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彼女はデートを監視する

『野村さんはアニメとか見るの?』

『少しは見ますけど、そんなにどっぷりは見てないです。人気アニメを話題の為に見るくらいです』


 花恋の部屋からは閉め出されてしまい、SNSでも既読スルーがずっと続いている状態なため暇を持て余している俺は自室のベッドに寝っ転がりながら、野村さんと他愛もない会話を繰り広げて行く。俺に装着された監視カメラの映像を花恋が見ているとすれば、喧嘩した彼氏が似たような女子と仲良く会話をしている状況な訳だが、今の彼女の心境はどうなっているのだろうか。嫉妬で狂っているのだろうか、家が隣なのだし耳を澄ませば彼女の発狂が聞こえて来ないだろうかと窓から見える、晴れだろうと雨戸が締まり切っている彼女の部屋を眺めるが、静寂が聞こえてくるのみだ。俺もすっかり花恋がいないと駄目な体質になってしまったんだな、とため息をつきながらも、彼女の問題を解決するためには絶対に折れるべきではないと耐え忍ぶ日々をしばらく送る。


「週末あの映画見に行かない? ほら、あの先月までやってたドラマの劇場版」

「いいね、最終回の後どうなるのか気になってたし」


 そんなある日の昼休憩、ここ最近は野村さん達の動向を監視するのが日課となってしまい、花恋の事を言えなくなっている俺の耳に、週末に映画を見に行こうなんて少し前にも聞こえてきた話が聞こえてくる。こうも毎日彼女を眺めているとそれに気づいた誰かが恋愛に結び付けて冷やかして来そうな気もするが、幸か不幸かクラスメイトは俺にも野村さんにも興味が無いようだ。いや、一人自分の部屋の中から出てこないクラスメイトという例外がいたか。


「いいですね、私も見たかったんです」

「え、野村さんは見てもしょうがないんじゃない? 内容もほとんどわかってないでしょ?」

「え……いや、その……」


 週末に友達と遊びに行くという重要なイベントに野村さんは乗り気なようだが、他の女子は残酷にも難色を示す。前回はなんだかんだ言って最終的には一緒に映画を見に出かけたようだが、今回は前回よりも女子の態度は冷ややかなものであった。


「こないだも一緒に映画見たけど、変なところで笑ったりしてたし、内容も理解してなかったじゃん」

「ポップコーンとかコーラも音立てて飲み食いするしさ」

「それにこの映画やるとこって、席が4つで区切られてるんだよね。5人で行ったら変な感じになっちゃうよ」

「……でも、私は……っ」


 彼女が勇気を出して無理についていった前回の映画鑑賞は残念ながら他の女子に良い印象を与えなかったらしく、教室には他のクラスメイトもいるというのに持ち前の団結力で口撃をしていく女子達。他の女子とお喋りをしていて内容は聞いていなかったようだが、空気の悪さを察知した我らが頼れる富永さんが仲裁にやって来るころには既に、野村さんは涙声になりながら教室を出て行ってしまった。


『聞いたよ。酷い連中だよね、午後の授業サボって遊びに行かない?』

『わかりました。私のカバンを持って降りて来てくれませんか。教室に戻れるような顔じゃないんです』


 富永さんが野村さんをハブった女子に同調しながらも、あまり教室で揉め事は起こして欲しくないな、と圧をかけるというスクールカースト最上位の技を見せてエスカレートを防いでいる中、俺は野村さんのメンタルケアをするために今頃は離れた場所のトイレに籠っているであろう彼女にSNSを送る。すんなりとサボりデートを受け入れた彼女の要求通り二人分のカバンを持って、校門前で彼女が泣き止んで顔を整えるのを待つことしばらく、目元を真っ赤にした野村さんがとぼとぼとやってきた。


「すみません、遅くなりました」

「いいんだよ、泣きたい時は全力で泣かなくちゃ、勿論その分泣き止むのに時間はかかるけどね。映画見に行こうよ、あいつらより先に視聴して、明日二人で教室で内容を喋ってネタバレしちゃおうぜ」

「そんなことしたら私も江崎さんも白い目で見られますよ。……ああ、でも楽しそうですね」


 泣き過ぎたことによる腫れと、デートに誘われたことによる照れの比率は計算できないが、とにかく顔が赤い彼女の愚痴を聞きながら映画館に向かい、聞いた情報を頼りに目当ての映画のチケットを購入する。


「その、私実はこのドラマほとんど見てないんです。皆は俳優が格好いいとか言ってたんですけど、興味持てなくて。だからネットの記事とかでストーリーとか知って話を合わせようとしたんですけど、知ったかだってバレちゃいました」

「俺なんて全く見てないから何も理解できないよ。だから多分見たってつまらない。二人でつまらないつまらないって言って、あいつらを否定してやろうぜ」

「江崎さん、性格悪いんですね。……ふふっ」


 平日の中途半端な午後ということもあり、空いたシアターに並んで座り、他の客に恨みは無いが飲み食いの音がうるさいとクレームを入れてきた女子に反撃するようにわざとらしく音を立ててポップコーンとコーラを飲み食いしながら、何一つ内容がわからないドラマの劇場版を視聴する。昼食を食べた後にお菓子も食べているので見た後に食事をしながら感想を言い合うなんて流れにはならず、近くの公園のベンチに座って缶コーヒーを飲みながら二人でつまらないと感想を言い合った。


「安っぽい恋愛ドラマだったね、結局あいつら俳優しか見て無いんだよ」

「見なくて正解でした。大体あいつら、ドラマの話をするとか言いながらイケメン俳優の話ばかりしてますし、私より内容を理解してないですよ」

「言えてる。それじゃ明日、俺は友達と雑談中に大声でネタバレして女子の顰蹙を買うかな」

「友達……」


 野村さんをハブった女子達の陰口で盛り上がっていた俺達ではあるが、俺が友達というフレーズを出してしまったがために彼女の表情が曇る。しまった、と後悔しながら声をかけることも出来ず、俯いてしまった彼女を隣で不安そうに眺めることしばらく、すすり泣く声とポタポタと濡れるスカート。


「……私、昔から周りと話が合わなくて、友達も出来なくて、勇気を出してグループに入ったのに、結局、こうなっちゃうんですね。はは、私、怖くて自分の階のトイレに行けないんですよ。笑っちゃいますよね。いや、笑ってくださいよ。江崎さんまで暗い表情になるのは嫌です……う、ううっ、ひくっ」

「……」


 自分の今までの人生を振り返りながら泣きじゃくる花恋のような悩みを抱えていた野村さんに、花恋ロス状態の俺は思わず彼女を抱きしめようとするが、


『身の丈に合わないグループに入るからそうなる。大人しくクラスの三軍にいればいい』


 今までずっと俺達のデートを部屋で監視していたであろう花恋が、似たような悩みを持つ人間を客観的に見たからかアドバイスを伝えて来る。俺の浮気未遂には気づいていないのか、その後もぶつぶつと野村さんが低スペックであり今の女子グループには釣り合っていないと、同族嫌悪と客観的な指摘が入り混じった独り言を続けて行く。


「……すみません、家近いんで帰ります。今日は本当に誘ってくれてありがとうございました」


 傷心状態の野村さんに身の丈を知れ、なんて花恋のアドバイスを伝えることなんて勿論出来ず、無言で彼女がわんわんと泣くのを眺め、泣き止んだ彼女が俺にその顔を見せることなく公園を去って行くのを見送る。


「お前は本当は優しい子なんだよ。もしも野村さんがいじめられたら、自分と似たような人間が可哀想な目に遭っているって理由で傷つくような、繊細な子なんだよ。だから二度とあんな事を言うな、自分が傷つくだけだ」


 野村さんの姿が見えなくなり、公園には俺一人。愚痴も言わなくなり、既に俺の声を聞いているかもわからない花恋に向けて独り言を放つと、彼女のアドバイスをどうやって活かすか、まだ皆が授業を受けている間にベンチで一人考えるのだった。

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