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10話 一次試験は


 静まりかえったままだった。


「……」


 口を開かない丸刈り男。

 眉間にしわを寄せ、目をしばたたかせている。

 こめかみを掴むように頭を抱えて、その紙に目を通す。


 あっ、二度見した。


「……」


 俺の属性値、言ってくれちゃっていいのですよ? 全属性で三十超えていますよ?


「すいません。交代してもらっていいですか。休憩いただきます」

「え? ちょっと……、俺の」


 丸刈り頭は振り向いて待機していたクランの人間を呼びつけ、奥の部屋に引っ込んだ。足下がおぼつかない。


「それでは、次」

「ええ?」


 変わりにやってきた女性は、俺の属性値が記された紙を一瞥もせずに感知済みと書かれた木箱に放り込んだ。

 

「ちょっと私抗議してくるっ! やめて離して! あの坊主、許さない!」

「落ち着いてエリー。素行不良で失格にされちゃうよ。いいから、俺は気にしてないから。あれだよ、疲れてて感知の精度が落ちたんじゃないかな」


 ずかずかと乗り込んできたエリーを全力で取り押さえる。


 スキル『感知』は自身の属性値を超えるものは把握できない。

 人間が持ちうる数値は百程度だとされている中で、俺の属性はそれを超えている。


 考えてみれば、この場においても明るみにでなくてよかったのかもしれない。

 信頼を得てから、そしてこちらが信頼できる人間を見つけてから。

 

 それでも遅くないのかもしれない。


「――以上で本日の試験を終了する。後日送る知らせをもって、一次試験の合格者には集合場所を伝えるものとする。解散っ!」


 ぞろぞろと会場を出て行く冒険者たちの中で、その小男は貴族がするようなお辞儀をした。

「わたくしはこれで。次の試験でもお会いできますことを切に願います」

「ええ。お世話になりました。またお会いしましょう」


 スリザはこの後も用があるとかで、足早に去った。



 外に出ると、夕日が町を真っ赤に染めていた。

 太陽は沈みかけている。


 もうこんな時間だったなんて。 


 念のためローブで顔を隠しつつ、エリーの屋敷を目指して町を歩く。


「んー、釈然としない。ウィルが英雄になるはずだったのに」


 隣の娘はまだふくれている。

 

「もういいって。それより今日は疲れた。一日でいろいろ詰め込みすぎじゃない? 足に来たよ、足に」


「ウィル……、すっかり家でゴロゴロする生活に馴染んじゃったわね。店番をしていたときは一日中立ってたんじゃないの?」


 おっと、十歳近く年下の娘に下から見下されているぞ?

 ここはちゃんと弁明しておかなければ、俺の威厳にかかわる。これからも尊敬され、頼られ憧れるよき兄的な存在でありたいのだ。

 

 わかるかエリーよ。


「カウンターには椅子があるから。結構座っていられたから」


「そういう話をしているんじゃないの……」

「……」


 俺をさげすむ目がさらに色濃くなったので、夕食をとる時間まで口を閉じていた。



 十日後。

 俺たちは町外れの平原へと徒歩で向かっていた。

 指示された場所は、もうすぐだ。


「エリーよ」

「なに」

「荷物が多過ぎないかい?」

「合宿だよ? 泊まりなの。いろいろ必要ってわからない? ウィルはもっとこう、女の子についての理解を深めたほうがいいよ? これはおしおきですね」

「……そうか」

「うん」

「じゃあ、さ」

「うん」

「どうしてすべての荷物を俺が持っているんだい? いや、持たされているんだい?」

「……」


 こいつ、答えない気か。

 

 

 一次試験から五日が経過した頃、エリーの屋敷に二枚の封書が届いた。

 裏には赤色の蝋で閉じてあり、印は【落葉の丘】だった。


 結果を通知するものだと瞬時に察したエリーと一緒に恐る恐るそれを開けると、合格したことを示す旨と二次試験の試験場所の地図が入っていた。


 エリーがここまで大荷物なのも、理由は一応ある。

 さすが多いが。


 通知書には、一次試験で測りきれなかった素養、素質についてさらなる把握のためとある。 適性のある依頼、クエストを割り当てるためにも詳細な能力を調べるとも書いてあるが、どのクエストに参加するかは選べないのかな。

 

 戦地に赴くクエストもあるという話だ。さすがに魔族を相手にするのは気が引ける。


「着いたよウィル。指示された集合場所、には誰もいないけど。私たちが一番乗り?」

「他のやつらが全員辞退でもしてくれていたら楽なんだけど」

「そんなわけないでしょ。まったく、本番はこれからっ。気を引き締めていきましょ」


 と言っても、地図にある罰印の場所は間違いなくここだ。


 だが、何の変哲もない平原。椅子やテーブルがあるわけでも、新たな指示が紙に書かれていて、すでに二次試験は始まっている、みたいな趣向を凝らした感じでもない。

 

「地図は、間違いなく王都だよな? ここが大門で、ここが噴水だから――」

「ウィル」

「なに。いま地図で確認してるからちょっと待って。大門を出て、西にまっすぐ――」

「ウィル」

「なんだよ! 今確認してるところ――」


 俺の手持ちの中でもっとも高額な服のそでを力一杯に引っ張るエリーに、少しばかり怒ろうかとするも、それどころではなかった。

 エリーが見上げる視線の先には、人の五倍ほどある骸骨がこちらを見下ろしていた。

 

「避けてウィルっ!」

「ぐえっ」


 避ける必要がないくらいに突き飛ばされたおかげで、その骸骨の拳に潰されずに済んだ。

 骨しかないのに、それらは見えない何かでつながっており、連動するように動いている。


「魔物か? 町の近くに魔物が出るものなのか?」

「いいから武器を構えて」


「俺、武器はなにも持ってないよ」


 少し前までただの店番だったから。武器とか持っていません。

 冒険者も未経験です。


 短剣の一つでも携帯しておくべきだったか。


「!?」


 左足が真横に迫る。


 咄嗟に『土壁』を展開してこれを防ぐ。

 つま先が土にめり込んだ。

 

 あぶなかった。骨だけだから軽いのか。骸骨は俊敏だ。


 ぐりぐりと刺さった足を引き抜こうとする骸骨の左足に、土壁をかぶせるようにして展開。かかとから足の甲までを包み、固定する。


「はっ、これで動けないだろ? 終わりだ」


 とどめに入ろうとするも、骸骨はもう一方の足で土壁を蹴り、手で直接掴んでも抜けないとわかると、ためらいなく足首のところでその左足を折った。


「なっ!?」


 足を失うも、立てないわけではい。そして当然と言うべきか、痛みを感じてもいないようだった。

 

 カタカタ、カタカタ。

 カタカタと鳴り響くのは、肋骨と背骨がぶつかる音のようだ。

 まるで、勝ちを確信した俺をあざ笑っているかのように。 


「……」


 骸骨に、だんだん笑われている気がしてくる。


「ここは私が片付けるから、ウィルは見てて」

 

 前に出たエリーに、背でかばわれる。


 カタカタ、カタカタ。

 歯並びが理想的なほどに綺麗なのも、だんだんむかつく要素になる。


「やっぱり俺がやるから。さがってて」

「え、いいけど。さすがに武器はあったほうが」


「『氷撃』!」


 その娘の心配を吹き飛ばすように、複数の氷塊が勢いよく骸骨に向けて放たれ命中した。


「粉々にして海にまいてやる」

 

 骨に絡みつくようにパキパキと大きくなる氷の塊は、骸骨の俊敏性を大きく落とした。

 左足も失っているため、機動力はかなり落ちている。


「ははは。今度こそ終わりだ!」

 

 スキル『氷撃』を放つ前に、骸骨は左手でつかみにかかってきた。

 甘い。

『土壁』でこれを受け止める。指はおそらく土に埋まって動けないでいるはず。使ってみてわかったことは、やはり土壁は柔軟性にとんでいるということだ。

 土属性と水属性の属性値が高ければ高いほど、展開する壁の質を調節できる。


 適度に柔らかくしたり、粘度を高めたりすれば、壁ではなく罠としても理論上は使えるのだ。

 練度を上げる必要はあるが。


 そうこう思考を巡らしている間に、骸骨の右腕が迫っていた。


「『氷撃』『疾風』」

 

 エリーの放つ氷塊が二の腕をとらえ、氷付けとなったその箇所まで一瞬で距離をつめ、速度を緩めずに蹴りをたたき込んだ。


「すごい」


 ポキリと折れた腕は地面に大きな音を立てて落ちた。質量は見た目よりあるのかもしれない。


「油断しちゃだめっ、わかった?」

「はい」


 つんと胸を張るエリーは、とても自慢げだ。


「!?」

 

 骸骨は、折れた左手を鈍器のように真上から振るった。

 土壁を展開するも間に合わない。

 

「『氷撃』」

 目の前、その真下に放って氷の柱を作る。叩きつけられた左腕は氷の柱を砕くも、勢いは止まった。

 

 なんとか間に合った。

 咄嗟の判断だったが、賭けには勝ったようだ。


「油断したらだめだぞ? わかった?」

「うん……」

 

 反省したのか、しょぼくれたエリーは珍しい。思いのほか可愛い。


「エリー、倒すのを手伝ってくれないか?」

「うん。わかった」


 上半身だけでもがく巨大な骸骨は不気味で、恐怖をあおる。

 ここらで眠らせよう。本来の居場所へ。安らぎを。


『氷撃』 


 俺は左手、エリーは右手。

 

 同時に放たれた氷の塊が骸骨を中心にして積み重なり、小さな氷山のようになり、あたりはようやく静けさを取り戻した。



「んんん。なかなか

見込みがありそう。スキルの練度はまだまだだけれど、連携は悪くないわね。あとは、んんん。二名とも、合格」


 突然、その氷山の頂上に片足で立つ細身の男が現れた。独特の話し方に、身体の線がよくわかる衣服は、道化のよう。


「何者だっ!? 親玉のご登場か。 おいお前、何が目的だ?」

「召喚……。それも魔物系のそれってことは、闇属性もかなり高い。ウィル、相当なやり手よ」


「ああ。ここは同時攻撃で一気にかたをつけるぞ」

「わかった」


「「スキル『氷――」」


 俺は左手、エリーは右手。

 手のひらには氷の塊が徐々に形成される。


「待って待って待って! え、合格って聞こえなかった? 言ったよね? 私言ったよ? これ試験だから、二次試験。私魔族とかじゃないから!」


 慌てて足を滑らせたのか、地面に打ち付けた腕をさすりながら必死に弁明するその男であった。


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