戦闘と覚醒
昨日は、たしか五十嵐先生の実験に付き合って寝たよな!?それがなんでこんなところにいるんだ?もしかしてまだ夢の中か?いや、ここまで意識がはっきりしているのだから、それはない。もしかして、五十嵐先生の実験が失敗して、すでにここは天国とか?
自分の体をつねったり、叩いたりして、夢から覚めようとしてみたり、周りを見渡して、羽の生えた天使の姿を探してみる。だが、そのどれも意味がなかった。その後も、色々なことを試したが、全く現状に変化がない。青空に浮かぶ雲がゆっくりと流れていくだけだ。
僕は自分自身に原因を求めるのを諦めて、とにかく歩いて何かを探してみることにした。ここが天国なら、神様とかを見つけられるかもしれないし、夢なら、現実世界で五十嵐先生が僕の夢の異常に気付いてくれるはずだ。
「いや、やっぱり五十嵐先生に騙されたのか?」
病院ぐるみで何か危険な実験をしていた可能性もある。だけど、なんか五十嵐先生は悪い人じゃない気がするんだよな。どちらかといえば、社会に不適合なところに親近感すら覚える。同族の香りがする、とでもいえばいいのだろうか。
そんなことを考えながら立ち上がり、行く当てもなく歩き始めたその瞬間。
足元から岩を穿つような音が聞こえてきた。
バキッ、ボキッ、ゴゴゴゴゴゴ…。
このすがすがしい草原に似つかわしくない轟音。さらには、地面がガタガタと震えだした。明らかに異常が発生している。
自分の生存本能に促されるままに、僕はこけそうになりながらも前へと駆け出す。その数秒後、
ドゴォォォォォォン!
破砕音が鳴り響き、僕は爆風で前方へと吹きとばされる。顔面から地面に突っ込み、擦り傷を負いながらも後ろを振り返ると、今さっきまで僕が踏みしめていた草原の下の岩盤が、へし折られていた。
そして、そこに現れたのは、岩石で体が構成された、虎だった。虎の背中からはグラグラと煮えたぎる溶岩がながれだし、虎特有の縞模様を作り出している。四肢の先には黒く鋭い爪があり、瞼の中にある極彩色の瞳孔がこちらを見つめていた。
と、虎がこちらを見た。吹き飛ばされた僕と目が合う。虎が咆哮をあげた。その瞬間、僕は自らの終わりを悟った。走って逃げ切れるはずもないし、戦う方法も持ち合わせていない。虎の牙が眼前に迫る。虎の口の中にはマグマが煌々と光っており、その表面にはグツグツと泡が湧き出していた。
恐怖で声すらでない。ドクドクと高速で脈打つ自分の心臓音が、やけに遠くに聞こえた。
その時、心臓音が急に接近してきた。いや、心臓音があり得ないほど大きくなっている?
その心臓音に、あるいはほかの何かによって、自分の意識が飲み込まれていく。心臓音で虎の唸り声が聞こえなくなる。何かが体の中でスゥッと落ちていく感覚がした。視界が暗転し、自分の皮膚をジリジリと焼くマグマの熱の感覚もフェードアウトしていく。
そして僕の感覚と入れ替わるようにして、何かが。自分の中にいる何かが、のそりと鎌首をもたげた。
あとがき
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