彼女は幸運の女神様になる
「戸田君ってダンスもうまいんだね、結構カッコいいかも」
「チラチラ犬飼さんの事気にしてるみたいだったよ、気があるんじゃない?」
「えーほんとかなー」
ダンスゲームでそれなりに皆で汗を流し、アイスを頬張りながら休憩しつつ、犬飼さんが戸田を少しイイと思っていることに気づいた富永さんがそれとなく戸田の好意を伝える等してアシストしているのを遠くから照れている戸田と共に眺めていたのだが、気づけば横には地団駄を踏んでいる吉田。
「……ちっ、得意なのを黙ってるなんて卑怯だよなぁ?」
「そ、そんなこと言われても……」
ダンスゲームでも負けてしまった吉田は苛立ちながら戸田に詰め寄る。相手の力量も見極められないから野球部のエースを奪われるのだ、と部屋でゲラゲラと笑っている花恋と共に俺は二人の間に割って入る。
「おいおい、暴力沙汰になったら今度はエース剥奪程度じゃ済まないぞ?」
「言われなくてもわかってるっつうの……おい江崎、お前賢かったよな? 二人であいつらとクイズ対決しようぜ」
「お、いいねぇ。スポーツ問題は任せたぜ」
戸田に突っかかるのをやめ、女子と談笑している不動が戸田のポジキャンをしながら次はクイズゲームなんてどうかと誘導しているのに気づいた吉田は、俺にクイズゲームで組もうと提案してくる。快くそれを了承し、そのまま戸田・不動ペアと俺・吉田ペアによるクイズゲーム対決がスタートする。
「へっ、思った通り、あいつら女子が見てるからってアニメとかゲームとかのジャンルを選択しなかったな」
お互いに得意ジャンルを選んで対決するルールではあるが、女子に見られているということもあり戸田と不動は雑学だとか芸能だとかの一般的なジャンルを選ぶ。こちらは花恋と吉田の得意ジャンルである理系とスポーツを選択し、こちらに有利な状態で対戦はスタートした、と思っているのは吉田だけだ。
「おい、この問題はどっちだ」
『〇が正解』
「ああ、これは×だな。……あれ、違ったか」
部屋で検索エンジンを使いつつ正解を呟く花恋と連携し、わざと問題に間違えては吉田に睨まれる。適当に答えてもそれなりに正解する二択問題や四択問題ではあるが、正解を知ったうえでわざと間違えるようなことを続けていれば当然こちらの得点は低くなる。更にクイズゲームの筐体に二人で並んで座る関係上、
「おっしゃ野球問題だな……正岡子規だ!」
「……さ……お……」
「タイピングおっせえんだよ!」
『まあこの問題の正解は中馬庚なんですけどね』
タイピング問題が出てくると半分は俺が担当することになるので、タイピング苦手キャラを演出しつつ吉田の足を引っ張り続ける。結果として俺達は戸田・不動ペアにダブルスコアをつけられてしまい、吉田のみならず勉強できるキャラとなっていた俺すらかませ犬となる。
「ちっ、野郎と一緒に座ってクイズゲームなんてしたっておもんねーわ。おーい、男女ペアになってクイズゲームやろうぜ」
「あ、いいねいいね。それじゃ私が吉田君と組むよ。犬飼ちゃんは戸田君と組んでね」
「りょうかーい。よろしくね戸田君。戸田君は何が得意なの? 私結構アニメとか見るんだよね」
「……! よ、よろしく……そ、そうなんだ。何のアニメとか見てるの?」
「妹がいるんだけど、日曜日はいつも早起きしてプニキュア見る音で起こされるから自然と見てるよ。今は一人暮らししてるんだけど、お兄ちゃんも家にいる時はよく変なアニメ見てたよ」
吉田が俺をパートナーから解任し、女子と一緒にクイズゲームをしようと提案したので、富永さんが犬飼さんと戸田を組ませ、自分は味方のフリをして吉田と組む。幸いにも犬飼さんは女子の中ではオタクに理解がある方だったらしく、戸田と仲良さそうに会話しながらクイズゲームを楽しんでいく。普段は要領も良いため賢い方だったはずの富永さんが一時的にアホキャラに変貌したこともあり、クイズゲーム対決でも二人は勝利し、その間に会話も十分に弾んだようだ。
「何か俺ばかり甲羅ぶつけられてないか?」
「気のせいだよー」
その後もレースゲームでは戸田に対抗意識を燃やす吉田を、俺と不動と富永さんが3人がかりで妨害したり、プリクラでは戸田と犬飼さんを一緒のチームにさせるなどしてアシストしつつ、最後にメダルゲームで遊ぼうという流れに。自分のメダルを引き出して皆に配ろうとする戸田を、大量にメダルを持っているのは引かれる要素だと思うと止めて、皆でお金を出し合ってメダルを借り、グループになってわいわいと遊ぶことに。
「これってどのタイミングで入れた方がいいんだろ?」
「多分上のプッシャーが向こう側に来た時に入れたら、いい感じに奥に落ちると思う」
「あ、この動いてるのってプッシャーって言うんだ。詳しいんだね」
「ま、まぁ何回かは友達と遊んだりしてるから……」
プッシャーゲームで楽しそうに遊ぶ戸田と犬飼さんを応援しながら眺める。メダルゲームは別に対戦要素が無いので吉田にも適当に女子をあてがっておいていい気にさせていたのだが、吉田の方はそれでも戸田に対抗意識を燃やしているらしく、最初のメダルが無くなっても自腹を切って追加投資をしてまでジャックポットを狙う。ここで戸田がジャックポットを引き当てれば展開としては完璧なのだが、メダルを入れる技術でチャンスは増やすことができるかもしれないが、最後は結局運頼み。俺達の今日の努力を評価してくれと幸運の女神様にお祈りをしていたのだが、合コンの実況に飽きたのかしばらく黙っていた花恋が、気づけば変装をして俺の近くにいた。
「お前いつのまに来たんだよ」
「しーっ。それよりあのメダルゲーム、どうにかして店員にメンテナンスをさせて」
花恋は何か考えがあるらしく、戸田達が遊んでいる隣の空いている席を指差す。俺の分のメダルは既に使い果たしていたので自腹を切ってメダルを借り、無茶な入れ方でメダルを詰まらせ、犬飼さんに若干引かれながらも店員を呼んでメンテナンスをさせる。店員が修理のために筐体のガラスを開けたところで、花恋は何かを数個筐体の中に潜ませた。遠藤の時にも使っていた、飛行能力を有する盗撮機だ。
「メダルゲームを盗撮してどうするんだ?」
「盗撮だけが花恋千里眼スペシャルの仕事じゃない。これはラジコンのように動かせる。つまり」
「恋愛成就のためには不正も止む無しって訳か……いいのか? そんなことしたら壊れるぞ?」
「これ以上あの女と関わるのは勘弁」
犬飼さんが俺を諦めてくれるなら、高価な機械なんて惜しくは無いと彼氏冥利に尽きるセリフを吐いた後、盗撮機を操作するためにコントローラーを取り出して、離れた場所で待機する花恋。俺も花恋をアシストできるように、筐体を眺めながら戸田達がジャックポットチャンスに突入するのを待つ。
「戸田君、これってどれくらいの確率で当たるの?」
「ボールがあの赤い穴に入ったら大当たりだよ。12分の1だね」
「低いんだね。当たったらヒーローだね」
良いムードになりながら抽選を見守る二人。普通にやったら12分の1かもしれないが、運命というのは自分の力で変えるもの。ボールが赤い穴の近くに来た時に俺は花恋に合図を送り、花恋は盗撮機達を一気にボールに衝突させて軌道を強引に操作する。
「あ、当たったよ!」
「何か変な動きしてたような……変な虫? も飛んでた気が」
「幸運の女神様が微笑んだんじゃないか? おめでとう、二人とも」
俺が自腹で使ったメダルと、花恋の大切な機械を犠牲にして、ゲームセンターに祝福の音と大量のメダルが降り注ぐ。これがきっと運命なんだと言わんばかりの笑みを戸田に見せている犬飼さんと、照れながらも折角掴んだこのチャンス、絶対にモノにしてやると決意に満ちた表情をしている戸田を祝福し、失ったものがかなり多いらしくかなり動揺している幸運の女神様を慰めに行くのだった。
「おはよー戸田君。戸田君がお勧めしてくれたアニメ昨日見たんだけど、凄いハマっちゃったよ。あれって続編出てるの?」
「お、おはよう犬飼さん……丁度来月から続編がスタートするんだ」
「そうなんだ、じゃあ見よっかな。あ、LUNEやってる? 一緒にそのアニメ実況しようよ」
翌日。教室にやってきた犬飼さんは戸田に挨拶をしてそのままSNSを交換する。そして俺の隣の席に座ったが、俺に挨拶はしなくなっていた。戸田と犬飼さんが付き合うかどうかは、戸田の頑張り次第だが、少なくとも犬飼さんは俺への興味を失ったようだ。今まで好きだとか諦めないとか言われていたのに突然挨拶もされなくなるのは少し寂しいが。
「……くそ、イチャイチャしやがって」
「どうした吉田、昨日合コンしたんだろ? 彼女作れなかったのか?」
「あいつのせいで散々だったぜ、小遣いも大量に失っちまうしよ」
戸田と犬飼さんを眺めて不愉快そうに貧乏ゆすりをする吉田。作戦のためとはいえ可哀想なことをしたな、いやいや二股野郎にはいい薬だと花恋とやりとりをしていたのだが、これが後々とんでもない事件を引き起こすことを、今の俺達は知らなかった。




