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恋花

人目腫れ

作者: 第六感

「お前は人目を気にしている。

お前のやさしさは臆病さからくるものだ」


違う。やさしさで自分を売りこんだことはない。

違う、そんなことを気にしているつもりはない。


気が利くように、親父を(――これが全く気が利かないやつなのだが)反面教師にして、気が利くようにこころがけてきた。人を不快にしないように嫌な気持ちにさせないように。そうやって生きることが竹田の人生を楽しく愉快なものにしてきたのは間違いない。


それが彼女には気に入らなかった。

最上の友達でいてほしかった、自分だけのものでいて欲しかった。会いたいといわれたら何をおいても来てほしかった。

そんな都合に彼は騙されてはくれない。



ある日、竹田は恋人を呼び出していた。情をかわすためではない。別れを切り出すためだ。


彼は、恋愛が分からないと言う。男の友人と遊ぶ方が楽しい。女性には気を使ってしまう。

彼女はそんな彼を傷つける言葉しか知らなかった。


振られた3日後に付き合い始めた女の子。

振られた子よりかわいい子と付き合い始めるとかどうなってるんだよ。とたびたび自嘲した。それが一般的な感想だから。アニメでは頻繁に登場する人気の設定だったから。


それは、唐揚げを食べながら振られたことを慰められているときのことだった。

12月25日、クリスマスの日のことを思い出す。

竹田はつい3日前に告白が玉砕したところであった。

「おかしいだろ、あの女はさ。そんなに接近されたら好きになっちゃうって

「俺の事好きなのかなって思うじゃん

「確認作業だって言うからさ、確認にかなり時間をおいてから、で確認したよ??」

「家に上げてくれて、ご飯作ってくれたりさ」「…おいしかった」

「二人だけで遊びに行ったりさ

「4人で会う前に、二人だけで待ち合わせしたりさ

「あの時間が一番楽しかった」


「大変だったね、なおき先輩は」


彼女はこんな日に竹田の話に耳を傾けてくれていた。彼女は、ボランティア・サークルの後輩であった。ボランティアのあとだというのに疲れたそぶりもなく、にやけた笑顔。

「大変っていうかさ、もうさ、わかんねーんだよ」

竹田は愚痴に一息ついた様子で唐揚げをほおばった。

「確認作業って、それ2chのスレじゃん。共感するのはいいけど参考にする人はいないよ、バカだなぁなおき先輩は」彼女の顔が一層ほころんだ。

「うるさいなあ」咀嚼する。唐揚げの味はよく覚えていない。なぜなら。

「じゃあさ、付き合ってって言ったら付き合ってくれるわけ? クリスマスに二人きりでご飯を食べてくれる女の子が俺と付き合ってくれるか確認してみるけどさ」

「いいですよ」

「え?」

「付き合ってあげるって言ったんです。こう言っては悪いけど、なおき先輩が振られた子より私、かわいいでしょ」

竹田に彼女ができた。これをクリスマスの奇跡と呼ぶのはあまりにも陳腐である。



「で、話って何なんです」

彼女の部屋に入ってからしばらく二人は黙っていた。何を言いに来たのか、わかっていたからだ。関係は冷め切っていた。話を促したのは彼女の方だった。

「聞いてんの?」

なんて答えたらいいのかわからない。

――聞いてるよ?

――そんなこと言わせてごめんな?

何か違うような気がしたので黙っていることにした。



[なおき先輩]

[明日体育館でバトミントンしよ]

[遊びに行こう]

[6時からなら時間を作れる]

[そっか]

[じゃあ、いいや]


二人は先月からそんなラインを量産していた。実習期間に遊びに誘われても困る。恋人なのだから会えないと寂しい。短時間でも会いたいなら時間を作る。そんな時間からとか言われても困るよ。


本当に。なにか、少しでも会ってあげようかとしてしまった。失敗だったのかなと思う。



「ちゃんと別れたいな、と思って」

「は?」ぎりり、と目を細め歯をかみしめたようだ。不愉快そうに。

ミスった。最悪の選択肢を選び取ってしまったことが竹田にもわかった。しかしもう、他に選択できなかったのも事実である。


「いや、もうしばらく会ってなかったじゃん。もう付き合ってないようなものだったからさ、ちゃんと言いたくて。

「うれしかったよ、俺と付き合ってくれて。自信ついた。全部君のおかげだと思ってる。

「だから会えないのに俺と付き合ってるせいで君が他のいいひとと付き合えないのがダメだなって思ってる」


男女を意識しない友達だったのに、付き合ってみるとだめだった。女を意識してしまい、気を使い始めてしまった。

彼には、恋愛が分からなかった。男の友人と遊ぶ方が楽しい。気を使ってしまう。

人は否応なく変わる。一定期間一緒にいようとするならば。

近い道筋をたどらなくてはならない。

4か月の友達と4か月の恋人とは、併せて8か月かけて遠いところに来てしまった。


彼女は竹田に感情の見えない目を向けていた。

「死ね

「お前はおどけたふりをして見下してる

「バカにしてくるやつより自分の方が賢いって思ってるんだ。そういう目をしている。何にも考えてないように笑いながら、まわりのことを見下してるんでしょ?

「そういう目だよ。先輩の目はそういう目だ。

「何度も会いたいって言ったよね? あってくれなかったのはなおき先輩じゃん。会いたいって言ったらすぐに会いたいの。それなのに、後回しにされてばっかりでさ

「どうしてそれで私が悪いの? あってくれないならいいよ。忙しいならいいよっていって、本当にいいわけないじゃん。埋め合わせに会ってよ

「ちゃんと私の淋しさに応えてよ」


彼女は泣いてはいなかった。淡々と呪詛を吐く。

「お前は人目を気にしている。

「お前のやさしさは臆病さからくるものだ」


「いや、俺は」竹田は顔をぬぐった。汗で顔がべたついていた。

見目麗しくいようというのではないが、こういう時は自分が不快だから制汗シートで拭く。それが巡って他人を不快にしないことも竹田は当然知っていた。人目を気にしているとは、こういうことなのだろうか? 竹田のカバンは部屋の入口においてある。


「ううううあ!」彼女は竹田の肩をつかんで押し倒した。軽い体重を腹の上に感じた。つかまれた肩も全然痛くなかった。


竹田は自分に馬乗りになった彼女の顔をみた。髪の毛が日陰になって、よく見えなかった。

かわいい顔だったはずだが、どんな顔をしていただろうか。


これからボランティア・サークルに顔を出しにくくなるな、なんてことを、考えていた。


竹田、大学4年生の4月のある晴れた日のことである。

彼に次の恋人ができるのが4週間後、その人に別れを切り出すのが翌日のことであることも、ここに付言しておく。

FIN

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