異世界へ
その後、MCoD-Ⅱが置かれている部屋の隣の部屋でしばらく待機して、五十嵐先生から実験の注意点や緊急時の対応法などの説明を受けた。その間、看護師さんに「ごめんなさいね~、五十嵐先生、悪い人じゃないのよ」なんてフォローを入れられ、五十嵐先生はちょっと恥ずかしそうにしていた。
夜が訪れた。病院は怖いほど静まり返っている。時折、誰かのスリッパのパタパタという音が反響し、何重にもなって僕の耳に届く。
五十嵐先生に言われるままに専用の青い服に着替え、MCoD-Ⅱがある部屋に移動した。今朝と違って、MCoD-Ⅱのまわりには、ごちゃごちゃと無数のコードが繋がれたマシーンと、それと繋がれた滑車付きのディスプレイがいくつか置かれている。
五十嵐先生に押し込まれるようにしてカプセルの中に入る。この人のあまりの急展開にも、最早慣れてしまった。というより、諦めてしまったと言った方が正しいかもしれない。こういうところが、人を不安にさせてしまうんだと、誰かが教えてあげた方がいいんじゃないだろうか。
「よぉし、完全にカプセルの中に入りましたねぇ。どうですかぁ、なかなか居心地がいいでしょぉ。」
五十嵐先生が胸を張り、自慢げにする。確かに、内部は革のソファのようになっていて、手触りがいい。
「さてと、今からカプセルが閉まって、中に液体が徐々に満たされていきますぅ。抵抗があるかもしれませんが、その液体を、呼吸するように、自然に吸ってくださぁい。この液体も私たちの研究成果でしてねぇ、液体なのに肺呼吸できるようになってますので。それでは、安心して眠りについてくださぁい。液体に、弱めの催眠作用がありますから、すんなり眠れるはずですぅ。私は別室に行って、カプセルに設置してあるカメラで見守ってますぅ。それでは、何か質問はありますかぁ?」
質問は山ほどあったはずなのだが、もはやどうでもよくなってしまった。もう、どうとでもなってしまえ。
「いえ、大丈夫です。」
「わかりましたぁ。それでは、おやすみなさぁい」
カプセルが、プシューという音を立てながら閉じていく。わずかに青色のついた透明のカプセルが、僕と先生のあいだを遮っていく。先生は、こちらに手を振りながら、ニコッと朗らかに微笑むと、部屋の外に出ていった。
いつもあんな風に笑っていれば、すぐに実験の協力者も現れただろうに。あのギラギラした顔で被験者の恐怖心を掻き立てるのではなく。
少しずつ、若干トロっとした液体が体を覆っていく。少しぬるめのお風呂に入っているような感覚で、思っていたよりも気分がいい。柑橘系のさわやかな香りが液体についているようで、それも心地よさを増大させている。液体が胸あたりまできたところで、思い切って顔を液体に沈める。
その状態で5秒くらい息をするのを我慢していたが、意を決して息をボコボコと吐きだして、そしてできるだけゆっくりと液体を吸い込んだ。肺のなかに何かが入ってくる気色悪い感じがする。と、むせてしまった。もう一度気を取り直して、液体を吸い込む。すると、さっきよりは感触を受け入れることができた。ゆっくりと呼吸を再開する。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。呼吸に集中していると、カプセルの上部分に残っていた空気が完全になくなったのに気が付いた。もう、呼吸もかなり自然にできている。液体の温かさのせいか、液体の催眠作用のせいか、すぐに眠気が襲ってきた。
僕は今夜、どんな夢を見るのだろう。五十嵐先生に見られるのだから、どうか見られても恥ずかしくない夢であってくれ。そういえば、僕がこの病院に来る途中で見た夢は、不思議な夢だったな。その夢が僕の夢遊病と関係があるとすれば、今夜もあの夢を見るのだろうか。よくわからない夢だったが、なぜか安心感のある夢だった。まるで、自分がそこにいるのが当たり前のような。そんなことを考えているうちに、僕はスッと意識を手放した。
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僕は、爽やかな朝の風に吹かれて目を覚ました。僕が見つめる先には、どこまでも広がる青空が広がっている。サワサワと、近くに生えていた猫じゃらしが僕の頬をなでる。僕は、ゆっくりと、若干のだるさが残るからだを起こした。
あたりを見渡すと、青々とした草原が広がっていた。どこかから小鳥の鳴き声がピーチクピーチクと聞こえてくる。なんとなくだが、今は明け方なのだろう。空気は冷たく澄み切っており、大きく息を吸い込むと、僕の肺の中からからだを目覚めさせてくれる。
なんて気持ちの良い朝だろう。思えば、この朝のすがすがしい空気を吸うのもひさしぶ
「いや、ここどこーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!????????」
あとがき
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