彼女は陰湿なストーカーになる
ある日、グループSNSにメッセージが届く。そこには俺が部屋で寝ているのを背景に、不審者状態の花恋が少し服をはだけさせて自撮りをしているという恐怖的な写真が映っていた。
『何やってんの』
『私のイメージするストーカーの完成系。こういう画像を相手に送れば相手は恐怖を感じると共に、こんな可愛くてエッチな子が俺を好いているなんて! と吊り橋効果が発動する』
『永田さん。少しそれははしたないと思うわ』
暇だからか花恋はストーカー道を極めつつあるようで、その被害を受け続けている俺としては毎日がドキドキだ。そもそも俺に対するストーカー行為はあくまで練習であり、いい加減本番をしろと首藤さんの気持ちを代弁する。少しこのストーカープレイを楽しんでいた節のある花恋はしぶしぶ首藤さんと共に調べた吉田の行動パターンとかを列挙し、本番のために準備をし始める。吉田の後をつけるタイミングとして有効なのは登下校の時だが、下校時はともかく夜更かしのし過ぎで朝が弱い上に外に出たがらない登校時にはストーカーは無理だろうなと思っていたのだが、そんな俺の心配を察知したのか花恋は不審者が二人いる画像をアップロードした。
『改良して積載能力を強化した監視カメラにカツラやマントをつけることで、この通り私の完成。これで家からでもストーカーできる。今は一体しか用意してないけど複数用意することで、相手に先回りや瞬間移動の印象を植え付けることもできる。3人でこのメカ花恋を操作して吉田を追い詰め、弱ってきたら私が直接追い詰める』
とうとう自分の分身を作り出してしまった花恋。ふと圧を感じたので窓の方を見ると、早速メカ花恋が俺の部屋の窓にガンガンと頭をぶつけながらこちらを見ていた。確かに遠目に見ただけでは本物の花恋に見える、単純なストーカー行為だけなら彼女で十分なのだろう。窓を開けるや否や部屋に入って来て俺のお菓子を奪っていき戻って行くメカ花恋を見送りながら、そういえば俺も操作する話になっていたなと操作方法についてレクチャーを受ける。その日の翌日、俺は校門で吉田がやってくるのを待ち、さも偶然出会ったかのように彼の前に姿を現す。
「うっすおはよう……ん、何か変な女がいたぞ?」
「おはよ……変な女?」
「ああ、サングラスとかマントとか、いかにもな怪しい女がお前を後ろからずっと眺めてた。俺が気づいたらすぐ逃げちゃったんだけどな」
「はぁ? き、気のせいだろ……」
実際には学校の前という人が多い場所での尾行は難しいのでメカ花恋は俺のカバンの中に入っているのだが、ひとまず吉田に怪しい女がお前を尾行している、という情報を与える。これで今後メカ花恋や本物の花恋が尾行をした際に偶然ではないという印象を与えることができるはずだ。その日の放課後、エースの座は失ったものの野球部はサボらずに練習には出ている吉田が帰るのを教室でダラダラしながら待つ。ちなみに首藤さんは野球部の練習を教室から双眼鏡で眺めており、気になったクラスメイトに聞かれるとバードウォッチングをしていると答えていた。下校時間になり、あくびをしながら学校を出て行く吉田を俺と首藤さんは追いかけ、人通りが少なくなったところで俺はカバンからメカ花恋を発進させる。俺はメカ花恋のサポート係、花恋は自室からの遠隔操作係、首藤さんは別の監視カメラによる吉田の状況把握係だ。花恋の絶妙なコントロールで気づかれない程度に、離れすぎない程度に吉田を尾行して行くメカ花恋だが、全く気付かれなければ意味が無いし、気付かれるくらい近づいてしまったら捕まってしまう危険性もある。しかし花恋は既に策を考えていたらしく、突然吉田が立ち止まり周囲をきょろきょろと探し始める。
「何が起きたんだ?」
『パラメトリック・スピーカーって知ってる? 特定の方向にだけ音を出せるの。これを使えば、例え周囲に人がいたとしても吉田にだけ声を聴かせることができる。今は人がいないから、単に近くから吉田に声を聴かせてメカ花恋の存在をアピールするくらいだけど』
よく見ると吉田の近くには小型の機械が浮いていた。どうやらあそこから吉田に対して事前に録音しておいた花恋の呪いのような愛の囁きを流しているらしく、スピーカー自体に気づかない吉田はお化けだと思ったのか慌てながら声の主を探す。首藤さんは自分だとバレては困るため、自分の声で愛の囁きが出来ずとても悔しそうだ。
「ひっ……」
やがて吉田は電柱の影から自分を見つめているメカ花恋を見つけてしまい、恐怖で顔が引きつってしまう。しかし相手が小柄な女性だと理解したのか、身構えながらメカ花恋の方に向かって来たため、逃走モードに入ったメカ花恋は近くで隠れている俺の下へ。
「うおっ……何だ吉田か。奇遇だな」
「え、江崎か。今変な女が通らなかったか?」
「はぁ? 誰も見てないぞ? お化けでも見たんじゃないのか?」
「そんなもんいる訳ないだろ! そ、そうだ、お前朝に変な女を見かけたとか言ってただろ、そいつの特徴を教えてくれよ」
「ああ、そういえば朝にお前の後ろにいたな。サングラスかけてて、マントをつけてて……」
吉田がこちらに来るときには既にメカ花恋は俺のカバンの中に仕舞われており、放課後にブラブラしていた偶然吉田に出会ったという体で会話を進めて行く。吉田にメカ花恋の特徴を伝えると、先ほど見た怪しい女と一致していたため露骨に吉田の表情が青ざめて行く。
「あら、二人とも偶然ね。吉田君は随分怯えているようだけど、何かあったの?」
「ひ、ひぃっ!」
「おいおい、失礼だろ、同級生の顔を見るなり悲鳴を上げて。その怪しい女が首藤さんだと?」
「い、いや、悪い。よく見たら俺が見た女はもっと背も低かったし、スタイルも悪かったし、多分顔も悪かった」
そこへこれまた偶然を装って首藤さんがやってきて、女性を見ただけで条件反射的に吉田は悲鳴を上げてしまい、首藤さんにとってはその表情がたまらないらしくこっそりスマホで盗撮をしていた。怪しい女は首藤さんとは全然見た目からして違うと理解した吉田は警戒心を解き始め、背も低いしスタイルも悪いし顔も悪いと言われた花恋は発狂し始める。
「……それってひょっとして、ストーカーなんじゃないの?」
「ス、ストーカー!?」
「まぁ、吉田は昔は二股するくらいモテてたしな。変な女に惚れられたのかもな。今でもモテて羨ましいな、どうぞお幸せに」
吉田から事情を説明された首藤さんは、自分こそが真のストーカーであることを隠しながらメカ花恋がストーカーなのではと伝えて吉田を怯えさせる。俺は嫉妬する男というキャラで吉田を突き放す一方、何か困ったことがあったら力になるわ、と自分は吉田の味方であることをアピールする首藤さん。ストーカーをしているとは思えないくらいの積極性を発揮してアドレス交換までしてしまい、内心ウキウキ気分であろう首藤さんはクールな表情を崩すことなくそれじゃあまたねと俺達の前から去って行き、首藤さんが味方になってくれたことで安心したのか吉田もほっとしながら帰って行く。
『私はスタイル悪くない! 顔も悪くない! そもそも吉田だって別に顔は良くないだろ、野球部エースだからモテてただけで……』
メカ花恋の初陣としては十分過ぎる成果を出したが、吉田にディスられてしまいずっと発狂してしまった花恋。彼女を宥めるために帰りに高いスイーツを買ってやるが、花恋は悔しさから本人よりも胸の大きいメカ花恋二号を作り始めてしまうのだった。




