彼女は修学旅行を欠席する
「本当にありがとう、全部永田さんのおかげよ。私に出来ることがあったら何でも協力するわ、勿論友達としてもね。……あ、動画撮ってるでしょ? 頂戴」
首藤さんと既に尻に敷かれてしまった吉田が付き合うことになり、首藤さんは花恋の部屋で心からの感謝を繰り返し、私達は親友も同然だと告げる。そんな首藤さんに震える手で動画を渡し、彼女が部屋から出て行くのを見送った花恋は、自分が協力したとは言え腑に落ちないと言った様子で、疲れたのかベッドに横たわる。
「女怖い……」
「良かったな花恋。お前のおかげでまたカップルが出来た。友達も出来たんだし学校に行こうか」
「理雄はあれが私の友達でいいと思っているの!? 変態ストーカーレ〇パーが友達で!」
「お似合いじゃないか」
花恋は首藤さんを友達と認めたくはないらしいが、結局一緒に街に遊びに出かけて大きく見せるブラを買ったらしく、胸部は少し膨らんでいた。俺の知らないところでやり取りもしているみたいだし、自称親友の富永さんを除けば花恋にちゃんとした友達が出来たことになる。彼氏も友達もいるのに学校に行きたく無いなんて贅沢な悩みを抱えているお姫様を眺めているうち、そういえば渡すものがあったとカバンから封筒を取り出す。
「何これ」
「修学旅行の積立金。ひぃふぅみぃ……結構あるな。折角だし俺達も小旅行するか?」
首藤さんは修学旅行の直前に恋人が出来て滑り込みセーフといったところだが、残念ながら花恋は間に合わずに修学旅行は欠席となってしまった。本来であれば俺も花恋も親に返すべきお金ではあるが、折角だし二人で思い出でも作らないかと、俺の分のお金を数えながら観光地を列挙して行く。
「……? 何で理雄もお金持ってるの」
「俺だけ修学旅行に行ってもお前が寂しがるだろ?」
恋人が一人部屋で寂しくしているのに一人で修学旅行に行っても虚しいだけだ。少し痛い彼氏な気もするが、だったら暇な花恋と一緒にどこかに遊びに行った方がマシだと俺は修学旅行を自主的にキャンセルしていた。そんな俺の恋人想いな行動だが、花恋は呆れた様子だ。
「はぁ……いい? 私は理雄を通じて外の世界の様子を見れるんだよ。つまり、理雄が修学旅行に行けば、私は自宅で修学旅行を楽しめる! 無料で! だから私の為にも修学旅行に参加して!」
「それを修学旅行を楽しむ、と言っていいのか……?」
俺越しに修学旅行を楽しみたいから欠席するな、今すぐ積立金を払って来いと俺のカバンに封筒を捻じ込む花恋。最近は動画やVRで旅行気分を味わうなんてのも珍しく無いと聞くし、そもそも花恋が一人部屋で寂しくしているなんて事は無く、頻繁に俺に喋りかけて来るので一人で修学旅行に行ったとて虚しくはならない。花恋の期待に応えるため、翌日に修学旅行キャンセルをキャンセルし、適当な班に入れて貰ってその日を待つ。
『うっ、は、吐きそう……』
新幹線やバスを乗り継いで修学旅行先の広島へ向かうのだが、お菓子を食べながら俺越しに風景を見ている花恋は自室にいるのに乗り物酔いをしてしまったらしく、のんびり風景を見ながらまったりとしている時に俺に吐瀉の音を聞かせて来て、つられて俺まで気分が悪くなってしまう。今年の修学旅行のテーマはアニマルセラピーらしく、宮島で鹿と戯れたり、ウサギや猫がたくさんいる島で触れ合ったり、水族館で魚と触れ合うという動物尽くしのプランだ。動物に癒されて花恋の心の闇も晴れればいいのだが、と最初に宮島に向かった俺は辺りをうろついている鹿の方へ向かう。
『鹿可愛い……もっと近づいて』
人間はあまり好きではない花恋ではあるが動物を愛する心は持ち合わせているらしく、花恋の代わりに小鹿に近づいて撫でてやると、普段では絶対に聞かせてくれないようなとろけた声を花恋が出す。お昼ご飯にこればかりは俺越しに体験することが出来ない花恋の恨み言を聞きながら穴子飯を食べ、午後に水族館に向かい、アニマルセラピーの代表であるイルカのコーナーへ。
「知ってるか? イルカとクジラの違いって大きさだけなんだぜ」
『なめてんのか?』
最早一般常識レベルの、ギャルゲーの選択肢なら確実に好感度の下がる知識をひけらかして花恋に突っ込まれながら、間近で見ると結構歯とかが気持ち悪いイルカと触れ合ったり、クリオネの捕食シーンが見たいと言われて水槽の前でじっと待つも、クリオネは滅多に食事をしないし何なら水槽には餌が無いことを知って時間を無駄にしたりと、水族館も満喫して1日目のプログラムは終了。ホテルに向かい、誰のが一番大きいか確かめようなんて馬鹿な事をほざく花恋に電源を切れと怒りながら温泉に入ったりと疲れを癒し、夜中には大部屋でクラスの男子達と盛り上がる。そして男子の会話と言えば恋愛でありエロと相場は決まっており、この日はそこまで仲良くないクラスメイトにも遠慮なく恋愛の話が出来るチャンスなので存分に活かすことにする。
「遠藤は彼女とどこまで進展したんだ?」
「最近はあんまり会えてないのよ、通信の高校通ってるんだけど、地元の大学受験するって今は受験勉強中。俺もその大学行く予定なんだけど、彼女が年上だと辛いよな。まあ、年齢はもっと上なんだけどさ」
「んじゃ、順調に行けば彼女は来年には女子大生か」
「うっ、女子大生、頭が……」
「戸田、最近お前成績どんどん上がってるらしいな」
「うん。犬飼さん頭いい男の人好きだから、クイズとかだけじゃなくてもっと一般知識も頑張ろうって」
「吉田、首藤さんと付き合ったんだろ? 彼女大人しそうだからってあんまりがっつくなよ」
「いや、俺は全然がっついてないっていうか、彼女が……いや、何でもない」
「何か弱い乙女のように照れてんだ」
カップルを3組作り上げた? 実績からか、その後について積極的に聞き出すことで花恋に自信を持たせようとしたりと修学旅行を無駄にせず、その後の日程もお好み焼きを食べたり、島でウサギや猫と触れ合ったりと花恋も楽しめるように満喫して行く。
『う、ううっ……』
「どうしたんだ花恋」
島でウサギに餌をあげながら、花恋も満足していることだろうと思っていたのだが、そんな俺の耳に聞こえて行くのは花恋のすすり泣く声。お腹でも壊したのかと心配するが、
『私も! 修学旅行に! 行きたい!』
「無料で楽しめるって言ってたのはお前だろ……」
結局俺越しの修学旅行では満足できないどころか、実際に行って楽しみたい欲を刺激してしまったらしく、俺には声しか聞こえないがスーパーでお菓子を買ってとじたばたしながら泣く子供の如く、部屋で行きたい行きたいと駄々をこねる花恋。
『皆の楽しい声が耐えられない! 私は自室でもどかしい思いをしているのに、皆は美味しいモノ食べて動物と触れ合ってワイワイ盛り上がって枕投げをして! 単独行動をしろ!』
「無茶を言うなよ。これでも班の人にお願いして少し離れた場所で行動してるんだからな、これ以上離れたら迷惑がかかる。花恋も出前で美味しいもん食べて気分を味わえ。お土産もたくさん買ってきてやるから」
結局これ以上の生殺しには耐えられないのか通信機の電源を切ってしまったのかそれ以降は何も聞こえなくなってしまう。その後は一人寂しく修学旅行を楽しみ、お土産としてお菓子や動物のぬいぐるみを買って花恋の部屋に向かうと、
「日帰りだとこの範囲が限界……り、理雄がどうしてもって言うなら、泊まりもいいけど?」
旅行サイトを眺めながら、小旅行の段取りを決めようとする、1回分の費用で旅行を2回楽しむつもりの彼女の姿がそこにはあった。




