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彼女はホテルで挑発する

「味の違いが……わからない!」

「全体的にソースとかをかけすぎたかもな」


 それなりに膨れたお腹をさすりながら不満げな花恋。宮島を後にした俺達は広島へ戻り、折角だしお好み焼きを食べ歩こうと有名店をハシゴして、ハーフサイズのお好み焼きを二人でシェアして、を繰り返していたのだが、俺達の舌が肥えていないのか、観光客向けの名物なんてそんなものなのか、まぁまぁ美味しいけど味の違いがあまりわからない、という結論に至ってしまう。


「いっぱい歩いたり並んだりして疲れた……ホテルホテル」

「どこ予約したんだ……? まさか宿泊費をケチってネカフェにしたとか言わないよな」

「ちゃんとしたホテル! 高層から下界を見下ろす!」

「お前高所恐怖症だったよな?」

「……見下ろすのは、やめておこう」


 ホテルは花恋が予約したということで、膨れたお腹をあまり見られたくないのか先導していく花恋についていくことしばらく、かなりちゃんとしたホテルに到着し、チェックインを進める花恋を眺め、エレベータに乗り込み花恋が自分の高所恐怖症を忘れて選んでしまった上層へ。


「俺の部屋のカギは?」

「……?」

「だから俺の部屋のカギ」

「何言ってるの?」


 エレベータの中で自分の部屋のカードキーを眺めている花恋に俺の部屋のカードキーを要求するが、花恋は俺が言っていることが理解できないらしく、上層に到着するとロビーの窓を見ないようにしながら自分の部屋へと向かっていく。


「……まじか」

「部屋二つ借りるより安いし。大体私達恋人だし、いっつも理雄は私の部屋にいるじゃん……それとも初心な理雄には彼女と同じ部屋なんて刺激が強かったかな……って、ええっ!?」


 ここでようやく花恋は二人で一部屋を借りたのだと理解し、花恋の言う通り恋人同士だし別に普通かと部屋の中に入る。花恋はそんな俺を煽っていたのだが、部屋の中を眺めているうちにあることに気づき赤面する。


「何でベッドが1つしかないの!? しかも枕が並んでる! 私ちゃんと、ベッドはダブルでって言ったのに」

「花恋……ダブルベッドって言うんだよ、これは……」


 そこにあったのは少し離れた場所にある2つのシングルベッドでは無く、恋人が二人で並んで寝るようなダブルベッド。花恋も一緒のベッドで寝ることは想定していなかったらしく、インテリぶって予約の電話をする時に英語を使うんじゃなかったと項垂れる。


「ま、まぁ? 私は大人だし? 別にこのくらいで動揺しないし? り、理雄は初心だから、隣に彼女がいるとドキドキして寝れないんでちゅか?」

「そうだな。俺はソファーで寝るよ」

「えっ……」


 俺を挑発しながらも明らかに動揺している花恋を見て、まぁ彼女が嫌がることはすべきではないな、と部屋に置かれているソファーに寝っ転がり、いいホテルのソファーは寝るのにも最適だなと思ったよりも良い寝心地を確認する。そんな俺の紳士的なのか意地悪なのかわからない行為にどう反応すれば良いのかわからないのか困惑した後、アメニティの浴衣を持って温泉に行ってくると少し怒りながら部屋を出て行ってしまった。女心の難しさを感じながら、こういう時は自分も温泉には向かわず、浴衣姿の彼女が帰って来るべきなのだろうとホテルのテレビを確認する事20分、ドタバタという彼女が走って来る音と、ガチャガチャというドアを開ける音と、ゼーハーという彼女が息切れする音。彼女は今にもはだけそうな浴衣を全力で抑えており、息切れも相まってなかなかに煽情的だ。


「浴衣……着方がわからない……歩いてたら解けて……み、見られたかも……」

「慣れないことはするもんじゃないな。俺も風呂行ってくるわ」


 浴衣を着ることは諦めたくないらしく、スマホで浴衣の着付けについて調べる花恋に見送られながら、俺も浴衣を持って温泉へ。花恋は温泉だと言っていたが実際にはただの大浴場じゃねえか、おかしいと思ったんだこんな都心のホテルに温泉があるのかよって……という突っ込みを心の中でしながら汗を流し、帯をきつく締めとけばとりあえず大丈夫だろと花恋に負けず劣らずの適当な着こなしと共に部屋へ戻る。


『えっと~……初体験は中学生でぇ~』

「……」


 部屋のドアを開けようとしたのだが、中で何やら怪しげなインタビューが行われているようだったので、コンコンとノックをする。ブチン、というテレビが消える音がした後、ドアが開いて精一杯の笑みを浮かべた、やや赤面していた花恋が俺を出迎え、俺だと気づいてすぐにげんなりとした表情になる。


「な、何でしょうか~? 何だ理雄か。スタッフかと思った」

「……テレビの課金は自分で払えよ」

「な、何の事かな~? そろそろ寝ようか?」

「そうだな。おやすみ。アメニティにイヤホンがあったぞ、これをテレビにつけて聞け」

「はぁ? 私もすぐ寝るし」


 ホテルのテレビ特有のエロ番組に興味津々ながらも、疲れて眠たいのも本当らしく、電気を消してベッドの片側で横になる花恋。俺も後には引けなくなってしまった感があるのでソファーに寝転がり、やはり寝るには適していなかったのか身体の節々に痛みを感じながら目覚め、案の定寝相が酷く、浴衣もほとんどはだけてしまっている花恋に布団をかけ直してやり朝風呂へと向かう。風呂から出て部屋に戻る途中、もう昨日の悲劇は繰り返したくないのか既に私服に着替えていた花恋と鉢合わせする。


「おはよう花恋。今日はウサギと猫を見に行くんだろ、どっちも船に乗るんだから酔い止めとか途中で買っておけよ」

「……おはよう」


 ぼさぼさの頭と不機嫌そうな顔の彼女が朝風呂でまともになることを祈りつつ、部屋に戻って置いていく荷物と持っていく荷物を分け、戻って来た花恋と共にアニマルセラピーへと向かう。髪型は風呂でまともになったが、その表情は低血圧ということもありまだ不機嫌なままだ。


「ウサギ美味しい鹿野山……小鮒釣り師、鹿野川」


 ウサギがたくさんいる島で馬鹿な事を言いながら触れ合おうとする花恋ではあるが、彼女の不機嫌そうな表情がオーラとして出ており動物がそれを汲み取ってしまうのか、ウサギは彼女を避けて近くにいる俺に擦り寄って来る始末。彼女に睨まれながら擦り寄ってきたウサギを捕まえて渡してやり、腕の中で暴れるウサギを撫でる彼女を眺める。ウサギと触れ合った後は猫だらけの島にも行って同様に猫と触れ合ったのだが、花恋は一日ずっとご機嫌ナナメだった。


「へっくしゅん……動物と触れ合い過ぎて毛とかがかなり服についたか。これが原因でアレルギーにならないといいが」

「そうだね。お風呂行ってくる」


 ホテルの部屋に戻り、お土産とかを整理していたのだが、花恋は浴衣では無く別の私服を持って風呂へと向かってしまう。しばらくして戻って来た、私服から私服に着替えた花恋はあー疲れたといいながらすぐに布団に寝ころんでしまった。昨日との違いは片側を使っていたのが枕を繋げて真ん中に寝ていることだ。


「俺が悪いのか……」


 風呂に浸かりながら、彼女の機嫌を直すために必要な覚悟について考える。彼女の性欲が人並み以上にあることはわかっているし、同級生のカップルも当然のように夢の国に行ったり、道端で襲ったりと青春をしているのだから何ら不自然な事ではない。何なら俺達はお互いの行為を覗き見し合っている過去もある。ただ幼馴染という関係性が、どうしても彼女を妹のような存在として見てしまう部分もあるのだ。


「花恋! 本当のカップルになろう!」


 色々と悩みながら長風呂をした結果、据え膳食わぬは何とやらという結論に至り、ホテルの外に出てコンビニでゴムを買って威勢よく浴衣姿で部屋に戻る。


「すぅ……」


 しかし長風呂をし過ぎたせいか、花恋は既にスヤスヤと寝息を立てていた。まぁ、冷静に考えたら花恋は一緒に寝ることは望んでいた節があったがそれ以上は言及していなかったもんな、と寝相の悪い花恋をベッドの片側に配置し、もう片側に入り込んで気持ちばかり花恋の手を俺を抱きしめるように動かして就寝する。


「ぎゃああああああああああっ!」


 翌朝。目が覚めた花恋が隣で寝ている、抱き枕のようにしていた俺に気づいて驚いてベッドから転げ落ちてしまい、俺が枕でガンガンと殴られ続けるというトラブルはあったもの、家族へのお土産を吟味する最中の彼女の表情はとても上機嫌だった。

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