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彼女は数時間で三回吐く

「旅行に行くのはいいけど、お前と違って俺は平日には学校に行かないといけないんだからな。土日しか動けない」

「週末は混んでいるから嫌だ。楽しめない」

「無茶を言うなよ」

「可愛い彼女の為に学校を数日サボることも出来ないの?」

「うーん……? 考えてみれば今までも早退してたりしてたな……? いいのか……?」


 引きこもっている花恋が外に行きたいなんて言うのは感動的なので勿論断ることはせず、二人だけの修学旅行のプランを考える俺達。人混みの嫌いな花恋は当然のように平日の旅行を希望し、俺も別に皆勤賞を目指している訳では無いしそもそもヒスを起こす花恋を宥めるために早退を繰り返しているので2、3日風邪で学校を休むことにしておいてもいいかと押し切られてしまう。


「それで、どこに行きたいんだ?」

「広島。私もウサギとか鹿とかと遊びたい」

「待て待て。下見をする教師じゃあるまいし、どうして同じ場所に二回も旅行に行かにゃならんのだ。お前もある程度は俺越しに楽しんでたろ」


 折角なら彼女との旅行を楽しもうと思ったのだが、彼女は俺のカバンから修学旅行のしおりを取り出して突きつけて来るため思わずため息をついてしまう。何が悲しくて一度行った場所にもう一度行かないといけないのか。


「見てたら実際に行きたくなった。理雄も、彼女と一緒に行けなかった修学旅行なんて消化不良でしょ?」

「頻繁にお前の声が聞こえて来たからそうでも無いがな。大体広島なんて面白くもなんともねえよ、頭のいかれたワナビがいそうなとこだ」

「広島はいいとこ! 多分!」


 日頃から花恋を甘やかす癖がついているからか、花恋の希望に合わせて結局旅行先も広島に決まってしまい、修学旅行から帰ってきた翌週には親にもう一度同じお土産を買ってくると伝え、新幹線のホームで学校に風邪で3日学校を休むと伝えて花恋と一緒に乗り込む。平日の朝というサラリーマンが目立つ車内において私服の学生である俺達は非常にレアな存在であり、仕事もせず学校にも行っていないのに旅行を楽しめるからと横で自慢気にしている花恋のように勝ち組気分を味わいたくもなるが、冷静になって考えたらただのサボりで花恋は不登校であり、負け組達の逃避行とも言える。


「うっ、は、吐きそう……」

「デジャヴ……」


 旅行の楽しみ方がわからない、俺のように窓から風景を眺めることもせず、お菓子を食べながらスマホをいじっていた結果前回と同じく気分が悪くなってしまった花恋はトイレへと駆け込んでいく。通信機の本体は花恋の部屋にあるので、今日は花恋の吐瀉の音が聞こえてくることも無く俺はのんびりと風景を楽しみ続けることが出来た。決して寂しくなんて無い。


「スマホばかり見てないで外を見ろ外を見ろ。忍者を走らせるのは楽しいぞ」

「小学生じゃあるまいし……」


 戻って来た花恋の手からスマホを取り上げて、強制的に窓の外を見せる。最初は風景なんて見て何が楽しいのかと文句を垂れていた花恋であったが、忍者でも走らせているのか、引きこもっている自分の人生について考えているのかその後は広島まで無言で風景を眺めていた。


「えーと……ここを右に行けばいいのか?」

「一度来た癖にわからないの?」

「こんなとこは来てねえよ、別のルートで宮島に行きたいなんて言うからだろ」


 広島駅を出た俺達は迷子になりながらも川にある遊覧船乗り場へ。修学旅行の時は宮島の対岸からフェリーに乗っていたのだが、花恋はそんな大人数用のフェリーでは無く、遊覧船に乗って優雅に行きたいと言い出すので原爆ドームの近くにある小型の船に乗り、水面との距離が近いため若干恐怖を感じながらも宮島へと向かう。


「さいとしーいんぐ? おー、ぐれーと!」


 花恋はテンションが上がっているようで、無駄に頭のいい設定を活用し、一緒に乗っていた外国人の観光客と会話をし始める。しかし英単語や文法は完璧に覚えているしリスニングも出来ているみたいだが、発音とかは滅茶苦茶なのが俺でもわかる。向こうも花恋のいんぐりっしゅはあまり理解できなかったらしく、日本語で喋っている俺との方が意思疎通が出来ているという悲しい事態に。


「ふふん、理雄ももう少しいんぐりっしゅを勉強した方がいいんじゃない? これからの時代はぐろーばるだよ。きゃー鹿ちゃん可愛いー……うっ、近くにいると結構匂うしあたりにフンが落ちてる」

「そうだな……もっと他人と会話しないとな……さて、どうする?」

「山に登ろう」

「……! 変わったな、お前」


 宮島に到着し外国人と別れ、早速お出迎えしてくれた鹿を撫でながら、部屋で眺めていた時とは違う現実に軽いショックを受ける花恋と共に、宮島で何をするかは決めていなかったのでこれからどうするかを観光スポットが貼り出された地図を眺めながら考える。最近ハマっているというキャンプ漫画原作のソシャゲに影響されたのか、数百メートルある山を登ろうと言い出す花恋。彼女の成長っぷりに感動し、途中で揚げもみじを奢りながら山の入口に向かうが、当然のようにロープウェーに乗ろうとした花恋の首根っこを摑まえる。


「楽をするんじゃない。俺の感動と揚げもみじを返せ」

「ロープウェーがあるのに使わない方がおかしい。もうお腹の中」

「じゃあ吐け。吐くの得意だろ」

「好きで吐いてる訳じゃない!」


 腹パンでもして無理矢理揚げもみじを返して貰おうかとも思ったが、登山用の服装をしている訳でもないし、それなりに時間もかかりそうなので素直に花恋の提案に乗っかりロープウェーへ。最初は歩いて登る人を見降ろしながら、見下しながら眺めていた花恋であったが、そういえば高所恐怖症だったと思い出し目を瞑りながらしゃがみ込むという間抜けな姿を晒す。このロープウェーには俺達しか乗っていないし少しいたずらをしてやろうとロープウェーを揺らし、パニックになった花恋はロープウェーが山頂付近に到着すると急いで茂みに駆け込む。俺の揚げもみじは大地に還ったらしい。


「頂上からの眺めは絶景だな。花恋もそう思うだろ?」

「ひぃぃ見たくない! さっさと降りよう! 上りはきついけど下りは多分楽!」


 結局頂上でのんびりと景色を楽しむ余裕は無かったらしく、やっぱりキャンプは漫画やアニメやゲームで楽しむに限ると言いながら、下りのロープウェーに乗ることなく登山ルートを我先にへと降りていく花恋。久々の運動をしたからか、お腹の中のものを全部大地へ還したからか、入口に戻る頃にはお腹が空いたからまた揚げもみじを奢れと言い出すので奢りはしないけど穴子飯を食べようと、お昼時になったので名物料理を二人で味わう。


「ジェネリックウナギもなかなか美味しいもんだね」

「お前今まで穴子の事をそんな風に見てたのか……」

「うっ小骨が……」

「天罰だよ」


 穴子に対し失礼なイメージを抱き、骨が喉に刺さって苦しむ花恋。そして花恋のせいで俺も目の前の穴子飯がうな重の劣化版にしか見えなくなってしまい、どことなく虚しさを感じながら昼食を終えてしまう。その後は俺にとっては数日ぶりの宮島水族館に向かい、最初こそ海洋生物を見て楽しそうにしていた花恋だったが、別に水族館なら近くにもあるよねと冷静になってしまったので別の場所に行くかと本土に戻るためにフェリーに乗る。


「知ってる? あそこに見える白い建物、あれ美術館なんだけど宗教施設なんだよ。だからテレビとかで鳥居からの景色をあんまり映せないの」


 フェリーの船室では無く甲板から景色を眺め、どうでもいい豆知識をひけらかし、本土に戻る頃には船酔いをしてお家芸を披露する花恋であった。

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