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晴れ時々ブラックホール  作者: 成宮
第1章
2/3

#1 実験台と怪しい博士



「なあ、今朝の天気予報見たか?」

「あぁ、ブラックホール出現チュウイホー…だっけ?」

「え、マジで?朝ごはんに夢中で見てなかった。」

「…食べること以外興味ないの?」

 ビル内の、ロビー横のちょっとした休憩スペース。そこが僕たちのいつもの場所だ。今日もそのいつもの場所で、僕を含めた5人で雑談を交わす。

 毎日思うけど、これって絶対休憩スペース占領してるよな。他の人に申し訳ないとか、別に思わないけどさ。

 フード付きの黒いパーカーを着た僕は、ソファに深く腰掛けなおす。すると、僕の右手側に座っている、制服を着た男が僕に話しかけてきた。

「お~い白屋(しろや)~お前も会話参加しろよ。何さっきから、だんまり決め込んじゃってるんだよ。マジで無気力だな、お前。」

「…別に、決め込んでるわけじゃないけど?」

 ただ、いつもこんな会話してるな、と思っただけなんだが。

 僕の左手側に座っている、首にヘッドホンをかけた少年が、うんうん、と頷きながら口を開く。

「…でも、僕は白屋の気持ちも分かる。会話めんどい。」

「おい(しょう)お前もか。」

「何か悪い?そういう風波(かざなみ)はどうなのさ?」

 焦がそう聞くと、風波は頬の辺りをかきながらう~ん、と唸る。

「…まあ、そう思うときもあるけどさ。」

 それを聞いて、焦はほらね、とでも言いたげな顔をする。すると、その横で、大きな腹の虫を鳴らした奴がいた。

 皆の目が、僕の正面に座っている、巨漢の男に注がれる。

「…すまん。俺だ。」

「うん。言わなくても皆分かってるヨ。」

「なんで朝飯食ったのに、腹鳴ってるんだよ…。」

漢食(かんた)のことだから仕方ないでしょ。」

 ほんとに、いつも腹空かしてんな漢食…。どうやったらそんなに大食いになるんだよ。

 そんな漢食の隣に座っていた、制服とウサギ耳のフード付きパーカーを着た少女が、漢食の肩をぽんぽん、と叩く。

「カンタ、飴いル?」

「ん、ありがとな、ラヴィ。…って、これ何味?なんか、普通の飴じゃあり得ない味するんだが。」

「キャロット味!」

「…人参かよ…。」

 がっくりと肩を落としながらも、貰った飴を最後までしっかり舐める漢食に、風波が爆笑している。

 ラヴィは、なんだかよく分かってないような顔をしながら、ゆらゆらと左右に揺れる。いつものラヴィの癖だ。それに合わせて、ラヴィが被っているウサギのフードの耳も揺れる。

 焦は、もう興味が無くなったかのように、首にかけてあったヘッドホンを耳に当て、スマホをつついている。

 やっぱり、いつも通りだ。


 

 あの日、僕がブラックホールに飲み込まれたはずの日。僕の両親は仕事で、家にはいなかった。

 僕の両親は研究職で、日夜研究に明け暮れている。両親は、「この研究で人を救う」とか、そんなことばかり言っていた。

 僕には、そんなこと無理だろ、としか思えなかったが。

 彼らは、良い意味でも悪い意味でも単純なんだと思う。


「ー君が白屋ジュニアかい?」

 あの事があった数日後、家に知らない女性が訪ねてきた。おそらく20代ほどで、白衣を身にまとっており、明るい茶色の長髪は、何の手入れもされていないようだった。…見るからに怪しすぎる。

「…はい?」

 ジュニア?そもそもお前、誰?

「いや、君は(しおり)(あお)の息子だろう?」

 栞と蒼とは、僕の両親のことである。…2人の知り合いか。

「……。」

「お~お~、無視かぁ、おい。」

「怪しい人とは関わるな、と両親に教えられたんで。」

「お?なんだ、私が怪しいとでも言いたげだな。」

 いや、そう言ってるんだが。

「親の教育がなってねぇなあ。」

 そんなに顔をこっちに近づけなくても。距離感オバケか。

「それは両親に言って。」

 どうせアンタ、2人と知り合いなんだろ。言えるだろうよ、本人に直接。息子に言うなよ。

 その怪しい奴は、靴を脱ぎ散らかし、勝手にリビングの方へと向かっていく。おい、待て、脱ぎ散らかすな。そして勝手に入るな。

 あ~もう、注意するのもめんどくさい。

「…で?」

「で、とは?…美味(うま)、このお茶。」

 そいつは、これまた勝手に冷蔵庫を開け、中にあったお茶をコップに注いで飲みながら、僕の問いかけに返す。

「いや、本題は?何のためにアンタはここに来たの?」

 そいつは、お茶を飲みきった後、乱暴にコップを机に置いた。いやだから。さっきから、人の家でやってはいけない行為ばっかりしてるの、マジで何?

 そして、頭をポリポリとかきながら、何かを疑問に思うかのような表情をしながら、口を開く。

「話してなかったっけ?」

「話してないけど?」

 話してたらこんなことにはなってない。というか、僕は親から何も言われてすらないからな。

 マジでこの人、何しに来たの?不法侵入で訴えてもいい?

 その人は、ソファに腰掛けて、やっと本題を話し始めた。

「いや、この間、ここでブラックホールが出現しただろう?」

 あぁ、アレのことか。

「で、お前がなぜかブラックホールに吸われなかった、と聞いてな。私の実験台…ゴホンッ、研究を手伝ってくれないかな~と。」

「おい。実験台って聞こえたんだが。」

「気のせいでは?」

 はぁ…ダメだこいつ。僕の中で、もう本格的に怪しい奴になってる。やっぱり通報すべきかな。

「そういうわけで、そのお願いに来たのよ。わざわざ、はるばる、君の家まで来てね?」

「…アンタ、そんなに遠くに住んでるの?」

「いや、ここから約30分のところだ。」

「……。」

 バカ近いじゃねえか。もう突っ込むのもめんどくさいよ。

「…断る。」

「…え?」

「断る。」

 そいつは一瞬、訳が分からないとでも言いたげな顔をした後、にんまりと笑って、僕の肩をガッシリと掴んできた。…地味に痛い。

「なるほどぉ…そうかそうか。そんなに私の研究の実験台になりたいか!」

「断るって言ってるだろ。」

 お前、もしかして耳悪い?今すぐ耳鼻科行ってこいよ。あと、もう隠す気ないよな?しっかり「実験台」って言っちゃってるじゃねえか。

「よぉし、そうと決まったら即行動!私の研究室(ラボ)に急ぐぞ!」

「え、僕も?」

 そいつの手は、しっかりと僕の肩を掴んだままである。こいつ…なにがなんでも、僕を連れていくつもりだな?

 というか、両親に言わなくていいのかよ…とか思ったが、もうめんどくさい。何も言うまい。

「おっと、そういえば、自己紹介をしていなかったね。」

 その不法侵入野郎は、案外綺麗なその顔を、こちらに近づける。…だから、近いって。

神無月(かんなづき) 八雲(やくも)だ。よろしくな、ジュニア。」

 …ジュニアって呼ぶの、止めてくれません?



「ジュニア!見つけたぞ…今すぐ私の研究室(ラボ)に来い!」

「ゲッ…」

 いきなり休憩スペース横のドアが開き、向こう側から八雲…博士(はかせ)が飛び出してきた。今の勢いすごいな…いつかドア壊しそうだぞ。

「あ、神無月さん。おはようございます。」

「風波、別にコイツに敬語使わなくていいよ。」

「ひどいなあ、ジュニアは!なあ、ラヴィ?」

「うン!白屋ひどいネ!」

 博士は、ほら見ろ、とでも言いたげな顔でこちらを見てくる。やめろ、そのドヤ顔。

「…やり口が汚いね、八雲。」

 焦がスマホから目を離さずに、博士にそう言う。マジで焦の言う通りだと思う。ラヴィに吹っ掛けるなよ。ラヴィはおバカ…ゴホンッ、純粋なんだからさ。

「…逃げよ。」

 僕は、博士が風波たちとの会話に夢中になっていることを確認し、そろりそろりとその場を離れようとした。

「っ!?」

 その場を立ち去ろうとした僕だったが、後ろから、何者かが僕の腰に両手を回し、僕を捕まえてきた。

「捕まえましたよ、白屋さん!」

「…葉白(はしろ)か。」

 僕を捕まえたのは、博士の助手である、葉白だった。こいつ、影薄いから、全然気づかないんだよな…。葉白に捕まるのは、これで100回目くらいじゃね?

「ナイスだ、葉白くん。そのまま捕まえといてくれ。」

「はい!」

「また捕まってるじゃねえか、白屋。」

「うるさいぞ、風波。」

 はあ…。マジで博士、僕のことをモルモットみたいに思ってるよな、絶対。いつも僕で実験しようとするからさ。

「そういえば、漢食は?」

 風波にそう言われて、漢食が座っていたはずのところを見ると、確かに、漢食はそこにいなかった。どこ行ったんだ、あいつ。

「カンタなら、さっきどこかに行ってたヨ。」

「…食堂でしょ、多分。」

「あぁ、そういや、もう食堂開く時間だな。」

 ほんとにあいつの腹、どうなってるの?どんだけ食うんだよ。

「じゃあ、私もそろそろ学校行くヨ。行こウ、カザナミ!」

「ん、あぁ、もうそんな時間か。めんどいなあ…。」

「行ってら~」

 ラヴィと風波は、学年は違うが、同じ高校に通っているため、毎朝一緒に登校している。この2人、だいたい、いつも一緒にいるんだよな。

「…さて。僕も仕事しようかな、めんどくさいけど。」

 ラヴィと風波を見送った後、残った焦はそう言い、すたすたと自分の部屋へ戻っていく。焦は基本、仕事は自室で行うから、あまり姿を見ない。まあ、僕はよく、焦とゲームをしたりするから、あまり気にならないけど。

「よし、では我々も行こうか!」

「はい!毎度すみませんが、白屋さん、諦めていただけると…。」

「…絶対次は捕まらないから。」

 僕はそう言って、大人しく諦めた。だって、ここで逃げたら、後々、博士に何されるか分かったもんじゃないからな。前はそれでひどい目に…。あの時は、僕の身長と同じくらいの大きさのメスを振り回しながら、僕を追いかけてきたっけ…。あの時は本当に死ぬかと思った。葉白もドン引きしてたよ。博士って、身長高いからさ…。多分あの人、180センチはあるよな。僕は165センチなのに。しかも博士、あれだけデカイ物を振り回せるってことは、きっと怪力なんだろうな…。ゴリラじゃん。なんで研究職、博士がそんなに怪力なんだよ。その力っているの?

 研究の協力(じっけんだい)とかめんどいし、嫌なんだけど…。まあ、仕事サボれるから、良いんだけどさ。



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