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23話 新たな冒険


 大海原にぽつんと浮かぶ孤島のように、そのオアシスはある。


 イボーン砂漠で唯一の癒やし。クルロ村。

 湧き水は命をつなぐ飲み水であり、旅人や流れ者の乾いた身体を潤す。俺達もまた、全身でその湧き水を感じていた。


「はあーいい湯。料理も悪くはなかったし、最高ね」

「うん。こんなに食べたの久しぶり。あの報奨金も。ふっふっふ」

「でも、よかったんですかウィルさん? 貸し切りの浴場なんて、高かったでしょ?」


「大丈夫、払った価値はある。ほんといい湯だわ。ははは」


 そう。ここは湧き水を利用した浴場なのだ。

 大浴場がある中であえて貸し切りを選んだのは、この光景を楽しむためっ!

 

 絶景かな絶景かな。 


 実際は湯気でよく見えないが、確かに目の前にはタイプの違う美女が三人もいる。

 

 なかなかです。リジーさんもなかなかです。


「どこ見てるのウィル。ウィルっ? ねえ聞いてるの?」


 バランスという意味ではエリーをしのぐかもしれない。服を着ているとよくわからなかったが、着痩せする人なのか。うん。


「ちょっとウィルっ!」

「え、なに? 聞いてるけど。すごいよリジーさんは。いろいろと」

「いろいろ?」


「ごほん。えー、本日は皆さん、ご苦労様でした。当初の予定通り目的地に着き、しかも『破滅』ヴェルドラの捕獲という手見上げを持ってギルドに顔を出せたのは、リジーさんのおかげです」


 あの後、ここにつくまでひたすら歩いた。日が沈んでしばらくに到着し、まずはギルドに出向いてヴェルドラの件を報告した。


 職員は何が起きたのか理解できなかったらしく、ただ口を開けて聞いていた。

 それも無理はない。S級冒険者が討伐出来るかどうかの相手なのだ、数日前にやっと冒険者登録し、これから初のクエストを受けようとする者が代表のチームに、ヴェルドラを討てるなんて想像も出来ない。

 

 俺達がやったということを信じていない様子だったが、報奨金はきっちりもらったので問題ない。

 いまさら名声などいらない。望んだ冒険者であること、おもいっきりやれれば。


「お金はあるもん。この後も飲むわっ! リジーさんもっ、ね?」

「これでいろんなものを家族に買ってあげられる。ふふふ」


 ふたりとも実に楽しそうでなによりだ。


「あたしといると、迷惑がかかるかもしれないんで」

「なに言ってるんですか。今日の報酬はリジーさんが独り占めしてもいいぐらいの働きだったんですよ?」


「えっ!?」


 個別の桶にはられた湯につかる狼をなでていたロリアは、目を丸くしている。


「よかったらこれからもご一緒にしませんか? クエスト自体はこれからですし、もちろん報酬その他諸々はこちらで用意しますから」


 こんな頼りがいのある存在そうはいない。

 詳しくは知らないが、S級並みに強いのではないだろうか。


 リジーさんは熟考していたが、やがてその火照った顔をあげた。


「そういってもらえるなら、よろしく頼む。スキルの件も、いつか実現するかもしれないから……」


 相当嫌いなのか、その強力なスキル。

 しかし、俺が使えるようになれば周りにはどうとでも言うことが出来る。


 それに、俺を頼ってきてくれたのだ、いつか願いを叶えてあげたい。


「よろしくおねがいします」

「よろしくリジーさん」

「新しい仲間っ。ところで報酬の件はちゃんと四等分にするんだよね……?」


「ふふ。面白い人たち。ここまできてよかった」


 笑顔があふれる貸し切りの露天風呂。空を流れる星は、とてもきれい。



 □



 翌日の日暮れ。

 

 周辺国に不安と混乱をまき散らしていたヴェルドラが討伐されたという報は、クラン【落葉の丘】にも駆け巡っていた。

 慌ただしく走り回る職員の額には、汗がにじむ。

 建物の前に押し寄せる野次馬や他のクラン、報道機関は、こぞって討伐した者の詳細を求めていた。


「おれはやると思ってたんだよ、S級がこれだけいるんだもんなあ」

「本当かよ? 言ってもまだこの町に来てもいないのにS級冒険者が動くか?」

「これでまた差をつけられたか……。中堅なら引き抜きたいところだが」


 夜のとばりが降りてしばらく経つというのに、クランの前は熱気に包まれている。


 窓からそれを確認した副代表のセルバンは、いらだっていた。


「なぜ帰ってこない? もう一度伝書鳩を飛ばせっ」

「はっ」


 秘書の男が逃げるように部屋を出るのを見送って、セルバンは深く椅子に腰掛けた。

 

 翌朝には大々的にヴェルドラ討伐の一報が王都をはじめ世界に広がる。

 お祭り騒ぎとなる。被害が甚大だった国から国賓として招かれるかもしれない。


 クランを宣伝するこれ以上ない機会だというのに、その新人たちは王都に戻ってくる気配がない。返事すらよこさないのだ。


「手紙が届いていないのか?」

 セルバンは今年の試験結果が記載された資料に目を通す。

 そのチームには、冒険者として実績をあげている者もいるが、他ふたりは経験ないが、片方は名家の娘だ。血筋からいっても申し分ない。


 実際、属性値が高いことからもそれはあきらか。問題はもうひとりのほうだが、書類にある属性値がでたらめに高い。


 あきらかにこれは正しく測定できなかったものだ。異常値といっていい。すべての属性値が過去に例のない高さ。


 そこに、開いたままの扉をノックする者がいた。無精ヒゲに猫背の中年、S級冒険者でありながらも向上心や出世欲が乏しい変わり者。


「なんだザック、今は忙しいんだ、後にしてくれないか?」

「セルバンよ。内容が悪いぜこの手紙。報酬とA級への昇格で終わっていればいいものを、いまさら前線で活躍して欲しいなんて、もう遅いだろう」


「それは私の意思ではない。ガインズがねじ込んだのだ。代表もこれに同意しているというのだから、はねのけるわけにはいかなかった」


 死亡率の高いクエストの筆頭。稼ぎがよく、多方面に名を売ることが出来るため、実力ある平民をそこで使うのはクランとしてもずっとやってきたこだが。このチームはもはや英雄として対外的な活動に使ったほうがクランの利益になる。どこの貴族も握手を交わしたがるはず。

 

「魔族と戦って死ぬよりは、あの砂漠でのんびり資源採掘していたほうが楽ができるからな。もうあの湯にも浸かったとすれば、抜け出せんよ」


 無精ヒゲをなぞるザックは、にくたらしい笑顔を作って言った。 


「お前、裏から手を回したな?」

「邪推はよくないぞセルバン。たしかにあの砂漠には魔族の資金源があるとの噂もあるが」


 もう一度資料に目を通すと、不自然な配置転換が見つかった。

 ひとりで行くはずだったクエストに、二名も同行することになっている。


 配置について意見できる者はそう多くない。氷付けにしていたクエストに有能な人材を投入できるとすれば、S級の、しかも変わり者ぐらい。


「実力でいえばS級に並ぶかもしれない逸材だぞ!? ふざけるのも大概にしろ」


「お前等も祭りか? その新人の話なら俺もまぜてくれよ。興味がある」


 そこに、怒声を聞きつけたのか部屋に男がやってきた。S級冒険者のレイブン。

 酒でも飲んでいるのか。あいかわらずのくだけた態度にゆるい着こなし。S級として厳格な立ち振る舞いをするよういくら指摘しても気にとめない。


「さっさと帰れ。お前には過ぎた話だ」


 派閥争いにおいて次期代表のレースに大きく出遅れている目の前のザックとレイブン。

 ガキと変人にかまっている時間はない。


 くそっ、平民の中にここまで優秀な者がいるとは。なんとかして引き入れなければ。どうやって。誰か下の人間を直接現地に送り込むか。んん、しかしあの砂漠はオアシスを離れると見つけるのも一苦労……、末端の冒険者では数日と持たない、どうするか。


「俺が行こう。セルバン、生きていたらお前に引き渡してもいい。だから費用はお前が負担しろ」


 レイブンは手を広げて言った。

 こいつの狙いはおそらく、単純な力比べ。その中で自ら自分の派閥に入ると言わせる気だ。強引かつ短絡的。あなどれないのはその方法で何人かの人材を獲得したということ。しかもどこかの派閥に属して結果をあげた後で引き抜く。


 私も何人か持って行かれた。これもカリスマ、か。その点では代表にも引けをとらないのかもしれない。


「いいだろう。約束は守れよ? ザックが証人だ」

「おいおい、お前ら、好き勝手にやってるけど、そもそも彼らは正規のクエストを進めているってこと忘れるんじゃないぞ?」


「あぁ。話し合いで解決するさ」


 レイブンが不敵に笑った。いや、それはザックも同じ。

 なるほど。こいつらは、こいつらなりの方法で代表の座を狙っていたのか。

 

お読みいただきありがとうございます。ここで一区切りです。第1章 完 と言ったところでしょうか。  ‥そしてストックが切れました。


代わりではありませんが、ストックがそこそこある別作品を数分後に投稿します。お読みいただければと思いますのでよろしくお願い申し上げます。

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