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彼女は学校にやって来る

「昨日あのドラマの劇場版見たんだけど、すげーつまんなかったぜ」


 野村さんとつまらない映画鑑賞デートをした翌日。宣言通り友人との会話の中でネガキャンとネタバレを行い、俺の評判を犠牲に野村さんのグループの女子に攻撃をする。ちらっと野村さんを見ると、くすっと笑ってはいたが、すぐに切なそうな表情になってしまった。


「何か今日のお前、女子ばかり見てね? 女探しか? あれ、ていうかお前彼女いなかったか?」


 友人が指摘する通り今日の俺はクラスの女子ばかりこそこそと見ているが、それは自分の彼女を探すためではない。花恋のアドバイス通り、無理に野村さんを今のグループに繋ぎ止めるよりは、言い方は酷いがクラスの三軍と仲良くさせた方がいいと思ったからだ。もうすぐ学年も変わってしまうので今更新しい友達を作ったところで意味が無いかもしれないが、今のままでは新しい学年になっても野村さんは新しい環境で同じ事を繰り返してしまう気がするから、一緒のクラスにいるうちにどうにかしてあげたかったのだ。


『江崎君、女子をチラチラ見るのは感心しないわ、案外皆視線に気づいているものよ。永田さんと別れたから新しい彼女探し、なんてことは無いわよね? 久々にSNSのやりとりが復活したと思ったら江崎君の愚痴ばかり飛んでくるのだけど』


 その後の授業中、スマホが鳴って首藤さんからメッセージと、花恋とのやりとり、というか一方的に花恋が俺の愚痴を連なっている画像が届く。昨日は野村さんへのアドバイスと愚痴しか飛んでこなかったが、内心俺が他の女とデートをしているのが許せなくてしょうがなかったのだろう。今現在も部屋で俺を監視しているであろう花恋に心の中で謝罪しながら、首藤さんに観念して花恋と喧嘩をしている事や、野村さんの新しい友達作りのためにクラスの三軍を探していることを伝える。


『このクラスに三軍なんていないわよ。富永さん達は一軍で、他は横ばい。ああ、私は修也君をモノにしたことで自然と友達付き合いが減ったから、三軍かもね。でもごめんなさい、私は友情より恋愛を取るタイプだから、野村さんが望むような友達付き合いは難しいわ』


 元ストーカーだからか観察眼には定評のある首藤さんは三軍は自分だけだ、と自虐的な回答を寄越して来る。確かに富永さん達のグループはクラスのイケイケ軍団だが、野村さんのグループも、首藤さんのグループも差は無いように見えるし、グループに属していない女子もクラスメイトとは良好な関係を築いている。花恋の言うような三軍という言葉の似合う女子は悲しいかな、野村さんと孤高のストーカーしかいないのだ。いっそのこと、三年生になってから野村さんのクラスで仲良くなれそうな三軍を探すか? いや、俺が一緒のクラスになっていなかったら明らかに不自然だ。そうでなくても花恋をさっさと学校に復帰させないと行けないのに……ん?


『もう一人いたよ。三軍、いや四軍が』

『酷い男ね』


 野村さんと仲良くなれそうなクラスの三軍どころか四軍に心当たりのあった俺は首藤さんにメッセージを送る。このやりとりを監視している花恋の声は聞こえて来ないが、きっとこれからの展開を予想して溜め息をついていることだろう。それから数日、野村さんのフォローをしたり、放課後に遊んだりしながら好感度を稼ぎ、そろそろ頃合いだと掃除時間中に彼女に声をかける。


「放課後さ、俺の家に来ない?」

「えっ……! ち、ちなみに両親は」

「いないよ。ゲームでもして遊ぼうよ」

「……わかりました」


 年頃の男子が両親のいない家に女子を誘うということが何を意味するか、年頃の女子なら理解しているだろうし普通の女子は警戒するだろうが、俺の綿密な好感度稼ぎや、野村さんがグループからハブられたことで人恋しく、自暴自棄気味にもなっている状態ということもあり緊張した表情で了承をしてくれる。彼女は何やら勘違いをしているのか、赤面しながら、もじもじしながら無言で俺と共に帰路につく。まぁどんな展開を想像をしたところで勘違いになるわけだが。


「お邪魔します」


 俺の家、ではなく隣の、滞在時間を考えれば俺の家と言っても過言では無い家の扉を合鍵を使って開け、しばらく開けることの無かった部屋の扉の前へ。ずっと俺達を監視していた彼女がカギを開けてくれずに一悶着あるかと思ったが、すんなりと扉は開き、中にいたのは自分の部屋で仁王立ちをする花恋と、教室が表示されたモニタ達。


「……え? 妹さん?」

「残念でした。こいつは私の彼氏、お前は騙されたんだよ」


 異様な部屋に戸惑う野村さんに対しニヤニヤと笑いながら、俺の腕を強引に掴んで引き寄せる、俺が花恋ロス状態だったように彼女も俺ロスだったであろうことが伺える花恋。野村さんが俺に抱いていた感情が恋愛まで行っていたのかは知らないが、騙したことは確かなので深々と彼女に頭を下げる。


「本当にごめん、騙すようなことをして。こいつは永田花恋。友達が出来ずに二年生になってからずっと学校に来ていない、友達を作るために教室に監視カメラを仕掛けているクラスの三軍、いや戦力外だ。野村さん、こいつと友達になってくれないかな。ずっと野村さんを見てきた俺にはわかる、二人は仲良くやれると思うんだよ」

「そ、そうなんだ……そういえば一人ずっと席が空いてましたね」

「ふんっ」


 失恋? よりもクラスの不登校に引き合わされて仲良くして欲しいと言われるなんて展開に対する衝撃の方が強いのか、本人も友達が欲しいと思っているからなのか、俺に怒ったりすることも、泣きじゃくることも無く、落ち着いた様子で花恋に自己紹介をする野村さん。とりあえず二人とも座って喋ろうと部屋の机に向き合って座らせ、自分の家では無いのだが台所からお菓子とジュースを持ってきて置き、二人の会話を見守ることに。


「えーと……永田さん、最近のドラマって見てる?」

「あんな下らないモノなんて見ない。顔だけが売りの俳優の棒読み演技なんて見る価値無い。……野村さんはどんなアニメ見てるの? 人気アニメを話題のために見てるって言ってたけど」

「ごめん、言い忘れてたけど、俺に監視カメラ取り付けられてるから、SNSでのやりとりとか全部筒抜けなんだ」

「そうだったんだ……その、江崎さんに言うのが恥ずかしかっただけで、結構深夜アニメとか見てて、今期だと……」


 お互いに友達が欲しいという想いは人一倍強いからか、野村さんは教室を監視しているなんて冷静に考えたらやばい目の前の少女に引くことは無く感性を聞こうとするし、口の悪い花恋も野村さんをお前呼ばわりする事も無く、さん付けをして自分の趣味であるアニメについて聞き出そうとする。やはり俺の見立て通り、野村さんは花恋と似ているし仲良くやれそうだ。花恋も俺越しにずっと監視をしてきたため、野村さんが自分と似ていることも、仲良くなれそうなことも理解しているのだろう、自然と喋りが流暢になって行く。


「ふーん、なかなか見どころあるじゃん。まぁ、そこまで言うなら、友達になって『あげる』」

「永田さんも、不登校で学校を監視してるって言われた時は危険な人なのかなって思ったけど、話して見ると仲良くやれそうです。わかりました、友達になって『あげます』。一緒に学校に行きましょう」

「……」

「……」


 予想以上にトントン拍子で会話は盛り上がって行き、ついに俺の目論見通り二人は友達の関係になろうとしたのだが、お互いに相手の言い方が気に入らないようで顔が引きつる。友達が出来ない人間の特徴、マウントを取りたがる性格を花恋が有しているのは承知していたが、それと似た人間である野村さんにも残念ながらコピーされていたようだ。


「いい? 私はね、挑戦者なの。クラスの一軍のメンバーになろうとして結果的に失敗はして学校にも来なくなったけど、それは名誉の負傷なの。チキって二軍で妥協しようとした挙句失敗した人とは違うの」

「永田さん? 私は結果的には二軍グループからハブられたかもしれないけれど、それでも1年近く持ってるんですよ? すぐに学校に来なくなった人とは違うんですよ? だいたい永田さん、クラスの一軍メンバーからボロカスに言われてますよ? 失敗、で済むレベルですかね?」

「それを言うならお前だってトイレで女子に陰口言われまくってるでしょ、内容知らないでしょ? だって別の階のトイレにいつも行ってるもんね」


 素直に『友達になってください』が言えるような人間ならば、友達が作れずに不登校になったりハブられたりはしていないのだろう。先ほどの友好的なモードから一転、醜いマウントの取り合いは傷つけ合いへと発展して行ってしまう。ここでエスカレートして決別してしまっては全てが台無しだ、と


「二人ともいい加減にしろ! どっちも目くそ鼻くそだ、クラスの三軍にもなれてないんだから二人で仲良く練習して三軍を目指せ」

「いったぁ……さっきから聞いていれば三軍だの戦力外だの、私はクラスメイトの好き嫌いをほぼ把握している、つまり女王になる素質はある!」

「私だって、チンケなドラマにキャッキャするような程度の低い感性は持っていないんです、人間が出来ているんです」

「そうだそうだ! 私達は三軍じゃない! クラスの一軍、いや、クラスを陰から操る裏監督!」


 花恋には利き手で全力の拳骨を、野村さんには利き手じゃない方で力の入らない拳骨をかましてヘイトをお互いから自分に向けさせる。俺に三軍、戦力外扱いされたことが余程納得行かないらしく、自己肯定を続ける二人。やがてそれは傷のなめ合いと言うべきか、変な方向に盛り上がりを見せる。


「決めた! 学校に行く! 野村さん、一緒に皆を見返しましょう! 相棒になって欲しい!」

「望むところです! 陰口なんて言えないような存在になって見せます! 私達はソウルメイトです!」


 正直聞いていられなかったので無心で二人を眺めていたのだが、ついに花恋は学校に行く決意を決め、がっしりと二人は握手をして友人関係を結ぶ。そのまま決起集会だと出かけて行った二人を見送った後、長い戦いが終わった俺は花恋の代わりに学校に復帰の手続き等の連絡を入れるのだった。





「……」


 翌日。俺と一緒に家を出た、制服姿の花恋はずっと無言のまま、深呼吸を何度もしながら学校へと着実に歩を進めて行く。学校の近くまで来ると生徒が増えて来たためか、時折ビクビクと痙攣をするようになり、校門の前で立ち止まってしまう。それでも彼女はこの試練を乗り越えなければいけないのだ、と彼女の手をがっしりと握ると、


「ああああぁぁぁぁぁぁ!」


 彼女は隣を歩く俺にしか聞こえないくらいの小声で叫び、俺の手を離さないまま学校の中へと走って行く。一度学校の中に入ってしまえばもう何も怖くない、まるで毎日学校に来ていたかのように、実際に俺越しに毎日学校に来ていたのだが、自分の下駄箱を見つけ、中に入っている使っていないため他の生徒よりも綺麗な、と思いきやずっと入れたままなため埃が被っている上履きに履き替えて教室へと向かう。既に色んな生徒が教室に入っているためドアは開けっ放しであり、勇気を出して教室のドアを開けるなんてイベントは無いが、彼女は開いたドアの前で俺の手を握ったまま、大きく深呼吸をして、


「……おは、よう」


 非常に小さな、やはり俺くらいにしか聞こえない声で挨拶をしながら教室に入る。途端に静まり返る教室。ずっと学校に来ていなかった、どちらかと言うと嫌われていた女子が学校に来たのだ、皆反応に困るのも当然だろう。しかし彼女は一人じゃない。


「おはようございます永田さん!」

「おはよう。おめでとう、間に合ったのね。さぁ、お互いの彼氏について語り合いましょう。……あらあら、もしかしてずっと手を繋いで学校に来たの? 朝から見せつけてくれるわね、完敗よ」


 昨日まで無理にいようとしたグループの輪の中にはもういない、自分の席に座っていた野村さんが花恋に気づき、まだ昨日のテンションが残っているのか張り切りながら挨拶をして来る。朝から吉田といちゃついていた首藤さんも、微笑みながら学校に復帰した花恋を祝福した。


「あ、永田さん久しぶり。病気は治った?」

「おはようあー……富永さん。うん、色々迷惑かけたけど、もう大丈夫」


 本当は花恋が病気で学校を休んでいる訳では無いことに気づいているであろう富永さんも、クラスのまとめ役として彼女に声をかける。そんな富永さんに対し、昔のように親友気取りで『あーみん』とは呼ばず名字で呼び、俺から手を離して全く迷うことなく自分の席に向かう彼女。クラスの一軍に無理に属そうとして、スクールカースト最上位の女子を親友扱いするような痛い少女はもういない。そんなことをしなくても、彼女は彼女なりの学園生活を送れるからだ。おめでとう、と授業の準備をする花恋を眺めていた俺であったが、緊張しすぎた花恋の手汗が余程酷かったらしく、友人に手がびちょびちょだけどどうしたんだと突っ込まれてしまい、それに気づいた花恋は真っ赤になるのだった。

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