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彼女は文化祭に参加する

「遅い、こんな夜中にプリン食べたら太っちゃう」

「どこかの馬鹿が文化祭に使うアイテムをぶっ壊したせいで作業が遅れてるんだよ」

「とんでもないクズがいたものね」


 素人判断ですぐに修復できるだろうと思っていたのだが意外と自分の愚行の代償は大きかったらしく、緊急事態だと今日のような金曜日には教師にも許可を貰って深夜まで作業をすることになり、夕食も食べてお風呂にも入って後はアニメとかを見て寝る前という状態の花恋は、かなり遅くなったスイーツの到着にご立腹の様子。


「お前の分のノルマはどんな感じだ?」

「私を見くびって貰っては困る。パーペキ。何ならあの女共の作ったものを盗んで来て、私がぶっ壊して作り直す。破壊と創造の果てにこのクラスに本当に必要なのは誰かを思い知らせる」

「また訳のわからんもんに影響されたな……?」


 さっきまで読んでいたらしい追放系のラノベを取り上げて本棚に戻しながら、彼女の作り上げたオブジェクトを明日持っていくために回収する。俺の破壊と花恋の授業中の創造が調和を生み、この調子なら文化祭にはきちんと間に合いそうだ。


「で、どうするんだ、当日」

「……」


 一週間後に控えた文化祭の話をするも、その話は聞きたくないとばかりに花恋は食べ終えたプリンのカラを捨てて布団に潜り込み、電気を消して出ていけとスイッチを指差す。おやすみと別れを告げて自宅に戻りそこから一週間、授業と文化祭の準備を繰り返し続け、俺も後ろめたさから可能な限り最後まで残るようにした結果、文化祭を翌日に控えた夜の教室、前夜祭と言う名の飲み会にも参加することに。


「きゃはははは」

「おい折角作ったもんに吐くんじゃね~ぞ~」

「江崎君はビールがいい? チューハイ?」

「ありがとう富永さん。俺はお茶で」


 高校生が教室で飲酒をしているという、皆やっているのに外部に流出したら大変な事になるというこの状況、花恋にとっては絶好のクラスメイト脅しチャンス、もしくは憎きリア充イベントである文化祭ぶっ壊しチャンスなのだがそういうことをする気にはならないらしく、何度か退屈そうな溜め息が聞こえてきた後、盗聴やらの電源を切ったのかブチッという音がしてそれ以降は何の反応も無かった。酔っぱらったクラスメイトが事故を起こすことなく翌日を迎え、文化祭一日目、いわゆる一般開放の無い予行演習も兼ねた学内文化祭が開催される。花恋はここに来る権利はあるのだが、何度か連絡をしても既読スルーをされてしまい、その辺の友人と校内をぶらつく気にもならず、戸田と犬飼さんが仲良さそうに二人で歩いているのをつまらなそうに眺めながら一日目の文化祭をあっという間に終えてしまう。一応お土産に俺が作った出来の悪い上に冷めている焼きそばを持って帰って花恋の部屋まで来たのだが、そんなものいらないと一蹴されてしまい部屋でもさもさと改良点を見出しながら味わうことに。


「こちらパンフレットになりまーす」


 翌日、一般開放もされる文化祭二日目。この日は外部からのお客さんの応対もしなければならないため、自分達が文化祭を楽しむ時間はそれだけ短くなる。俺も朝から外からやって来る人達にパンフレットを渡したり案内をしたりと受付の仕事をやることに。忙しくて花恋の事なんてすっかり忘れていたのだが、自分の勤務時間の終わりが近づいてくる頃に無言で校内に入ろうとしてきた女を見逃すことは無かった。


「おいこら」

「……何でしょうか? 私は二中の生徒ですが」

「嘘つくにしても自分を中学生だと名乗るのはどうなんだ。5分待て」


 似合わないサングラスをつけて不審者ゲージを上げたり、季節柄そこまで不自然ではないマスクをつけたりと彼女なりに頑張って変装をしたつもりらしいが、残念ながら彼女の私服のレパートリーは恐ろしく少ないので全て把握済みだ。無謀にも一人で文化祭を楽しもうとした花恋を少し待たせ、彼女を連れてまず向かったのは演劇部の部室。


「何やってるの」

「俺と一緒にいたらお前だってバレるかもしれないだろ。それにこうして別人になれば、仕事をサボれる」

「ゴミクズ野郎……ありがと」


 今日の舞台で使う衣装とかは既に体育館の裏に持って行っているらしく、もぬけの殻となった部室の中に置いてある適当な衣装を着て、花恋に下手なメイクをしてもらって、どこからどう見ても一般参加の不審者、もしくはどこかのクラスの出し物のために変装をしている生徒となりきる。


「目星はつけてるのか?」

「とりあえずお化け屋敷……今の時間はあーみんが受付してるし」


 クラスメイトのシフトすら把握しているらしい花恋と共に、彼女もある程度は手伝ったお化け屋敷へと向かう。目の前の二人が変装したクラスメイトとは知らずに八方美人な笑顔で受付をする富永さんに見送られ、すっかり闇に飲まれてしまった教室の中へ。


「怖かったら悲鳴出して抱き着いてもいいんだぞ」

「それはこっちのセリフ。滅茶苦茶怖がらせてやるから覚悟しろ」

「何でお前が俺を脅かすつもりなんだよ」


 自分の作ったアイテムが飾られているのを満足気に眺めながら写真を撮ったり、嫌いなクラスメイトの作ったアイテムを見て破壊衝動が溢れ出して来たり、急にいなくなったと思ったら俺を後ろから驚かせようとしていたらしいが、お化け役である別のクラスメイトに驚かされてしまい可愛らしい悲鳴を出し、屈辱だったのかダッシュで出口に向かってしまったりと、まともなお化け屋敷の楽しみ方では無いが教室を出た時の彼女の表情は穏やかだった。


「そろそろ焼きそばを作る時間でしょ、持ち場に戻れ」

「いいだろ、俺がいない方が効率は上がる」

「……」

「……あーはいはい」


 その後は他のクラスの出し物を見たり、学生クオリティの食べ物を満喫していたのだが、本来の俺のシフトの時間が近づいていることに気づいた花恋が屋台に向かうように俺を急かす。色々と察した俺は変装を解いて自分達の屋台に向かい、昨日は調理の大半を他人に任せていたが今日はやる気を出して積極的に鉄板に向き合う。行列の出来ない焼きそば屋台の店主気分を満喫することしばらく、俺のシフトがそろそろ終わるという頃になって普段からよく見ている少女の姿が俺の前に現れる。


「……焼きそば2つ」

「まいどあり」


 彼女の眺める中、慣れていない手つきで具材もほとんど無い、焼き加減も微妙であろう焼きそばを2パック作り上げ、彼女に手渡すと同時にやってきた別のクラスメイトと交代する。近くにあったベンチに並んで座り、もしゃもしゃと出来立ての焼きそばをすすり始めた。


「いいのか? 変装しなくて」

「見えづらいし、息苦しいし。そもそも不登校が文化祭に来ちゃダメな理由なんて、無い」


 周囲の人達が思い思いに文化祭を楽しんでいるのを見て、自意識過剰だと思ったのかサングラスもマスクも剥ぎ取った彼女は、美味しくない、私が作った方が美味しい、一週間後に私が本当の焼きそばを食べさせてやるだの究極の料理人を気取る。この一週間後に彼女の作ったまずい焼きそばを腹いっぱい食べる羽目になるのだがそれはまた別の話。焼きそばを食べ終えた俺達の耳に、体育館の方から軽快な音楽が聞こえてくる。


「お、バンドのライブが始まったみたいだな。行くか」

「勘違い素人集団のノイズなんて聞いてどうするの」

「飛び入り参加で活躍なんてのは無理だけど、来年出る時のシミュレーションには丁度いいだろ」

「出ない。ふん、どうせ今年はアニメに影響された勘違い陰キャ共が醜態を晒すだろうから、それを笑いに行こう」


 文化祭の定番である学生バンドのライブ大会。二人でライブを見ながら周りの客とは違って楽しそうに騒ぐこと無く、この曲知ってる知らないとたまに会話をし続ける。しかし若干冷えた空気の中、下手糞なアニソンをやり切った即席バンドであろうオタク集団に対しては、何か勇気を貰ったらしく花恋は拍手をし始めたので俺もパチパチと全力で拍手をする。つられたのか周囲の客もある程度は拍手をするようになり、オタク達は嬉しそうに袖へと捌けて行った。花恋は欠員の出たバンドに飛び入り参加して演奏を成功させることも出来ないし、楽器未経験で日頃から練習もしておらず放課後にティータイムばかりしている癖に文化祭の時だけ成功させることも出来ないし、実はインターネットの世界では有名なギタリストでも無い。しかしそもそも成功だ失敗だは主観でしかない。例え即席バンドの下手糞な演奏でも、文化祭を盛り上げるのには、自分達のいい思い出を作るには十分なのだ。だから失敗を恐れずに挑戦することが大事なのだ、多分。


「んじゃ、俺お化け屋敷の仕事があるから」

「ん。適当にぶらついて帰る」


 素人集団のライブをしばらく聞いた後、お化け屋敷で脅かし役をするために花恋と別れる。客を驚かせながら、まだ行っていない出し物は何だったか、お土産は何にしようかなんて考えていたのだが、


「あれ? 永田さん、調子は良くなったの?」

「き、きき、今日は、少し調子が良くなった、から、来た」

「そうなんだ。あ、丁度江崎君中にいるよ。それとも知ってて来たのかな?」

「お、脅かしてやる」


 教室の外から富永さんと花恋の声が聞こえて来たので、世話の焼ける彼女だぜと驚かせる準備をする。こうして文化祭のフィナーレを飾る、俺と花恋、お化けと客の仁義無き驚かせ合戦が幕を開けたのだ――!(別に続かない)

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