勇者召喚
強烈な眩暈で視界が歪む。腹を繰り返し殴られる様な吐き気がする。
「うッオロロロロロロロロロ……」
赤い柔らかな絨毯がアイボリー色に染まっていく。
オレは先程まで教室に居たはずだ。突然部屋が白く光って、気が付くと知らない場所に居た。
「おい、大丈夫か歩」
拓真か!? 良かった、こんな状況でお前が居てくれて安心した。
オレは友人の助けを借りて何とか壁際に座り込んだところで、ようやく周りの様子を見ることが出来た。
天井が高く広いこの部屋で、一番謎なのは床に広がる魔法陣。その上にはオレの友人達が三人居る。さっきまで教室で駄弁っていた三人だ。
左右に立ち並ぶ柱の先には玉座が見える。そこに王様と王女が座り、こちらを眺めている。
「よく来てくれた。勇者諸君」
王様がオレ達に向かって声を発した。
勇者だと? 何を言っているんだ?
全く状況がを飲み込めないでいると、王女が手を前にかざした。
すると、足元にあった魔法陣が王女の方へ吸い寄せられていった。
あの王女が魔法陣を作り出していたようだ。
「この国は今、魔族からの侵攻を受けている。諸君らには魔族の王、魔王を討伐してもらいたい」
意味が分からない。無理やり連れて来たくせに魔王を討伐しろ? さすがに王様の頼み事でも、突然そんなことを言われて、分かりましたと言える訳がない。
「あの、私達に突然そんなこと言われても困ります。午後からも用事があるし、すぐに帰してください」
よく言ってくれた。さすが女子委員長の高倉だ。オレも親にどやされるから早く帰して欲しい。
「魔王を討伐した暁には必ず元の世界に帰すと約束しよう。それに褒美も贈ろう」
ドン引きだ。
つまり討伐するまで帰さないって事だろう。それに元の世界? オレ達は一体どこに連れて来られたんだ。
勝手なこと言いやがって。魔王に苦しまされているらしいが、全く同情もできない。
「王様。高校生に魔王討伐なんて荷がも過ぎます。オレ達をすぐに帰して、他の適任者に頼んで下さい」
「案ずるな、諸君らには強力なスキルが宿っている。【ステータスオープン】と唱えて確認してくれ」
この王様、絶対に帰す気ないだろ。
「へ〜そんなことできるのか。【ステータスオープン】っおおスゲェ何か出た!」
拓真は目の前の何もない空間を指して騒いでいる。ステータスは本人以外には見えないようだ。
その様子を見て他の奴らも恐る恐るステータスを開いていく。
もうこうなったら、とっとと魔王を倒して帰させるしかないか。
「【ステータスオープン】」
唱えると目の前の空間に画面が表示された。そこに表示された内容を見た瞬間オレは困惑し、軽い気持ちで唱えたことを後悔した。
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名前:黒木 歩
職業:魔王
……
……
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また吐き気がしてきた。
オレが魔王? この国に侵攻していて、オレ達の討伐対象のあの魔王?
「では諸君。こちらへ来てこの水晶に手をかざしてくれ。これで諸君のステータスを見映し出すことが出来る」
それはまずい。魔王なんてステータスを見られたらオレが討伐されるんじゃないのか? そうでなくても魔族の仲間として拘束されるかもしれない。
いや、オレは今連れてこられたばかりだ。魔王と関係あるわけない。
皆だってオレを討伐して『さあ元の世界に帰せ』なんて言わないだろう……国王はそれで納得するか?
手違いでしたすみません、なんて絶対に言わないだろう。
だめだ、魔王ってバレていい事なんてある分けがない。早くなんとかしなくては。
……逃げるか? でも、こんな異世界で一人逃げても、助かる可能性なんて低すぎる。
「おお! 大志の職業、勇者かよ!」
一人目が水晶でステータスを表示させた。
御曹司の大志お坊ちゃんが勇者か。
お前がオレを討伐する訳だな。
よし、逃げよう。
出口はオレ達の背後にある大きな扉。
でかでかと表示されたステータスに、皆の注目が集まっている隙に……
「む? 嘔吐した少年よ。何をしているのだ?」
バレてしまった……この扉重すぎるし、押すのか引くのかも分からない。
あと変な呼び方しないでくれ。
「あー、ちょっと外の空気を吸いたくて。また吐きそうで……」
「単独行動は困るのだがな。衛兵! すぐ外へ連れて行け」
そんなに吐かれたくないのかよ。
兵士に連れられて重そうな扉を三つもくぐり、ようやく外に出られた。
息が詰まりそうだった室内とは打って変わり、外は天気も良く風が気持ちいい。
この城は高台にあるようだ。正面には長い下り階段があり、その先には城下町も見える。
逃げ道はこの階段しかなさそうだ。
階段の脇には見張りの兵士も控えているが、こっちには意識を向けていないだろう。
さてどこまで行けば呼び止められるだろうか。なるべく気分が悪そうに歩いて行く。
「おーい少年、あまり城から離れすぎるなよ……おい止まれ。とっ止まれ!」
呼び止められてからは全力疾走だ。長い石階段を駆け下りていく。
必死で城外を見張っていた兵士達は、鎧をガチャガチャと鳴らしながら、慌てて走り出した。
風を切る音はどんどん大きくなり、兵士たちの声は逆に小さくなっていく。
ちょっとワクワクしてきた。あんな王様の下で命令に従うなんてまっぴら御免だ。
まずはオレの魔王問題の解決だ。
そして絶対に元の世界に帰してもらうからな!
王都で王と嘔吐
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