彼女は盗聴器を修理する
文化祭も無事に終了し、高校二年生の日常が戻って来る。とはいえ高校二年生でいられる時期はあまり残されておらず、来年は今年のように俺と花恋が同じクラスになる保証はどこにも無い。
「ねぇねぇ来週映画見に行かない?」
「何の映画だよ?」
「伝説のプロレスラーの生涯を描いたドキュメンタリーなんだけど」
「お前そんなもんに興味あったのかよ……まぁいいけど」
名前も知らないモブの男女が休憩時間中に週末のデートの話をする。文化祭の準備期間中に仲を深めた男女はそれなりにいるらしく、恋人がいる生徒の比率も段々と増えてきた。そして自然と恋人のいない生徒はつるむようになる。
「あ~彼女欲しいな~今更だけど部活入ろうかな~」
「女子の多い部活って例えば料理研究部とかか?」
「料理は全然出来ないからな~、江崎も帰宅部だろ、一緒に部活入って女ゲットしねえ?」
「俺はいいよ」
『あ、そうだ。週末に焼きそばリベンジするから食べて』
花恋がいなくなってから半年が経過しており、元々学校で恋人ムーブをまともにしていなかったこともあり、俺は恋人のいない男子グループへと配属されてしまうことに。モテない男子達の話に付き合っている中、一人の男が機嫌悪そうに机を叩く。
「……部活で恋愛なんてやめとけ」
「やめるべきなのは部活恋愛じゃなくて二股だろ」
「ぎゃはは」
『ぎゃはは』
すっかり落ちぶれてしまいモテない男子グループの一員となってしまった吉田が、実体験からアドバイスをするも周囲プラス花恋にからかわれてしまう。舌打ちをしながら教室を出ていく吉田は放っておき、彼女いない事になってるけど実は彼女いるし何なら彼女と一緒に会話に参加しているという優越感に浸りながらクラスメイトとの仲を深めて行く。そんな日常が数日続いていたのだが、異変はとある日の朝に起きた。
『ガガ……ピー……ガガ……』
教室に入るなり、耳にノイズが走りくらくらしながらも自分の席へ。花恋が何やら言っているようだがノイズ混じりで全く聞くことが出来ず、スマホを開いてSNSで花恋にメッセージを送ってやりとりをする。
『耳がおかしくなりそうだ。電源切れ』
『おかしい、盗聴器も監視カメラも調子が悪い。女子トイレに仕掛けた盗聴器とかは全然問題無いけど、教室に仕掛けたのが全体的におかしい』
『故障じゃないのか?』
『一度に複数が故障なんて現実味が無い……とにかく一度回収して』
花恋が仕掛けた機械が複数不調を訴えているとのことで、移動教室で皆が教室を離れた隙に、授業をサボった俺は教室に巧妙に仕掛けられていた監視カメラや盗聴器を花恋の指示に従い外していく。ついでに女子トイレの盗聴器も外して来いと言われたがそれは無視し、放課後に花恋の部屋に回収した機器を並べることに。
「うーん……壊れては無い。ちゃんとこの部屋で使えばばっちり映ってるし」
「それより俺の身体にもカメラとかがついてるんだろ? それをどうにかしてくれよ」
「わかった。じゃあ目隠しと麻酔するね」
「それより原理とかを説明してくれよ……」
目隠しをされて無資格ナースに麻酔も打たれ、謎の技術により俺に埋め込まれているらしいカメラや通信機も取り外して花恋は一つずつメンテナンスをしていくが、結局異常は見つからなかったらしく数時間メンテナンスを眺めていた俺は再び目隠しと麻酔をされて謎装置を埋め込まれてしまう。改造人間になってしまったことを受け入れ、翌日も教室に人がいない時間を見計らって再び装置を配置していくが、その間も相変わらず耳にノイズは流れるし、監視カメラの方もきちんと動作していないらしく時折花恋の不機嫌そうな声が聞こえてくるのみ。
『もう監視なんて下らないことは辞めろって、神様がお前に言ってるんじゃないのか?』
『そんなことは無い。ガイアは私にもっとやれと囁いている。きっと理雄の取り付け方がおかしいから。放課後にそっちに行く』
『お前が装着した通信機からもノイズが頻繁に聞こえてくる時点でその理論は崩壊してる気がするが……』
自分が作った、我が子のように思っているらしい機器の故障を受け入れることができない花恋は、放課後の人がいない時間帯ではあるもののついに平日の学校にやってくる。
「あー部活しんど……ん? どうした江崎、教室の前で突っ立って」
「何か知らんけど鍵が閉められてるのよ。今他の奴が鍵探してるから少し待っててくれ」
「何か中でごそごそ音がしてないか? おい、もしかしてカップルがしてるのか?」
「さぁ……?」
職員室から鍵をくすね、花恋が入っていった後に教室に外から鍵をかける。そのまま俺に見張りとクラスメイトへの説明をさせながら自分の手で機器を取り付け直す花恋。それが終わった事を確認した俺は、教室の前で待っているクラスメイトに俺も探してくると言って一旦その場を離れ、しばらくして戻って来てポケットに入っていた鍵で教室のドアを開ける。やっと帰れるとクラスメイト達が教室の中へ次々と入っていくが、そこに花恋の姿は無い。そのクラスメイト達も教室から出て行った後、掃除ロッカーの扉が開いて息苦しそうな花恋が姿を現した。
「ま、漫画でよくあるシーンだけど、実際に掃除ロッカーの中に入ったら、苦しい、臭い」
「そうか良かったな、さっさと帰るぞ。お前が学校にもっといたいなら構わんがな」
「理雄も掃除ロッカーの中に入って私と同じ苦しみを味わって。どうしてもと言うなら特別に一緒に入ってあげるから」
「丁重にお断りするよ。どうしても言うならベッドに一緒に入ってやるよ」
「死ねカス。ついでにジャンクショップ行く」
少しゴミの匂いがする花恋と共に、そのまま学校を出て新しい監視機器を作るために電気街の中にあるパーツショップに向かい、この前大量に破壊してしまった花恋千里眼スペシャル(飛行能力を有した盗撮盗聴機)を作るための部品を買い漁るのを眺める。使っている機械はほとんど花恋が部品を組み合わせて自作したものらしく、そんなスキルがあるのなら別に学校に通わなくてもいいのかなと一瞬思ったが、今ですらロクでも無いことにその頭脳を使っている現状、きちんと学校に通って貰わないと今後マッドサイエンティストとして新聞に載ることになるだろう。しかし花恋の頭脳も万能では無いらしく、翌日以降も機器は不調で、俺は定期的にノイズに悩まされることになる。
「とりあえず問題が解決するまでは通信機の電源を切れ」
「そしたら誰が私の独り言を聞くの? 今日だって、大爆笑間違いなしのギャグを考えて授業中に喋ったのに聞いてくれないし」
「独り言は独りでしろ。故障について何か思い当たる節は無いのか?」
ある日の花恋の部屋。ノイズでノイローゼ気味な俺は、自分の独り言がきちんと伝わっていないからか不機嫌そうな花恋に故障の原因について尋ねる。花恋は一つだけ再現できる原因がある、と机の中から機器を取り出した。
「これは市販の盗聴器。私が作ったものとは電波の仕様とかが違う。これの電源を理雄の近くでオンにする」
『ガガガピーガガガガピーガガ』
「うぎゃああああうるせえ! 何でその市販の盗聴器で俺の耳にノイズが流れるんだよ」
花恋がその電源をオンにすると、耳元から大量のノイズが流れて部屋の中をのたうち回る。電源を切って机の中にそれを戻した後、ノートに二匹の蛇が交差している絵を描いてこちらに見せてくる花恋。
「何だこの下手糞な蛇は」
「蛇じゃなくて電波! 近くに複数の電波機器があると干渉してきちんと動かないの。私が作ったのは全部相互干渉しないようにしているのに急に、それも教室の中のだけおかしくなるってことは」
「別の監視カメラとかがあるかもしれないってか? そんな馬鹿な事をするやつが教室に二人もいるかよ」
考えられる原因は同業者の存在だと言う花恋だが、花恋は自分がいかにおかしい人間かを理解していないようだ。そんな人間がこれ以上いるなんて考えたくも無いので、その仮説を否定して俺は翌日からもノイズに悩まされることになるのだった。




