農村で休養
日暮れ前に農村に到着した。
ここは小さな農村で宿屋は無かった。老夫婦だけでもと、無理を言って村長の家に泊まらせてもらった。
馬車にはテントが備え付けられていたので、若者は野宿だ。
村の外の野営地に行く途中、ケンカしているらしい子供達を見かけた。
「お前ら魔族は村から出てけよー!」
「魔法も使えないで偉そうに言うなー!」
脇道の先で言い争っている。
額に角を生やしたグループと、角の無いグループ。魔族と人で見た目の違いはその点しかない。
「あの子たち、魔族ですね」
「ここは田舎町だから、まだ魔族が居るんだな」
エレナとオリビアの表情が険しくなった。
子どものケンカが行き過ぎない様に見守っている風ではない。怒りや憎しみの表情だった。
「なあ、魔族ってどんな存在なんだ?」
「あいつ等は自分たちが選ばれた種族だと本気で思っている。人族は滅ぼせともな」
「ええ、選ばれた自分達だけが神から授かった魔法を使うべきと主張していて、教会の理念とも反します」
それだけ聞くと魔族がヤバい奴なんだよな。
二人がこれほど怒りをあらわにするなんて、相当根深い恨みがあるのだろうか。
そしてあの子達の様に、老若男女問わずその考えは根付いている。
オレが魔王であるため非常に複雑な気分だ。
魔族も実は良い人達、と言うのを心のどこかで願ってしまう。
「魔族とは戦争中なのか?」
「昔はしていたと聞くが、もう何十年も前だ。少なくとも私が生まれてからは、していないはずだ」
そんな昔の出来事がずっと尾を引いて事に驚きだ。なぜ子供まで、互いにいがみ合っているのかも疑問だ。
それに、魔王の侵攻は国王の被害妄想じゃないか。
オレが魔王だと言う事は二人には言えない。
教会の本部へ行く前に【フィルタ】も改良した方よさそうだ。絶対にオレの職業が読み取られないように。
……
町外れの野営地に着いてオレは倒れ込んだ。
強化魔法を掛けて走り続けたせいで、全身が筋肉痛だ。
こんな反動がある予定ではなかった。この魔法も改良しないと使い物にならないだろう。
「エレナ、筋肉痛に効く回復魔法ないか?」
「軽症を完全に治せる魔法なんて無いですよ。一晩しっかり休んでください」
一応ねぎらってくれている、と思っておこう。
「よし! じゃあ夕食は私が作ろう。アユム、今日は頑張ってくれたからな」
「オリビアさんは料理お上手ですものね。私も手伝いますよ」
「助かるよ。ありがとう」
食材はそんなに無いけど、作ってくれるのは素直に嬉しい。
そう言えば、この世界に来てから料理らしい物なんて食べて無かった。
オリビアは手際よく料理してくれた。驚いたことに、洗浄や加熱には魔法を使っていた。
魔法が苦手と言ってもそれ位は可能だそうだ。
エレナも器用に野菜の皮を剥いて手伝っていた。
あっという間に出来上がったのはスープとステーキだ。
「いただきます」
スープを一口飲むと、ほんのりとキャラメルのような甘くコクのある味が口に広がる。調味料なんて無かったのに、どうやって味を出しているのか全くわからない。
一口大に切り揃えられた野菜は舌触りが良く、旨味を出しながら簡単に崩れた。
あれ……なんか視界がボヤけてきたし、体が震える。
「あ、アユム!? どうしたんだ!」
「うッグ、旨い……旨くて、温かくて、ッこんな美味しいもの、初めて食べたから」
あぁオレ、泣いてたのか。美味しいだけじゃなく、二人が労をねぎらってくれた事も心に染みる。
「ほんとに美味しいですね。お肉も柔らかいのに、外はサックリしています」
「美味しいものを食べたいけど、お金はかけられないからね。調理法で誤魔化してるんだよ」
手料理を褒められて、ちょっと嬉しそうだ。
仕事人だと思ったけど、こんなに女子力の高い一面もあるんだな。
……
食後。お互いのことや、暮らしている世界の事を話していた。
「二人ともオレと同い年だったのか。しっかり者だし、もっと大人って印象だったよ」
この世界の時間の周期は地球と同じと言うことも聞いた。もし、二人が地球に居たらオレと同じ高二なのか。
「この世界だと、十五歳で大人って扱いだぞ。私が軍に入ったのも十五の時だ」
「私は物心ついた時から教会で育てられて、そのまま洗礼を受けました」
オレがカルチャーショックを受けていると、当然だと言う風に二人が答えた。
懐かしむ様に、そして楽しそうに話している。
「アユムさんの世界ではどうですか?」
「十八歳で大人になるけど、二十歳以上で働き出す人が多いな。オレもまだ勉強を続けてから働くつもりだし」
親から勧められたってのもあるけど、それが今の目標であり夢だ。
「そんなに勉強しなくちゃいけないのか。仕事は何をするか決まってるのか?」
オリビアが興味津々で聞いてくる。
誰かに夢の話をする事は無かったから少し緊張する。
「……人のケガや病気を治す仕事をしたいんだ。魔法が存在しない世界だから、傷口を縫って塞いだり、病気は薬で治したりするんだけどな」
「そんな治療法があるのですか! 凄いじゃないですか」
エレナの回復魔法の方が余っ程凄いと思うけどな。
異世界の驚くべき話をした後、それぞれのテントに入りその日は眠った。
次回、ヒロインイベントです。
ぜひブックマークに追加してお待ちください!
高評価・感想もお願いします。