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彼女の声は聞こえてこない

『……』


 喧嘩? の翌日。きっと教室の監視もしているし、俺越しに風景や声も拾ってはいるのだろうが、マイク機能を切っているのか登校中は勿論の事、授業中になっても花恋の声は聞こえて来ない。『……』なんてのは今まで何度も聞いて来た、花恋の呼吸の幻聴だ。この調子なら放課後に俺が花恋の部屋まで来たところで開けてはくれないだろう。花恋の言う通り、今までの俺は別に正義感溢れる人間では無かった。周りの揉め事にも無関心だった、近くにいても花恋の異変にも気づかないような人間だ。それでもこのままじゃ花恋の為にはならないとわかっているから、謝るつもりは無いしやれるだけのことはやらせて貰う。早速昼休憩になると、隠れて休憩時間を満喫している富永さんの下へ。彼女に会いに行くときは大抵お願い(脅し?)をする時なので、俺を見た瞬間富永さんの表情が若干強張るのが悲しいところ。


「……という訳で野村さんのグループが崩壊の危機なんだよ。自分のクラスがギスギスしているのはしんどいし、クラスをまとめる人間としてどうにか手を回してくれないかな」

「グループ違うし私は別にクラスをまとめてる訳でも無いんだけど……まぁ、共通の知り合いもいるからそれとなく介入はするけど、結局本人達の問題だから私じゃ解決は難しいよ」

「それくらいはわかってるよ。ありがとう」


 富永さんに事情を説明して協力をして貰うことになったが、彼女に出来るのは精々いじめにエスカレートしないように裏から手を回す程度であり、普段から交流していない同級生のグループに向かって仲間外れは良くない、仲良くしなさいなんて言える立場では流石に無い。それでもスクールカースト最上位の彼女が味方をしてくれるか否かでは雲泥の差、持つべきものは(自称花恋の)友人だ。吉田と付き合うようになってからは友達付き合いも減りつつある、ハブられそうになっている人間の立ち回りについて熟知していそうな首藤さんにも同様に事情を説明して協力をお願いすることに。


「あまり役に立たないとは思うけど、恩もあるし頑張ってみるわ。それより永田さん、風邪でも引いたの? 昨日までずっとSNSで盛り上がっていたのだけど、突然何の反応も無くなっちゃって」

「ちょっとね。まぁ、すぐに良くなるよ。きっと学校にも来る」


 SNSでどう盛り上がっていたのかは気になるところだが、首藤さんを心配させないよう、野村さんの件で絶賛喧嘩中であることは伏せておくことに。こちらも折れるつもりは無いので、きっと今も俺達の会話を聞いているであろう花恋に喋りかける事もせずに無視を貫き数日間が経過。クラスの女子が協力してくれたおかげでそこまでピリついた展開にはならなかったものの、根本的な問題である野村さんが友人グループから外されそうになっているという部分についてはどうしようもない。


「あ、私ちょっとトイレ」


 とある日の放課後、どこに遊びに行くかで話し合っている女子のグループに野村さんがそう告げて教室を出て行くが、他の女子はまるで彼女なんて最初からいなかったかのように何の反応も示さずに会話を続けて行き、やがて遊びに行くために教室を出て行ってしまう。これが意図的な行為なのか、それとも無意識での行為なのか判断はつかないが、女子というのは恐ろしい。


「あ、あれ……?」


 トイレから戻って来た野村さんが教室を見回し、既に自分以外のメンバーがいなくなってしまったことに気づき悲壮感ある表情になる。スマホを操作して他のメンバーに連絡を取るくらいの積極性があれば今頃こんなことになっていないのだろう、落ち込んだ様子でとぼとぼと教室を出て行ってしまう。俺と喧嘩さえしていなければ、今頃花恋は自分の部屋でその様子をケラケラと笑いながら見ていたかもしれないが、今はそんな気分にもならないだろう。俺はクラスの男子からの遊びの誘いを断り、カバンを持って教室を出て行き、校門前で野村さんに追いつく。


「やあ野村さん。一人で帰り?」

「え……えと、同じクラスの」

「江崎だよ。俺も暇でさ、一緒に帰らない?」


 突然声をかけて来る、同じクラスではあるが会話をしたこともない男子に戸惑いながらも邪険にはせず、軽く会釈をする野村さん。こうして見ると彼女はジェネリック花恋という言葉がよく似合う、おどおどとした自己主張の出来なさそうな子だ。もっとも花恋は俺のように懐いた人間には自己主張が激しい訳だが、人間は基本そういうものなのだろうし、きっと彼女も仲を深めれば似たようなものになるのだろう。俺が花恋ロスということもあり、彼女をウザがるクラスの女子とは逆に野村さんに庇護欲を掻き立てられながら、彼女が監視しているであろう状況で別の女子をナンパして行く。


「江崎さんもですか? ……わかりました、私でよければご一緒します」


 俺が花恋と付き合っているという情報は知らないのだろう、後ろめたさを感じさせない、人恋しさからか嬉しそうな、男に言い寄られた経験がほとんど無いのかニヘラニヘラとした表情になる野村さん。花恋は今頃部屋でキレているのだろうか、それともあんな奴知らないとばかりに不貞寝をしているのだろうか、本物の彼女の事も多少は案じつつ、出店でクレープを買って公園のベンチでそれを食べながら軽く話をする。


「酷い話だよねえ、ちょっとドラマ見てないくらいでハブるなんて」

「……私、やっぱりハブられてるんでしょうか?」


 主に野村さんの最近の悩みだったり愚痴だったりを聞きながら、彼女の味方であることをアピールするために他の女子を下げてみるが、彼女は自分がハブられていることを認めたくないようで露骨に落ち込んでしまう。


「ちょっと噛み合わなかっただけだよ。俺も協力するからさ、また皆と仲良くするために頑張ろうよ」

「……そうですよね、私まだハブられて無いですよね」


 客観的に見てハブられていることは明確なので否定もしづらく、一時的に亀裂が入っただけなので元に戻れるように頑張ろうと言葉を濁しながら彼女に奮起を促し、彼女はそれでやる気が出たのか気持ちばかり声が大きくなる。


「……ところで江崎さんは、何で私にいきなり優しくしてくれるんですか?」

「え? ……いや、暇だったから。最近友達も彼女を結構作ってるし、暇な女子いないかなと思ってて」

「そう、なんですか。誰でも良かったんですね」

「あ、いやいや、えーと、その、どちらかと言うと野村さんタイプだし。いかにもなギャルって感じより、野村さんみたいなお淑やかって言うか、大和撫子って言うか、そういう子の方が俺は気兼ねなく交流できていいなって感じで……ああそうだ、SNS交換しようよ」

「わ、わかりました」


 今まで男に誘われた経験がほとんど無いからか、どういう感情なのかを確認してくる野村さん。彼女持ちではいるがダラダラとした幼馴染関係の果てに自然な流れで付き合った人間なため、こういう時にどういう回答をすればいいのかがわからず、ナンパな感じになってしまう。相手がどんな人間かもわからないながらも、タイプだと言われて悪い気はしないのか目を逸らしながら嬉しそうにSNSの連絡先交換に応じる彼女。困った事があったら相談してねとこの日は彼女に別れを告げた後、何も言っていない花恋にSNSで言い訳をするが、既読スルーが解消されることは無かった。

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