心機一転して新たな旅立ち
オレは軍の留置所に丸一日入れられていた。
ここは雨風を凌げるだけの酷い場所だ。硬く冷たい床に、臭いトイレ。味も良く分からないドロドロの食べ物。
「クロキ・アユム。釈放だ。もう自由だぞ」
オリビアが檻の鍵を開けてくれた。ようやく解放だ。
こんな恐ろしい部屋と世界から帰るために、早く西の国へ行き魔王問題を解決しよう。
「お前の事を王都に確認のまが取れた。このまま魔王討伐を継続しろとの事だ」
あれほど追って来たのに、今度は勝手にしろか。あの王様の考えは分からないな。
「それと、護衛のために私も同行することになった」
「え!? 何でそんな事になった?」
「軍としても魔王討伐は任務の内だからな。それに、また道に迷ったり、魔力を暴走させては困るだろう? 王国のためにも協力してやれとのお達しだ」
道に迷った訳でも、魔力を暴走させた訳でもない。
少し生死の境をさまよって、異質な魔力を垂れ流したかも知れないが……
でも、この世界の案内人は必要だろう。オレ一人では隣町に移動するだけでも悲惨だった。
「わかった。黒木歩だ。これからよろしく」
「オリビア・ロコットだ。こちらこそよろしく」
そう言って微笑んだオリビアはとても頼もしく見えた。それが魔王討伐と言う信念からくる物じゃないと良いのだけれど。
オレが魔王じゃなければ、クラスの皆と旅する事になってたかもしれない。
そう言えば皆どうしてるだろうか。
「なあ、王都にはオレの友人も居るんだけど、そいつらの事は聞いてないか?」
「一緒に召喚されたって奴らか? 王都からは何も聞いてないな」
あの召喚からだいぶ経ったけど、無事で居ると良いな。目指す場所は同じだし、いずれは会えるかも知れな。
オリビアからオレの荷物を受け取り駐屯地を出る。
そこで何故かエレナが待っていた。
「今日はアユムさん。私も道中ご一緒しますので、よろしくお願いします」
「アユムの魔力の調査を教会に依頼したら、教会の本部へ向かうことになった。エレナがその仲介してくれる」
魔王の国まで真っ直ぐ向かうわけじゃないのか。余り詳細に調べられたら魔王の事バレそうだけど、正体を知るには調べるべきなのだろうか。
「教会は魔法の管理もしている機関だ。本部ともなれば高度な技術者も多いだろうから、今度こそ魔力の正体を突き止められるはずだ」
魔法の専門家か。それは面白そうだな。
今まで一人旅だったのに随分にぎやかになりそうだな。
「わかった、オレもこの魔力の正体を知りたいからよろしく頼むよ」
「はい。あ、自己紹介がまだでしたね。私はエレナ・フォンテーヌです。どうぞ、よろしくお願いします」
「黒木歩だ。よろしくエレナ」
シスターと言う職業柄か、エレナはどこまでも丁寧で優しさにあふれている。
「そうだ。エレナ、魔法使えないと不便だから、オレの封印を解いてよ」
「それはできません。アユムさんの魔力は極めて異質で、周囲の人や動物に害が及ぶのです。だから安全を確認できるまで、封印したままですよ」
なんだと。終始笑顔で厳しいことを言う。オレにも少し優しさを恵んでくれよ。
封印された状態では魔力を体外に放出できないため、体内で完結する魔法しか使えない。
体内で出来る魔法って何か有るかな……身体強化とかできるんじゃないか?
あー出来そうな気がしてきた。道中時間あるし、ゆっくり考えてみよう。
……
オレの目の前には今、念願の馬車と馬が居る。
次の目的地へも馬車で向かうのだ。もし、王都で馬車に乗れていたら、あんの壮絶な目には会わずに済んだであろう。
皆は馬車だ馬だというけど、馬の見た目は巨大な鳥、もしくは羽毛の生えた恐竜だ。
「【ステート】」
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名前:ポー
職業:御者
……
……
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動物でもちゃんと取得出来たな。ペット感覚で名前が付いてるのかな。でも御者って馬を操る人だろ? お前は馬側じゃん。
「……よろしくな、ポー……君?」
『ォォコアァ』
あ、返事してくれたのか? ちょっと可愛いかも。
あまり好感が持てなかった馬だが、ちょっと信用してもいいかもしれない。そう思いながらオレは馬車に乗り込んだ。
個室の様に壁に覆われた客車には、オレ達三人の他に老夫婦が一組乗っていた。
先程、乗り込む時にはエレナが手を貸していた。既に打ち解けており、楽しそうにおしゃべりしている。
間もなくしてポーが走り出した。
それと同時に馬車全体に魔法陣が展開されてすぐに消えた。だが、魔法が作動している魔力の動きは感じる。
「馬車は揺れが大きいから、抑えるための魔法が掛けられているそうだ」
オレが驚いているとオリビアが教えてくれた。
なるほど、確かにスピードの割に揺れは少ない。
「そんな魔法もあるのか。術者が居なくても魔法って動き続けるのか? 魔力の供給ってどうなってるんだ?」
魔法は魔力を供給しないと動かないはずだけど、この馬車には乗客以外は居ない。
「馬車の何処かに蓄えてあるんだろう。魔力の補充が必要な道具とかはたくさんあるぞ」
へー電池みたいな物なのか。
……じゃぁオレに掛けられた封印はどこから魔力を取ってる?
蓄えてる道具なんてない、動き続ける為の供給元は……
「アユムさんは王都から来たのでしょう? 馬車に乗るの初めてですか?」
「あぁ訳あって王都からは歩いてきたんだ」
経緯を簡単に話すとエレナは驚いていた。絶対歩くような距離じゃなかったから当然だろう。何故か老夫婦には『若いねぇ』と感心された。
皆で話をしながら馬車の旅を楽しんでいると、突然爆発音が聞こえて馬車が浮き上がった。
この馬の時速は40キロメートル程
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