彼女は文化祭に協力する
「段ボール持って来たぞー」
「ああああ折角作った頭蓋骨が割れちゃったああああ」
「逆にいいんじゃね」
放課後。少しペンキがついて汚れてしまったジャージ姿の俺は、お化け屋敷のために段ボールのお墓を作っていく。文化祭の準備の時は部活組も帰宅部組もこうして教室に残るので、普段喋らない人とも会話が弾む。つまりは友達作りの絶好のチャンスな訳だが、
『……むふーっ』
「うおっ……」
花恋はこのチャンスも逃してしまい、自分の部屋で普段より帰りの遅い俺に苛立っているのか大きな鼻息を何度もしては黙々と作業をする俺の邪魔をする。ASMRにより作業中に突然ビクンとする危ない男という認識を周囲に持たれながらも、この日もトラブル無く作業は進み、下校を促すチャンスが鳴るとクラスメイト達は盛り上がった空気のまま街へと繰り出そうとする。
「江崎もボウリング行かね?」
「悪い、俺用事あるからパス」
クラスメイトの誘いを断り、花恋程では無いが周囲との間に溝を作りながらも着替えて荷物をまとめて学校を出て、帰りにコンビニでプリンを買って自分の家より先に花恋の部屋へ。無言でコンビニの袋を奪い取り、もしゃもしゃをプリンを食べる花恋に、この日は他のプレゼントも用意している。
「何これ」
「お化け屋敷に必要なオブジェクトのリスト。お前手先器用な方だろ? 暇なら作ってくれよ」
「何で私が」
「お前も文化祭に参加したいんだろう? バンドを組んでライブをするなんてのは無理でも、クラスの輪に入ることなら出来る」
お化けの被り物だったり、血のついたお墓のオブジェクトだったり、俺達が学校で授業を受けている間に花恋が作ってくれるなら、花恋もクラスの一員として文化祭の成功に寄与できるし、俺の分のノルマが減るので早く帰ることが出来て花恋の機嫌を損ねない。一石二鳥なんだよと床に投げ捨てられていた、楽器未経験のヒロインが文化祭のバンドに欠員が出たからと飛び入り参加して成功させるなんて花恋の精神が動揺しそうな内容のラノベを指差して、既に用意していた小さい段ボールの束を部屋に置く。
「……バカみたいじゃん。自分が行かない文化祭に協力するなんて」
「何で行かないって決めるんだよ。変装して一般参加したっていいだろ」
「バカみたいじゃん。自分の通ってる学校の文化祭に変装して参加するなんて」
「んじゃ変装せずに行こうぜ。文化祭の時にわざわざお前の事を気にする奴なんて俺以外いねえよ」
クラスメイトが文化祭の為に一致団結しているのを部屋で一人眺めるのが彼女の精神状態に良い訳が無いので、出来に応じて高いスイーツを買ってやるからと強引に部屋の中に道具を置いていく。ふん、と鼻を鳴らしながら投げ捨てられていたラノベを読み始めたので、気長にやるかと俺も自分の家へ帰る。翌日、のんびりと授業を受けていると、
『ズガガガガガガガガ』
「うぉっ!?」
突然耳元で轟音が流れ始め、文化祭の作業中のみならず授業中にも突然ビクッとする危険な男だと周囲に思われながら、スマホで花恋に五月蝿いと文句をメッセージを送る。
『文句あるか』
しばらくしてスマホに届いたのは、電動ドライバーを持って作業をしている彼女の自撮り姿。自分で作業をしろと言った手前文句を言うことなんて当然出来ず、電動ドライバーやトンカチといった工具の音に悩まされながら非効率な授業を受ける。
「がおーっ、お化けだぞー怖いぞ~」
「可愛い~」
放課後になりクラスでの作業の時間、教室の一角では女子がシーツを被ってお化けになって騒ぎ始める。部屋で一緒に作業をしていた花恋だったが、その光景が気に入らないらしく何度も舌打ちをし始めた。仕方が無いなと下校時間になった後、俺は可愛らしいお化けの絵が描かれたシーツをくすねてカバンに仕舞い、花恋の部屋に入るや否やそれを被せてやる。
「いきなり何するの」
「うわーお化けだー怖い~でもよく見たら可愛い~写真撮ろうっと」
「理雄は私を何だと思ってるの?」
「わかるよ。下らない事ではしゃぎやがってと苛立つ一方で、憧れもあるんだろう?」
「こんなもんに憧れるか。作業の邪魔だから帰れ」
名演技をかましながらスマホで彼女のお化け姿を撮影すると、がばっとシーツを取り払った彼女がジト目でこちらを見やる。長年の付き合いから花恋の心情を当ててやると、図星だったようでぷいと顔を背けながら作業を続けようとしたので、彼女の手から電動ドライバーを取り上げて代わりに絵の具と筆を渡す。
「一緒にやろうぜ。ドライバーだのトンカチだの、危ないもんばっか使いやがって気が気じゃねえよ」
「明日授業中に悲鳴あげようかな」
「予告されても怖いから辞めてくれよ……」
花恋の方が俺よりも手先が器用なのは知ってはいるが、それでも危険な道具を使わせたくは無いと言うのが男心であり彼氏のプライドであり父性だ。格好つけながら電動ドライバーを使おうとするがあまりにも初心者丸出しの使い方だったらしく、気が気でないのか花恋が冷や汗をかきながらこちらをずっと見守るという情けない流れにはなったが、作業も進み、花恋にも構ってやれたため翌日の授業中は上機嫌そうに鼻歌を歌いながら電動ドライバーの音を鳴らした後に悲鳴を上げて、驚きながらもどうせ事前に言っていたしドッキリだろうと無視した俺に対し『ドッキリだと思っていたとしても心配して呼びかけるとかするのが普通じゃないの?』と珍しく正論を吐く。
「BGMどうする?」
「ネットで怖いやつ探して流したら?」
「それより自分達で録音とかどう? うらめしや~」
その日の放課後、作業途中に女子達がそんな会話をした後に集団でトイレへと向かう。しばらくすると聞こえてくるのは花恋の発狂した鳴き声。だから女子トイレを盗聴するのはやめろと教室を出て人気の無い場所に向かい何があったのかを聞くと、
『あいつら絶対許さないお化けの声の話しながら永田さんとか適役なんじゃないとか言いやがった許さない許さない許さない呪う呪う呪う』
「良かったな、クラスメイトにまだ覚えて貰えて。今の呪詛は最高にお化け屋敷にぴったりだ」
『上等だよ……特級呪物作ってやるよ……』
女子達に自分の暗さを馬鹿にされたと怒りながら、本当に自分の声を録音してネットにアップロードしてBGMにさせるつもりらしく呪いの言葉をずっと呟き続ける。このままでは俺がおかしくなりそうなので、呪いを解くために下校時間になり、皆が帰った後にこっそり教室に戻り、
「悪く思うなよ」
花恋を馬鹿にしていた女子達の作っていたオブジェクトを滅茶苦茶に破壊する。ずっと呪詛を呟いていた花恋だったが、俺の彼氏としては最高の、人としては最低の行為を部屋で眺めているうちに段々と声が明るくなり、
『しゅき……理雄愛してる……あいつらの机もぶっ壊して……そしたら抱いていいよ……』
復讐が成功しスカッとしたのか、にへらにへらと笑いながら普段の花恋では絶対言わないような愛の言葉を囁き始める。俺のやったことは間違いじゃないと自分に言い聞かせようとするが、教室を出ようとしたところで、
『でもこれだと、犯人探しが始まって、最悪私が忍び込んでやったことになるんじゃ』
我に返った花恋が明日の展開に怯え始める。確かにクラスの女子グループの作業の妨害だけすれば、その人達に恨みを持つ者の犯行となるだろうし、花恋に疑いがかからないとも限らない。花恋を守るためにはどうすればいいか、そんなの答えは決まっている。
「絶対許せねえ……俺達の団結の結晶を……」
「折角作ったのに、シーツびりびりだよ……」
「2組のメイド喫茶の看板も壊されたってさ」
翌日。2年生の全てのクラスのオブジェクトが何者かによって壊されてしまうという事態に、クラスメイトは憤慨しながらも負けるものかと団結を強める。これだけ対象が多ければ、特定の誰かを恨んでいる何者かの犯行とはバレないだろう。修復しやすいものを選んだつもりだから許してくれ、とその輪に入りながら心の中で懺悔する俺を、
『犯罪者』
花恋は微笑みながら詰るのだった。




