彼女は略奪愛にまた憤慨する
花恋が教室に仕掛けた監視カメラの類は相変わらず調子が悪く、俺に仕掛けられている装置も教室の中に入ると不調になるということで電源も切られ、最近は授業中が非常に静かだ。物足りなさを感じながら、授業が終わり休憩時間になると教室を出て、人気の無い場所に向かい授業中に出来なかった分、花恋の愚痴とかを聞くのが最近の習慣。
『もう女子トイレの音は聞き飽きた! 授業中は何も無いし! 休憩時間中は下らない話と汚い音が流れてばかり! 私はそんな趣味じゃないのに!』
きちんと作動しているのは女子トイレに仕掛けた盗聴器のみらしく、監視がライフワークになってしまったせいで他にやることも無いのか、授業中は誰もやってこない女子トイレを盗聴し続け、休憩時間には女子の陰口合戦を聞きながらたまにダメージを受けたりしているという地獄の引きこもり生活を満喫しているらしい。
「神様がもう監視なんて辞めて学校に来いって言ってるんだよ。気になるだろ? 誰と誰が付き合い始めたかなんて話。お前は知らないだろうけど昨日も不動とオタサーの姫が付き合い始めて、戸田も犬飼さんと良い感じということでオタサーが大崩壊なんだ。学校に来れば、色んなゴシップが知れるぞ」
「私はゴシップが知りたくて学校に行く訳じゃない! どうでもいいわオタサーの話なんて」
「はいはい。んじゃ、俺は授業に戻るからな。お前もやることないなら外出て太陽の光を浴びたりしとけ」
教室を監視することでクラスメイトの弱みを握ったり、トレンドを理解したりしてサラッと復帰出来るようにする、というのが花恋の目的ではあるが、それが出来ない以上は今の花恋は女子トイレの会話を除けば教室の事が何もわからないただの不登校でしかない。観念して学校に来てくれればいいのだが、と淡い展望を抱きながら、次の授業のために化学室へ向かう。
『メチルアルコール一気飲みでヒーローになろう』
教室以外なら俺に取り付けられたカメラも通信機も正常に動作するため、今の花恋にとっては移動教室が貴重なクラスメイトとの一方的なコミュニケーションの機会。この日は5人で班を作って実験をするとのことで、適当に普段つるんでいる男子の班に混ぜて貰う。4人は集まったが残り1人はどうしよう、別に4人でいいんじゃないのかなんて話をしていると、一人の少女がスッとこちらの机へやってきて俺の正面に座る。
「……」
「えーと、首藤さん、だよね? 男子4人だけど、いいの?」
「構わないわ。元々5人組だったんだけど、ほら」
黒のロングヘアーと非常に白い肌が特徴的な少女の名字をどうにか思い出して、この班でいいのかを聞くと、別の机を彼女は指差す。そこでは3人の女子達が最近出来たカップルの馴れ初めを聞く気満々と言った様子で机を囲んでいた。どうやら5人組のうちの1人に恋人が出来たので、その話をさせるために自分は班から離れたらしい。
「なるほど。俺は構わないよ、皆は?」
「女子は大歓迎だぜ」
「首藤さんよろしくー」
「別に……ふぁ~」
俺達は公式には彼女いないグループなので他の男子も女子は歓迎のスタンスを取るが、二股をかけてゲーセンでの合コンの時もあれだけがっついていた吉田はタイプでは無いのか、それとも色々と自信を失ったのか大きなあくびをして実験にも参加する気ねぇよと言わんばかりに机に突っ伏す。吉田は放っておいて化学の実験をスタートさせながら、残りの二人の男子が首藤さんとお喋りをするのを眺める。
「首藤さんは恋バナに興味ないの? 向こう盛り上がってるけど」
「他人の恋愛はどうでもいいわ」
「じゃあ自分の恋愛は?」
「言うつもりはないわ」
淡々と実験を進めながら、男子の質問にそっけない返事をする彼女。かなり大人しい印象だし、今属しているグループの中でも浮いている方のようなので、花恋と仲良くさせられないかな、なんて考えていたのだが、
『あれ、調子が悪い、何で、教室じゃな、ザザ、ガガガガガガ』
俺越しに実験に参加していた花恋は化学室でも機器が故障してしまったらしく、俺の耳にはノイズが走り始めて電源も切れてしまった。
「……?」
「ど、どうかした?」
「別に」
ノイズで顔をしかめたのが変に映ったらしく、前に座っている首藤さんがこちらをじっと見てくるので適当に誤魔化す。その後は特に何も起こることは無く、一人は寝ており二人は女子との会話に夢中という状態ではあったが無事に実験は成功し、チャイムと共に元の教室へと戻っていく俺達。
『あの女……理雄に気があるんじゃ』
廊下を歩く途中に機器は復旧したらしく、心配と嫉妬の入り混じった声で花恋が呟く。本当にそうならモテ期到来だなぁなんて呑気に考えていたのだが、翌日の昼食時、花恋に干渉されること無くクラスメイトとお弁当を食べている時に、ふと視線を感じたのでその先を見ると、
「……」
恋バナで盛り上がる女子グループとお弁当を食べていた首藤さんがじっとこちらを見ており、俺と目が合いすぐに女子グループの方へと向き直る。花恋の第六感を少し信用する気になった俺は、それからしばらく首藤さんに焦点を合わせて学園生活を送ることに。
「花恋。どうやら俺は首藤さんに惚れられたらしい」
「死にたいらしいな」
ある日の放課後、教室での出来事を全然知らない花恋に俺が出した結論を伝えると、インターネットで爆弾ゲームをプレイしていた花恋はエア爆弾をこちらに投げてくる。
「何度も俺を見てくるんだよ。それで目が合ったら向こうは目を逸らす」
「自意識過剰乙。そうだとしても同じグループの男子目当てでしょ」
「こんなこと言いたくは無いが、あのグループの中では俺が一番スペック高いと思う」
「やべえ、私こんなイキり野郎と付き合っていたのか……」
何度も視線を感じたし、その先には彼女がいた。もしも他の男子目当てなら俺の事は気にせずにその男子を見つめ続けるはずだ。哀れむような視線をこちらに送る花恋に、安心しろよ、告白されてもすぐに断るからさと頭をポンポンし、翌日の朝にそろそろラブレターでも貰うんじゃないかと期待しながら下駄箱を開ける。
『燃やせ燃やせ燃やせ破り捨てろ教室で晒して思い切り笑え』
花恋の第六感も俺の第六感も正解だったらしく、下駄箱には手紙が入っており放課後に体育倉庫の裏で待っているという典型的なラブレターであった。勿論告白に応じるつもりはないがモテ期の到来に舞い上がりながらも、動じない男子を演出しようとこの日は俺を見ているであろう首藤さんの視線を気にすることもなく、何事も無かったかのように一日を終えて、花恋の発狂する声をBGMに指定された場所へと向かう。
『どうせ罰ゲームとかドッキリに決まってるおかしい理雄が二人の女性に愛されるなんて』
「三人だろ?」
『私は別にお前を愛していないステータスのために付き合っているだけであってうがああああああああのクソビッチがあああああああ殺せえええええええええ』
予想した通り、そこには首藤さんがポツンと立っていたので花恋のヒスは心の中でミュートにしつつ、爽やかな男子を演出しながら彼女の前に立つ。
「やあ首藤さん。手紙を書いたのって首藤さんだよね。俺に何か用かな?」
「……わかってる癖に」
「それでも首藤さんの方から言って欲しいなって。いじわる?」
顔を赤らめることも無く、目を逸らすことも無くこちらを真っすぐに見つめる彼女だが、恐らくは覚悟を決めたからなのだろう。告白も3回目という事で余裕が出て来たのかちょっとキザっぽく振舞って彼女の言葉を待つ。
「江崎君、教室を監視してるわよね?」
そして彼女の一言により、ずっと暴れていた花恋の声が止まる。どうやら彼女は愛の告白では無く、俺達の罪を告白しに来たらしい。




