食料調達
食料が無くなった。
魔法で出した水を飲み、少ない食料を食いつないで来たがもう空腹で限界だ。
水は出せるのに食料が出せないなんて、魔法とは不便なものだ。
野生動物を狩ろうと道中ずっと探しているが気配すらない。
あの馬車の鳥なら食べ応えが有っただろうが、勝手に食べてはダメだろう。
できれば肉を食べたかったが、もう贅沢言ってられない。
周りで青々と生えている植物を食べるしかない。
運が良ければ食用の、おいしい植物に当たるかもしれない。
恐れているのは毒だ。未知の世界の未知の毒なんて食べたら助かりそうにない。
うーん、毒か……毒を持ってるってことは、それで身を守ってるってことだよな?
じゃあ毒以外で身を守ってるやつは、安全な可能性が高いかもしれない。固いとかトゲ付とか。
その考えで探すと……この沢山生えている葉なら良さそうだな。
葉全体が固くフチの鋭い、ススキの葉の様な植物だ。
とりあえず沢山収穫して、まとめて調理しよう。少しでも美味しく安全に食べたいからな。
葉の匂いは普通の草の匂いだな。青臭く食欲をそそられない。
「【ウォッシュ】」
洗濯と入浴用に作った魔法で草を洗う。
「【石壁】【火炎】」
次は調理だ。土魔法で作った薄い石をフライパンの様にして加熱する。
ちょっと焦げるくらいまで焼いた方がいいな。
微生物とかウィルスとか、出来れば毒も消えて欲しい。
あー草の焼ける匂いが鼻腔を殴りつけて脳にまで達して……痛い! 匂いが痛い!
……よし、食べるか。
料理自体はニラ炒めに見えるが、なかなか勇気が出ない。
だが食べなきゃ死ぬ。生きられる可能性が少しでもあるなら、食べるしかない!
う、不味い。筋が固くて噛むほど苦味が出てくる。渋味に舌が締め付けられる様な感覚がある。
よく噛んで思い切って飲み込む。
細かく砕かれた葉が喉をゆっくり通って行く感覚に体が震える。
あぁ、久しぶりの食事だ。
体に良い物とは全く思えないが、心には良い気がする。
もう少し食べても大丈夫だろう。
これで何とか街まで耐えないと。
……
「オロロロロロロロロロッガハッ」
苦しい。
体が燃える様に熱いのに寒気がする。
手足の感覚は鈍いのに刺される様に痛む。
息が吸いづらいのに嘔吐が止まらない。
なんでだよ! 選んだ一つが大外れなんて、こんな事って無いだろ。
魔王のくせに解毒魔法も持っていないなんて、全くの無能じゃないか。
死ぬ。
確実に死ぬ。もう助からない。
ごめん、父さん、母さん。
「オエッ……はぁ、はぁ」
あぁ、嫌だなこんな場所で死ぬの。
嫌だ……嫌だ、嫌だ!
こんなどこかも分からない、誰も居ない場所で、一人で死んでたまるか!
毒を体内から取り除くことができれば。
あの葉の毒が分かれば。あの葉を調べるには……ステータスか。
ひょっとして【ステータスオープン】も魔法なんじゃないか?
魔法陣は現れないが、改めて考えるとその動作は魔法そのものだ。
「【エディタ】」
魔法を解析する魔法だ。
これで【ステータスオープン】を展開することが出来れば……
=======================
#H9#L7
mHL?#H4:g5
……
=======================
出た! 思ったとおり魔法だ。
この記述を読み解くと……対象から情報を取り、画面に出力する仕組みだな。
この魔法の対象をあの葉に、取得項目は成分に書き換えれば詳細が見られるはずだ。
「【ステート】」
=======================
成分:C34H……
……
=======================
……見つけた、あの葉の毒だ。
後はこの毒を体内から取り除く。しかし、体内で毒の構造が変化している可能性もある。
たとえ毒が体内で変化していても、異物として体全体に占める数は少ないはずだ。
一か八か怪しいものは全て取り除く。
もう余り時間がなさそうだ。
朦朧とする意識の中で魔力を操作し魔法を作り上げる。
「……っ【スキャン】」
これで自動的に体内から毒を取り除いてくれる。
だが、全身から毒を取り除くのには時間がかかる。
作った魔法に間違いは無いはずだ。
魔法は魔力を供給する限り動き続ける。止まるのは処理が完了した時、もしくはオレが死んだ時。
目の前が暗くなり、意識が遠のいてきた。
頼む、間に合ってくれ……
……
頬に伝わる冷たい感触と、土の匂いで目が覚める。
眩しい朝日に目を細め、緩い風の音が耳に届く。
「生きてる……」
あぁ、良かった。生きられた……
今回は本当にダメかと思った。
強烈な苦しみが続く地獄の様な状態だった。
その状態で解毒を閃いて、魔法を作り上げた自分を褒めてやりたいくらいだ。
だけど、これは振出しに戻っただけだ。
いや、さらに悪化している。体力は減り食料も無いまま。
次また失敗したら本当に助からないだろう。
もう植物は御免だ。今度は狩りだ。
気力を振り絞り立ち上がるが、足がふらつく。
一瞬忘れていた空腹と疲労が襲い掛かる。
相変わらず野生動物は見えないが、どこかに居るはずだ。
狩りの方法は考えてある。ここまで実行しなかったのは、あの時の化け物を恐れたからだ。
狩りに怒ってあの化け物やが襲って来たら、オレに勝てる見込みがない。
体に鞭を打ち、街道から離れた森まで来た。
丸い幹が真っ直ぐ天に向かって乱立する薄暗い森。木の根が這う茶色い地面に立って、オレは狩りを始める。
「【囲い火】!」
オレを中心にして、高さ十メートル程の火柱が辺りを丸く取り囲む。半径は二百メートル程。
この内側になら確実に動物がいるだろう。その直径を徐々に小さくして、オレの元に追い込む。
……まだ動物は現れない。囲いは初めの半分ほどの直径になり、オレの場所からも火柱が見える。
「来た……」
火に追われた獣の叫び声が近付いてきた。そして、次々に動物が目の前に飛び出した。
可食部の少ない小動物に、安全性皆無な異形の獣。
その中にイノシシの様な動物を見つけた。食べ頃の獲物を捕らえるためにオレは魔法を繰り出す。
「【石柱】!」
細く鋭い石の柱が地面から突き出し、イノシシを貫いた。
すぐに駆け寄り、イノシシとオレだけを【囲い火】で取り囲む。これで逃げ惑う動物に襲われる心配はない。
やっと捕まえた。安堵と同時に、動物を殺した罪悪感も溢れてきた。
イノシシは濁った目でオレを睨みつけ、抵抗しようと体を痙攣させている。
「……ごめんな」
その時、イノシシの体が青白く光出した。光が体の中心に集まり、球の形になってフラフラと空に登っていった。
呆気に取られ、その後イノシシを見るともう死んでいた。
もしかしたら魂だったのかも知れない。そう思うと益々罪悪感が沸いて来た。
しかしもう我慢できない。命への感謝もそこそこに、イノシシの解体を始める。
素手と魔法で強引に肉を引きちぎり、しっかり洗いしっかり焼く。とにかく焼いた。
黒く変わり果てたイノシシを頬張る。腹が空いているはずなのに、飲む事を体が拒否する。隣の死体が目に入り、涙が溢れて来る。
ごめん。そして、ありがとう。
オレは何とか肉を飲み込み、命を繋いだ。
……
肉で飢えをしのぎながら数日歩き続けた。
「……はぁ、はぁ。み、見えたぁ」
オレは膝から崩れ落ちた。
林道の先に見えるのは、間違いなくオレが目指していた街だ。蜃気楼や幻覚等ではない。
あぁ……ここまで、本当に長かった。
何度も諦めそうになったが、生きてここまで来ることが出来た。
街に駆け込みたい気持ちとは裏腹に、足はゆっくりとしか動いてくれない。
気力を振り絞り、オレは街へ向かう。
「止まれ!」
もう街は目と鼻の先なのに邪魔者が来た。なんだか久しぶりに聞いたセリフだ。
茂みの中から数人の兵士が現れた。
声を発したのは女性の兵士だった。
髪は夕陽の様に赤く、後頭部で一つにまとめられて、腰まで垂れている。
細く長い手足と、キリッとした顔立ちからは、大人の女性といった雰囲気を感じた。
固い草に毒はない、には根拠がありません。
ヒロイン登場です!
続きが気になる方はぜひブックマークしてお待ちください!
ポイントや感想も頂けると、私は喜びます!