彼女は隣の席に嫉妬する
「50切ったああああああああ!」
「お前の偏差値がか?」
「体重! 私の偏差値は100億!」
ある日の放課後、花恋の部屋でくつろいでいるとトイレに向かった花恋がそのまま体重を計ったようで、嬉しそうに絶叫しながら部屋に戻って来る。俺と花恋と花恋のご両親が一致団結した結果、無事に花恋は適正体重程度まで落とすことが出来た。リバウンドにならない事を祈る。
「お姫様抱っこして!」
「はいはい」
痩せたことが余程嬉しいらしく自分からそんなことをお願いして来る恋人に若干ときめきながらも彼女を持ち上げてやる。一緒になって筋トレしていた成果があったからか、彼女が痩せたからかはわからないが昔よりもすんなりと持ち上げることが出来た。
「お前も痩せて自分の容姿に自信がついただろう、学校に戻ろう」
「私が学校に行かないのは容姿に自信が無いからじゃないし。私は中の上!」
気分上々な花恋だったが俺の一言が余計だったらしく、ムッとしながら暴れて脱出し、監視モニタの1つでアニメを見始める。彼女を宥めながら一緒にアニメを見ていたが、ヒロインが男に脅されて服を脱ぐシーンで違和感を覚える。
「おい、これエロいやつだろ。彼氏がいるのにそんなもん見て、セクハラだろ……」
「見たくなければ帰れば?」
「……」
花恋の好みのシチュエーションを知るためだ、と横で無言で卑猥なアニメを見続ける俺。彼女が他の男に脅されて関係を持ってしまい、気づけば彼氏では満足できなくなり他の男のモノになってしまうという極めて胸糞悪い内容で全く反応しなかった。
「何だこの酷い内容は……」
「NTRって言うの。理雄も私を大切にしないと、他の男に奪われちゃうよ?」
「部屋から出ないお前を一体誰が奪うんだよ……泥棒か?」
「うるさい、これから一人で楽しむんだから帰れ」
花恋はヒロインが複数の男に求められている、という部分で興奮しているらしく、もじもじしながら俺を部屋から追い出す。襲って欲しいのだろうか? と悩みながら帰宅。それからしばらくは特に何もない日常を送り、彼女のいない学校で席替えが行われる。
「江崎君、隣の席だね。よろしくー」
「よろしく犬飼さん」
「最近江崎君逞しくなってるよね、運動部に入ったの?」
「いや、帰宅部だけどちょくちょく筋トレしててね。犬飼さんはバレー部だっけ?」
「そうそう、次期副部長なんだよ、凄いでしょ」
「既に部長にはなれないことが決まってるのか……」
夜更かしをしたらしくロングホームルームの時間にすやすやと寝息を立てている花恋の分も勝手にくじを引き、交換を繰り返して隣の席になる健気な俺。そんな俺の逆隣には、元気そうな少女が座って声をかけてくる。犬飼さんは富永さんのグループに属するいわゆる陽キャだ。花恋に元気を分けて貰いたいものだな、と思いつつ犬飼さんと談笑をしていると、目覚めたらしい花恋がとても機嫌の悪そうな声で話しかけて来る。
『随分楽しそうに会話してますねぇ?』
寝た子を起こしてしまった俺は、ごめんそれじゃと犬飼さんとの話を切り上げて、クラスの男子の方に向かい新しい席どんな感じよなんて無難な会話に混ざる。ロングホームルームはそうして切り抜けることが出来たのだが、
「昨日のドラマ見た?」
「いや、ドラマは見てないんだ。配信サイトとかで見逃し見れたりする?」
「見れる見れる、探偵モノなんだけどさ、実はスパイダーって仲間が黒幕で……」
「ネタバレしないでよ」
休憩時間だったり、
「お願い、数学の教科書見せて」
「置き勉してないんだ、意外だね」
「いや数学の先生って厳しいじゃん? だから宿題はちゃんとやらなきゃって昨日机で真面目にやったわけ。そしたら宿題と一緒に忘れちゃった。……宿題のプリント貸して?」
「コピーしてもバレるよ」
授業だったりとお喋り好きな陽キャは今まで絡んで来なかった他人との交流を一切苦にせずに距離を詰めて来る。苛立つ花恋の鼻息に悩みながらどうにか放課後を迎え、それじゃまた明日、とバレー部の練習へ向かう犬飼さんを見送った後、花恋の機嫌を直すためのスイーツを買いにコンビニへ向かうのだった。
「あのクソアマ……絶対許さない……人の彼氏を……」
「お前こないだ彼女が奪われるアニメを楽しそうに見てたじゃないか」
「それとこれとは話が別なの! 彼女持ちの男にあれだけ馴れ馴れしく話しかけるとか絶対許さない」
「陽キャなんだからそんなもんだろ、誰とでも仲良く話すんだよ」
スイーツを持って花恋の部屋に向かうと、余程苛立っていたのか既にポテチとコーラで暴飲暴食してリバウンドが心配になる花恋の姿。スイーツは冷蔵庫にでも入れておこうと渡すのをやめると、花恋は今日の教室の盗撮風景を眺めながら犬飼さんを忌々しそうに見つめる。
「あの女、理雄に気があるよ」
「そんな訳無いだろ。席が一緒になったから仲良く話しかけて来ただけだ」
「あの女の逆隣の男子には全然話しかけて無かったよ?」
「既に仲がいいんだろ」
「いや、メスの目をしていた。ナメやがって……」
被害妄想に憑りつかれている可哀相な彼女を宥めていたのだが、『お前にも同じ気持ちを味わって貰う』と花恋は乙女ゲームを起動し、作中の男達に言い寄られてニヤニヤする光景を俺に見せてくる。これでどう嫉妬しろと言うのか、とゲームに夢中になっている花恋を放置して帰宅し、暇潰しに教えて貰ったドラマを見るのだった。
「あ、江崎君おはよー、昨日言ったドラマ見た?」
『無視しろ』
「おはよう犬飼さん。ごめん、眠いから寝させて」
翌日。教室に向かい自分の席に座ると犬飼さんが話しかけて来て、それに反応した花恋がドスの効いた声で呟く。犬飼さんを傷つけることなくこの場を切り抜けるために欠伸をしながら机に突っ伏し、その後の休憩時間も積極的に話しかけてくる犬飼さんを避けるために寝たフリをする、友達のいない学生あるあるを実施。
『寝たフリをやめろ、トイレに籠れ、いや、トイレもやめろ、どっか人気のない場所に……うぐぐ』
花恋は休憩時間の度に寝たフリをする、という行為で色々とトラウマを発症してしまったらしく、休憩時間の度にトイレに籠れとか、人気の無い場所に移動しろとか命令をして来るが、結局どれも過去に花恋が実施しては何らかのトラウマを抱えてしまったらしくうめき声をあげ始めたので、そもそも別のクラスメイトと会話すればいい話かと友人と会話して切り抜けることに。ぼっちの花恋にとってはこれも快くないようだが。
「さっき4組の久我君が女装しててさ~」
「授業中だよ」
「どうせわかんないし」
「俺はわかるんだよ」
「最近江崎君頭も良くなったよね、急に先生に当てられてもすぐ答えるし」
休憩時間中は切り抜けることが出来ても、授業中にずっと寝ることはできない。不真面目な犬飼さんに話しかけられたのをあまり無視しすぎても俺のクラス内の評判が下がってしまうので適度に受け答えをしていると、授業に参加せずに隣の席の男子に話しかけているのがバレた犬飼さんが教師に当てられてしまう。
「(助けて)」
『絶対に助けるな。何なら大嘘を教えろ』
「(ごめん、わかんないや)」
花恋によって作り上げられた偽りの秀才である俺に出来ることは何も無い。教師からの問いに答えることが出来ず説教を食らう犬飼さんに目を合わせないようにして、こんな日常が次の席替えまで続くのか、次の席替えの時には学校に戻ってくれよとため息をつく。しかし予想に反してこんな日常、は数日後に崩れ去ってしまう。
「私と付き合って欲しい、みたいな?」
どうやら花恋の女の勘は当たっていたらしく、放課後に犬飼さんに呼び出されて告白をされてしまったからだ。




