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彼女はいじめを傍観しようとする

「いい加減学校に行こうぜ」

「五月蝿い布団潜り込み変態男」


 冬休みも終わり、高校二年生でいられる時期も残り二ヶ月くらいとなった日。この日もめげずに不登校からの脱却を呼びかける俺に対し、花恋は旅行での事件を引き合いに俺を変態扱いしながら、寒いからか布団に潜り込んでいた。


「旅行でお前も大人になったんだし、自信もついただろ」

「……? え、え、えっ? 私が寝てる間に!?」


 引きこもっていた花恋が自主的に外に出て旅行に行こうという心境になったことを褒めたつもりだったのだが、花恋は何やら勘違いをしてしまったらしく、慌てて部屋を出て行ってしまう。


「脅かさないでよ、まだあるじゃん。あ、それとも理雄のが小さすぎたの?」

「……」


 自分がまだ大人の階段を昇っていないことをわざわざ確認し、更にこちらを煽ってくる花恋に財布の中に入れたままのゴムでわからせてやろうかと思ったが、花恋の愛を受け入れるのはちゃんと彼女が学校に行ってからだと、主導権はこちら側にあるスタンスで彼女を微笑ましく見つめる。下ネタが不発に終わって恥ずかしくなったのか、頭ごと布団に潜り込んでしまった花恋に温かくして寝ろよ、と別れを告げ、いつもの日常を数日繰り返す。三年生になればそれをきっかけに学校にやってくるかもしれないが、そうでない場合俺と花恋がまた同じクラスにならない限り復帰は絶望的だろう。だから2年生のうちにきちんと学校に来させたいのだが、なかなかきっかけが見つからない。現状では花恋の唯一の女友達と言っていい首藤さんも吉田と毎日いちゃついており、あまり迷惑をかけたくはないので協力も頼みづらい。


「どうしたんだ花恋。今日はいつになく上機嫌だな」

「不和の気配がする」

「誰かが喧嘩してるのか?」

「教えなーい」


 この日の放課後、いつものように花恋の部屋に向かうとニヤニヤとしながら監視カメラ越しに教室を眺めていた。ゴシップ好きなのは感心しないが、花恋の機嫌は良いに越したことはないので興味の無い俺は程ほどにしろよ、とコンビニスイーツとダイエットコーラを彼女に渡して自分の部屋に戻り、花恋にバレないように来たるべき時に備えて大人の階段を昇る予習をする。花恋の言う不和の気配とやらが一体何なのか気にしつつ学園生活を送っていたのだが、用を足していると声量が随分大きいようで男子のトイレにまで女子の陰口が届いて来る。


「野村さんさぁ、何か最近合わないよね」

「わかるー、ドラマの話してもあんま理解してなかったし」


 トイレでの陰口は時として盗聴している花恋を傷つけるので程々にして欲しいな、と思いつつ、野村さんは確かウチのクラスの生徒だったはずだと教室に戻り彼女の姿を探す。そこには大人しそうな、どことなく花恋に似た女子生徒が自分の席でスマホを眺めていた。


「不和の気配って、野村さんの事か?」

「理雄もゴシップ好きだね。ずっと無理してクラスの二軍女子と一緒にいたんだけど、段々化けの皮が剥がれて来てるの。身の丈を知らない交友関係は不幸になるだけなのに、馬鹿だよね」

「一軍女子、というか富永さんの友達だと思い込んでいたお前よりはマシだな」

「こっそり彼女を感じさせる方法とかを調べていた男よりはマシかな」


 花恋と似ていたので少し心配になり花恋にその話をするが、彼女は自分と似たタイプの子を心配するような優しさは持ち合わせていないらしく、ケラケラと事情を話し始める。一年間近くは交友関係を保ってきていた野村さんと、二年生になってすぐに交友関係を築くのを諦めてしまった花恋とでは月とスッポンだと皮肉るが、見事なカウンターパンチを受けてそそくさと部屋を出る羽目になってしまう。バレてたか。


「週末この映画見に行かない?」

「いいねいいね」

「楽しそうだね」

「野村さんは無理して来なくていいんじゃない? こないだのドラマもちゃんと見れてないみたいだし」

「えっ……でも……」


 その後も何となく野村さんを気にかけていたのだが、花恋の言う通り段々と友人の話題についていけなくなっており、自然な形でハブられ始めているようだ。野村さんの立場が弱くなるにつれ、それを監視している花恋の機嫌は良くなっていくという悲しい循環が発生してしまう。


「どうにかならないのか? このままじゃ野村さんハブられちまうよ」


 教室で繰り広げられる不和を見ながら気が気でない俺と、反対に嬉々とする花恋。花恋の趣味を尊重することも大事だが学校に復帰するためにはそんな性格では困ると、それなりに高いケーキを花恋に差し出して野村さんの救済について相談する。しかし花恋はケーキを頬張りながら、甘い甘いと指を振る。


「元々身の丈に合っていなかったんだから、ハブられるのは自然でしょ? でもね、多分彼女はそれを認めようとしないよ。無理に友達グループについていこうとし続ければ、やがてどうなると思う?」

「……」


 ハブられるだけならまだマシな方だと、明日もこのケーキ買って来てと言いながらモニターを見つめる花恋。無理をして一軍女子についていこうとした結果、絶望して学校に来なくなってしまった花恋ではあるが、富永さんが適当にあしらってくれている程度でそもそも周りから相手にされてはいなかった。クラスメイトが花恋に抱く感情は無関心、もしくは変な暗い子程度でしか無いし、だからこそ学校に復帰するチャンスが十分にある。しかし無理をして友人グループについていこうとし続ければ、周囲の人間が抱く感情はまた別のモノになる。


「野村さん、最近調子乗ってるよね」

「お情けでグループに入れてあげたのわかって無いんじゃない?」


 トイレの壁が思っている以上に薄いのか、女子は集まると自然と大声になってしまうのか、野村さんへの感情が段々と『嫌い』へと変化していくのを実感してしまい悲しくなってしまう。一方の花恋はそれを盗聴しているからか、俺の耳に笑い声を提供する始末。可愛い彼女のこんな笑い声は聞きたくないな、と若干幻滅しながらもこの日もケーキを買って花恋の部屋へ。


「もうこりゃいじめ待ったなしだね」

「わかってるならどうにかしようぜ」


 ついにそのフレーズを発してしまう花恋。孤独だったりいじめだったりは彼女が何より恐れているモノのはずなのに、他人事だからとケーキを食べながら、ニコニコしながら語る彼女に苛立ちを隠すことが出来ず、睨みつけながら解決策について話をしようとするが、何で解決しないといけないの? と不思議そうな表情を返されてしまう。


「私には関係無いじゃん。……あ、そうだ。本格的にいじめが始まったら学校行こうかな。教室にいじめのターゲットがいるなら、私の学園生活は当分安泰するだろうし。それで解決、私が学校に復帰したら、特別に理雄に予習の成果を披露させてあげよう」

「……花恋。クリームついてるぞ」

「あ、そう? 取って」


 挙句の果てにはクラスで発生するいじめを自分の学校復帰の足掛かりにしようなんて言い始める花恋。俺はクリームがついているぞ、と言って花恋に近寄り、ティッシュで彼女の顔を拭いてやるのではなく、


「……っ!」


 パァン! というそれなりの音を響かせ、花恋の頬を腫れさせる。自分がビンタされた事に気づいて俺を睨みつけて来る花恋。一方の俺も彼女を心底軽蔑するような視線を送っており、とてもじゃないが恋人同士がする表情では無い。


「昔の、小心者で弱虫で、他人を傷つける勇気も無いようなお前が好きだったよ。じゃあな」

「……黙れよ偽善者! 理雄だって、別に今まで周りのいじめだとかに無関心だった癖に! 私のSOSに気づいてくれなかった癖に! 理雄は、理雄は私の味方だけしていればいいのに!」


 涙目で俺を睨みつける花恋に別れを告げて部屋を出てドアを閉める。今まで鍵なんてかかっていなかった彼女の部屋から、初めてカチャリと鍵のかかる音を聞いた。

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