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彼女はストーカーに餌をあげる

「それで具体的にどうすればいいの」

「まずは情報収集が大事だと思うの。だから市販の監視カメラや盗聴器を買ってみたんだけど、まさかそれで同業者に気づくなんてね」

「一緒にするな! その市販のは質が悪い、特別にこの花恋千里眼スペシャルネオを貸してあげよう。耐久力が上がったことでぶつけても平気になった」


 首藤さんの一方的な愛情を満たすための作戦会議中、ストーカー初心者である首藤さんはカバンからいくつか監視カメラを取り出すが、それを見た花恋は鼻で笑う。きっと花恋も本格的な監視をする前に、市販のを使ってみたり改造してみたりと色々努力をしてきたのだろう。その努力を別の方向に使っていれば今頃友達もたくさんいたかもしれないのになぁと、不器用な花恋に心で涙している中、花恋はどんどん名前が長くなっていく特製盗撮盗聴機をいくつか俺に渡す。


「吉田は新しく彼女作る気ないのか?」

「うるせえな。こないだも、告白されると思ったらドッキリでさ。やってらんねー」

「勇気が出ないだけでお前の事を好きなやつがいるかもしれないだろ。そいつのために彼女募集中オーラ出しとけよ」

「何だのその下らないオーラ」


 翌日、吉田にそれとなく恋愛に積極的になるように伝えながら、彼のカバンや服に監視器具を忍ばせて行く。首藤さんが自前の監視器具を使わなくなったことで電波障害も起きず、花恋も久々に教室の様子が見れて安心しているようだ。そんなに恋しいならさっさと学校に行けばいいのに。俺のアシストに首藤さんもさぞ感謝していることだろうと、俺達を見つめているであろう彼女の方を向くが、何故か非常に怒っているようだった。


「どうしてあんな事を言うの? 彼が彼女募集中オーラを出したら他の女に取られちゃうじゃない」

「首藤さんは吉田を美化しすぎでは……」

『二股、それも自分の部活のマネージャー二人という件が学校に知れ渡っている以上はそんなクズに告白しようとする女はまずいない』


 休憩時間中に会議(花恋はビデオ通話)をしつつ、恋は盲目状態の首藤さんに冷静なアドバイスをする花恋。恋愛関連のトラブルを解決するのもこれで三度目ということで、昔は妄想デート話をして周囲を引かせていた彼女も現実的な恋愛を考えることが出来るようになったらしい。俺達は吉田の私生活には一切興味が無いので機械の操作方法とかを首藤さんに教えて幸運を祈っていたのだが、その日の夜に俺達のグループラインが震える。


『大変よ、修也君がスポーツ用品店でアルバイトをしていたわ!』

『修也君って誰』

『吉田の下の名前だ』


 俺もクラスメイトもそんな話は聞いたことはなかったが、吉田は家の近くにいるスポーツ用品店でバイトをしていたらしく、お客さんやバイト仲間に吉田を取られると首藤さんは恋する乙女の一面を存分に見せながら慌てる。一緒のアルバイトでもしたら? と得た情報の活用例としてはまともな提案をする花恋であったが、首藤さんはそんな勇気があったら告白していると怒りつつ、吉田のバイトをクビにさせられないかと無茶な要求をしてくる。ストーカーとは言えそれなりのモラルは守るべきだと主張する俺だが、花恋はまだ吉田を嫌っているのかバイトをクビにさせることに対してノリ気になってしまったらしく、俺達は吉田がアルバイトをしている時間帯に花恋の部屋でその様子を取り付けた器具越しに監視する。


「バイトをクビにさせるってどうするんだよ」

「勿論バイトテロをさせる」

「彼はそんなことしないわ。修也君は確かにクズだけど根は良い人よ」


 バイトテロをさせてクビにさせるという恐ろしい発想の花恋は、監視カメラを使って吉田がアルバイトをしている最中にお店にやってきた女性をカシャカシャと盗撮する。そしてスマホを取り出して操作をするが、そこに表示されていたのは吉田のアカウントであった。


「え、何でお前が吉田のアカウント持ってるの」

「私は天才だからアホが設定しそうなパスワードくらい簡単にわかる。このアカウントとさっき撮った写真を組み合わせれば、立派にバイトテロが成立してクビになるはず」

「更に修也君の女子からの評価も下がるわね、是非やりましょう」


 問題発言を連発する花恋を咎めることなく、一緒になって写真と共に投稿する文言を考え始める首藤さん。客の女子とヤリたいとか書けばいいんじゃないかとか、いっそのことスカートの中の画像を出せばいいんじゃないかとか危険な会議を二人で行うのを眺めながら、流石にこれはラインを越えているのではないかと悩んだ俺は、


「それやったらバイトクビどころか退学もあり得るのでは? それ以前にアクセス履歴とかでハッキングばれるんじゃないのか?」


 至極尤もな懸念点を述べて二人を冷静にさせる。二人とも精神がストーカーに寄りすぎて犯罪の重大さをきちんと認識していないようなので俺がストッパーにならざるを得ない。もう少しマイルドにバイトをクビにさせようと会議を続けた結果、飛行能力を有する花恋千里眼スペシャルネオを使って吉田のバイトを邪魔して評価を下げて自然な形でクビにさせるか本人から辞めさせようという、バイトテロとどのくらい悪質さが違うのかよくわからない作戦がスタート。


「あ、あれ? ちゃんと持ったはずなのに」


 品出しのためにサッカーボールを運ぶ、野球部だからかスポーツ関連のアルバイトは真面目にやっている吉田であるが、そんな彼のサッカーボールは花恋の操作するマシンによって彼の手から突き飛ばされてしまう。その後も彼がアルバイトしている時にだけ何故か安めの商品が壊れてしまったり、まともに商品を持つことすら出来なくなってしまったりと妨害を続けた結果、一週間後にはしょんぼりした表情でスポーツ用品店を出る吉田の姿。


「はぁ……イップスになったのかな」


 アルバイトはクビにならなかったものの、イップスになってしまって日常生活も困難になったのではないかと考えてしまった吉田は自分からアルバイトを辞めてしまった。バイト先の同僚や客との恋愛の可能性が無くなり一安心する首藤さんだが、その翌週の昼休憩にはもじもじとした様子になりながら、


「彼の下着とかが欲しいの」


 見ているだけでは満足できないと現物を要求し、花恋は理解が出来ないと呆れかえる。吉田の部屋を監視して色々お愉しみし続けていただが、やはり好きな人の下着は持っておきたいと恋する乙女としてはまとも? な欲望を露にする。


『下着なんて何に使うんだか。臭いだけでしょ。そもそも付き合ってから堂々と貰えばいいじゃん』

「わかってないわね。片想い中の下着と両想い中の下着は違うのよ。あの小さな機械じゃ盗み出すなんて出来ないわ。永田さん学校に行っていないんだから、家に誰もいない時間帯に忍び込めるわよね?」

『私に泥棒になれと!?』


 引きこもってて暇なのだから家族がいない時間帯に盗んで来て欲しいという、肥大した恋心により遠慮がどんどん無くなっていく首藤さん。盗聴盗撮は気軽にやっていいけれど盗難は気軽にやるべきではないという謎の理論を展開する花恋ではあったが、その日の放課後には変装した姿で正門前にやってきており、首藤さんに吉田の私服やらが入っているであろう袋を渡す。


「仕事が早いのね、流石ストーカーの大先輩」

「服を盗むのは無理でも鍵を開けるくらいならあの機械にも出来るし。暇だったし、丁度スパイアニメ見てやってみたかったから」


 アニメに憧れたという理由で気軽に盗難をやってしまった花恋に感謝しつつ、今夜はきっとパーティーなのだろう、スキップしながら家に帰って行く首藤さん。


「ねえ理雄。私ってあれと同類なのかなぁ……」

「すぐに行動に移そうとするだけ向こうの方がマシかもよ。監視するだけでダラダラと何もしないから犯罪歴も増えて行くんだ」


 そんな首藤さんを見送りながら、すっかり汚れてしまった自分の手を見つめる花恋であった。

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