彼女は不審なストーカーになる
「永田さんのおかげでとても捗ったわ」
「うるさい変態下着フェチ。そんな話をさせるために私の部屋に入る事を許した訳じゃない」
「好きな人が普段着けているモノが欲しいというのは人間として当然の感情よ。江崎君だって、こうして毎日永田さんの家に合鍵を使って入り込んでいるのだから、パンツやブラジャーの一枚や二枚くすねているわよね?」
「……ははは、まさか」
「え、何その変な間。理雄、違うよね?」
何回目かの花恋の部屋での進捗会議。花恋が盗んだ吉田の下着で色々と捗ったらしい首藤さんが身体をくねらせながらこちらにキラーパスを寄越して来たので否定しておく。怯えてしまった花恋が慌てて自分の下着入れを確認しに行き、そもそもどれだけ持っているか把握していなかったと部屋に戻ってくる頃には、先ほどまで浮かれていた首藤さんのテンションはとても低くなっていた。
「はぁ……辛いわ」
「人の部屋で変態になったり落ち込んだりしないで」
「また何か衝撃の事実が発覚したのか? 幼馴染がいるとか」
ここしばらく吉田の私生活を監視していた首藤さんだが、監視が全てプラスに働くとは限らない。現に教室を監視している花恋は何度もダメージを受けている。将来結婚の約束をした幼馴染や、法律上は結婚も出来る従姉妹でもいるのだろうかと落ち込む理由を首藤さんに尋ねると、彼女は心底残念そうな表情で、
「修也君、ストーカーを気持ち悪いと思うタイプのマイノリティな人種みたい」
「当たり前でしょ」
「大抵の男子は女の子にストーカーされるくらい愛されたいと思っているはずよ! 江崎君が永田さんに私生活監視されても文句を言わないのが証拠よ!」
「文句はまぁまぁ言ってるんだがな。……まぁ、否定はしない」
吉田が男子としてはマイノリティであると主張し、自分は恋人もクラスメイトも監視している癖に理解ができないと花恋に鼻で笑われる。監視対象である俺が否定してしまうと花恋が傷つく気がするので否定は避けながら、吉田が家でニュースを見たりしている時にストーカーに対して明確な拒否反応を示していたという首藤さんの嘆きを聞く。
「私が純愛の追跡者だとバレたら引かれてしまうわ」
「カッコつけるな。だったらいい加減ストーカーなんて辞めて告白するべき。もう十分吉田の好みとかは把握したでしょ?」
「どうにかして彼の好感度を稼ぎつつ彼の情けない姿を見つつ私がストーカーだとばれないように立ちまわれないものかしら……はっ、これよ!」
ストーカーをカッコつけて言うと純愛の追跡者になるのかどうかはともかく、首藤さんは普通に告白するという選択肢は無いらしく花恋の部屋に投げ捨てられていた漫画を読みながら悩む。しかしヒントはその漫画の中にあったらしく、首藤さんが開いてこちらに見せてきたページの中には、男が不良に絡まれていた女を助けて惚れられるという、花恋でもこんな普通の恋愛漫画読むんだなと思わずにはいられないテンプレート。どうやら首藤さんは自分が格好良く吉田を助けて惚れられたいらしいが、仮にも野球部のエースだった彼に都合よく絡んでくれる不良なんているものだろうか。
「こいつじゃ不良は誤用の意味で役不足。吉田にワンパンで倒される」
「何も不良だけが危害の象徴では無いわ。彼はストーカーを気持ち悪いと思っている、それってつまりストーカーを怖いと思っているということになるはずよ。彼はああ見えてお化けとかも怖がるタイプなの。つまり、自分がよくわからない存在にストーカーされていると彼が思い始めればいいの」
「んじゃ今後は後をつけて恐怖心を与えてね」
俺が不良役になる流れかと思っていたのか花恋は俺のちょっとだけ逞しくなったけど運動部に比べたら全然な二の腕を掴みながら肩をすくめるが、首藤さんはストーカーにより吉田を怖がらせて、それを助けて好感度を稼ごうなんてとんでもない自作自演を提案する。確かに文化祭の時も、吉田は出し物決めの時点でお化け屋敷なんて嫌だと言っていたし、自分達で作ったお化け屋敷に入る事も無かったそうだし、シフトも中で脅かし役をせずに受付を希望していた。今思えばあれは子供騙しだと思っていたからでは無く、そういうのが怖かったからなのだろう。意外と小心者な彼がストーカーを怖がるのは納得が行くが、ストーカーの役と助ける役を両立するのは難しいのではないだろうか? そんな俺の疑問に気づいたのか、首藤さんは私が一人二役をする必要は無いと花恋を指差す。
「修也君にあまり顔が知られていない、私と背丈とかも違う、ストーカーのプロがいるじゃない」
「私に好きでも無い吉田をストーカーしろと?」
「永田さん。ストーカーは決して恋愛感情だけが理由じゃないわ。嫌がらせにも使われるの。永田さんのその陰湿な感情を解き放ついいチャンスだと思わない?」
「あれ、私褒められてる? けなされてる?」
「確かにガス抜きはした方がいいかもな」
陰湿と言われてショックを受けながらも、吉田に嫌がらせをすることに対してノリ気になったのか、怪しいストーカーになり切るべくサングラスやマスクやトレンチコートといった不審者セットをいくつか持ってきて組み合わせについて考え始める。円滑な会議のために何で組み合わせに悩むくらいたくさん持っているのかという突っ込みは俺も首藤さんもせずに、怪しさと女の子らしさを両立した、どこからどう見ても危険なストーカーでしか無い花恋を作り上げた。
「これが……本当の私……?」
「そう、これが永田さんのポテンシャルなの。江崎君も、生まれ変わった彼女を褒めてあげて」
「どこからどう見ても不審者だろ。どう褒めればいいんだ」
内面が完璧に表現された、外に出るだけで職務質問をされそうな姿になった花恋だが、本人は何故か鏡を見ながら満足気だ。正直もうついていけなくなったので残りの作戦会議は花恋と首藤さんに任せて家に帰り、翌日の放課後に今日は花恋が全く喋って来ないし反応も無いなと違和感を覚えながら帰路についていたのだが、ふと不気味さを感じて振り返る。
「……!」
そこには少し離れた場所の電柱の影から、不審者が俺を見つめているという夕方にしてはホラーなシチュエーション。俺に気づかれたからか逃げ出す不審者を走って捕まえ、マスクやサングラスを剥ぎ取って不審な素顔を露にする。俺をストーカーしていた不審な女を捕まえたので素顔を見たら美少女だった件、なんて話は始まらず、そこには見慣れた微少女のばつの悪そうな顔。
「何で俺をストーカーしてるんだ」
「予行演習。対象に恐怖を与えないといけないから気づかれるのは作戦のうちだけど、捕まったら意味が無いよね。吉田は多分理雄より足が速いし。そうだ、ローラースケートを履いて逃走力を強化しよう」
例えそれがストーカーの手伝いであっても、やるからには成功させたいという謎の真面目さを発揮した結果、経験値を積むために今日はずっと恋人である俺を尾行していたらしい。そういえば昔、ストーカーと最終的に結ばれたけど癖が治らなくて一緒に帰れないなんて話があったなぁと思い出しつつ、経験を積むのはいいが警察に捕まっても知らないぞと彼女の身を案じる。
「大丈夫。警察って無線機を持っているんだけど、私はその電波を感知することができるから周囲に警察がいるかどうかを把握できる」
「お前一回捕まった方がいいかもな……」
しかし花恋はニヤニヤしながら変な機械を取り出して、近くに警察はいないし近づいてきても逃げたり変装を解いたりできると豪語する。彼女のストーカーとしての適性に怯えつつ、あの時告白を受け入れたことで彼女をギリアウトなレベルに留めておいた自分を褒めるのであった。
ストーカーとストーキングの使い分けが面倒でな……




