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五十嵐先生との出会い

「ちょ、ちょっと!大丈夫ですか!?」


 はっと目が覚めた。そこには、見えるはずの自室の天井ではなく、既に定年退職されたのだろうおじ様おば様方が、目を丸くしてソファに座っていた。


 「え?あれ?優しい声の女性は?」


 わけがわからない。なにがどうなっている?というかここはどこだ?


 慌てて回りを見渡す。というか、俺は寝ていたのになぜ立っているんだ?やや不自然に思えるほど清潔感に溢れた大きい部屋には、目に優しい緑色や水色のソファが交互になるように沢山おかれていた。僕が横に目をやると、タイルが貼られた背の低い壁で仕切られた向こう側に、ピンクのナース服を着て厳しい表情を浮かべた女性がこちらを見ていた。 さっき声をかけてくれたのは彼女のようだ。


 ナースの女性は、フン、と鼻を鳴らしながら答えた。


「ごめんなさいね、優しく声掛けしてあげられなくて。でも、病院の待合室に、目を瞑った人が何も言わずにずけずけと入ってきたら、誰だってびっくりするでしょう?」


ここが、病院……??寝て起きただけなのに??


当たり前のことだが、今まで生きてきて、寝ている間に自分の寝室ではなく知らない病院の待合室にいたことなんて一度もない。


 「はぁ、ここまできた時の記憶がなくて…昨日ベッドに入ってから、変な夢を見ていたら、いつのまにかここにいて…」


 「夢って…。あなた、寝ていたんですか?立って歩きながら?」


 そんなことをいわれても、自分でも何が何だか分からない。僕からすると、昨晩自室で寝たら、ここに瞬間移動してきたような感覚だ。


 立ち尽くす僕を見かねてか、ナースさんが声をかけてくれる。


「眠ったまま歩いていたとおっしゃるなら、せっかくですからここで治療を受けていかれては?この病院には、この辺りでは珍しい、睡眠に関する病気の専門医がいらっしゃるんです。このまま、眠る度にウチに来られても困りますし。」


 それを言われてしまっては、ぐうの音も出ない。頭もよく回らないし、もう、この話に乗ってしまうか。


 「は、はぁ…では、おねがいします」


 僕は、差し出された問診票を手に取って、自分の記憶の外で疲れ果ててしまった体を労わるために空いているソファに腰を下ろした。


 しばらくすると、僕の名前が呼ばれた。


 「榊原徒夢さん、202番の部屋に入ってください」


 これが僕の名前だ。徒夢と書いて、「あだむ」と読む。とんだキラキラネームだ。病院で呼ばれるときはいつも、頼むから苗字だけで呼んでくれ、と心の中で祈っている。つまり、今回は最悪のケースということだ。


 今思えば、徒歩で夢だなんて、夢遊病になるべくしてなった名前だなと思いながら、202と書かれた部屋の扉を開ける。すると、白衣を着た女性が、きれいに揃えられた長めの前髪の隙間から、こちらを窺うようにして座っていた。


濡れたような黒のロングヘアーにたれ目。血色が悪いのか、それともそういう色の口紅をしているのか、唇はやや浅黒い色をしている。そして、彼女自身が睡眠障害に悩まされているように見えるほど、目の下に大きな隈ができていた。


 「榊原あだむさんですねぇ?それじゃあ、その椅子に座ってもらえますかぁ?」


 か細い、蚊の鳴くような声の言う通りに、目の前にある椅子に腰かけると、彼女はおそるおそる僕の顔を覗き込んだ。その時、彼女は、睨みつけているわけではなく、ただ目つきが悪いのだと僕は勘づいた。


 「眠れていないんですかぁ?」


 「ええと、睡眠のリズムは崩れちゃってますね」


 女医さんのきょどきょどした話し方につられながら、僕は受け答えをする。


 「そうですかぁ。こういうことは、以前にもあったんですかぁ?」


 すでに僕が来院した経緯は聞いているようだ。


 「いえ、今回が初めてです」


 「なるほどぉ」


 というと、女医さんは椅子を少し回転させて、物凄い角度の猫背のまま脇の机にあるパソコン上に開かれたカルテに何かを打ち込む。その時、彼女の左胸ポケットに少し捻じれたようにしてついていた名札が目に入った。五十嵐かすみというのが彼女の名前のようだ。


 「確認なんですけどぉ、ここに来るまでの記憶が全くないのは確かなんですよねぇ?」


 「ええ、全く」


 「ふむふむ、症状的には夢遊病かもしれないですねぇ。でも、家を出てしまうほどの夢遊病というのは、実はかなり珍しいんですよぉ。最近、なにか急激にストレスが増えたようなことはあったんですかぁ?」


 将来に対する漠然とした不安をストレスと呼んでよいなら、少なからずあったと言って良いだろうか。


 「そこまで酷いストレスは思いつかないですけど、まあ、ちょっとなら」


 「ふぅーむ。じゃあ、ストレスから来ている線も可能性としては外せないですねぇ。でも、もしかしてこれはぁ……」


 彼女がこちらを見てニヤリと笑って見せた。 なぜか、彼女の纏う負のオーラが強まったような気がする。


 「まずは、あなたの睡眠を分析したいんですけどぉ…私が研究している、最新設備を試してみませんかぁ?」


 「え?」

あとがき


感想や、批評など、どんな些細なことでも書いていただけると、作者の励みになりますので、よろしくお願いいたします!

「面白かった」「面白くない」なんなら「あ」だけでも泣いて喜びますので、ぜひコメントを書いていただけると嬉しいです!


また、本作は綿密に準備した後に投稿し始めておりますので、定期的に更新(正確には、3日から1週間に2~3話ずつくらい)し、ある程度の長編となることを予定しております!

ぜひ、応援よろしくお願いいたします!



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