではなかった、と思い聞かせているのだが、深く反省もしている。

 年賀状が届く度に、亡き親父の手紙を読み返すのである。

 一つ 眼で見るな、心の眼で見よ。

 一つ 真実の愛を見極めよ。

 一つ 撃ち込んだ愛は真っ当させよ。

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