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最初の一殺

本日1回目の更新です。

……………………


 ──最初の一殺



 ミカエラは若い農民と廃村を見晴らすことにできる場所に着いた。


「あそこにいる連中です」


「なるほど。確かに100名程度だな」


 ミカエラはざっと敵の戦力を確認すると、立ち上がった。


「では、行ってくる」


「お気をつけて。奴らの数は多いですが、剣士様ならば勝てるはずです」


「当然だ」


 ミカエラは丘を下り、廃村に近づく。


「おい。誰か来たぞ」


「なんだあ? 女か?」


 そこでミカエラは“竜喰らいの大剣”を抜いた。


「腕に覚えあるものがあらば出よ! ここにいる無法者は私が相手にする!」


 ミカエラはよく通る声でそう叫んだ。


「おうおう。一騎打ちか。おもしれえ。俺が相手になってやるよ」


 傭兵崩れのひとりが長剣を持って、ミカエラに迫ってきた。


「では、いざ尋常に──」


「──勝負!」


 男が駆け出し、ミカエラとの距離を詰める。


「“竜鱗剥ぎ”」


 ミカエラの体が男の背後に回る。


 次の瞬間、男の顔面が切断された。頭から踵までを軸に縦に割かれたのである。


「──!」


 男が悲鳴を上げながらもがき苦しみ、暴れまわる。


 ミカエラはその男の胸に剣を突き立てた。


「次は誰だ?」


 傭兵崩れたちはしんとしている。


 最初に殺す人間はできる限り残酷に殺せとは伯父ジークヴァルトの教えだった。彼曰く『最初に死ぬ人間が綺麗に死ぬと他の人間が死を恐れなくなる。そうすると復讐心で士気が上がって厄介になる。だから、最初の敵はできる限り残忍に殺せ。そうすれば他の人間は死を恐れて、まともに動けなくなる』と。


 ミカエラは忠実にその教えを果たした。


「お、お前、行けよ」


「なんでだよ! 同時に仕掛けようぜ!」


 案の定、敵には恐怖が叩き込まれた。


 こうなってしまえば、敵が100人いようと、200人いようと同じこと。


「“竜鱗裂き乱舞”」


 ミカエラが一気に傭兵崩れたちに斬り込み、傭兵崩れたちが15人あまりばたばたと一斉に倒れる。そのままミカエラは“竜喰らいの大剣”を構えて進み続ける。


「弓兵! 弓兵!」


「近寄らせるな!」


 この混乱した状況にあって、傭兵崩れたちは比較的冷静な判断を下した。遠距離攻撃ならば、あの恐ろしい刃を受けずに住むと思ったのだ。


 だが、その考えはあまりにも甘い。


 ミカエラは自分に向けて飛翔する矢を斬り落とし、一気に傭兵たちとの距離を詰めた。そして、再び“竜喰らいの大剣”が獲物を仕留める。死体が転がり、弓兵たちが恐怖によって手が震え、狙いを定められなくなる。


「“竜鱗裂き円舞”」


 そして、弓兵たちが一斉に討ち取られる。


「ほう。なかなか面白い剣術を使うではないか、小娘」


 そこで男の落ち着いた声が響いた。


「兄貴! 兄貴、頼みます! こいつを止めてください!」


「言われるまでもない。腕試しと行きたい相手だ」


 現れたのは背中に大剣を背負った男だった。彼はミカエラをじっとみると、背中の大剣を抜いた。よく研がれているぎらりと剣呑な輝きを剣は見せていた。


「俺の名はフリッツ・フェーゲライン。水竜流を極めしもの。名を名乗れ、小娘」


「ミカエラ。家名はない。追放された身だ。竜殺流を修めんとするものである」


「竜殺流……? 聞いたことがないな。だが、面白い剣術だ。試させてもらおう」


「受けて立つ」


 ミカエラがそう返事を帰すとフリッツと名乗った男が1ドゥカートコインを指で跳ね上げた。それはくるくると回転し、地面に落下していく。


 そして、落下と同時にフリッツとミカエラが動いた。


「ふんっ!」


「“竜爪砕き”」


 フリッツがその大剣の重さを感じさせずスムーズに振り下ろしたものを、ミカエラは完全に砕き切った。鉄片が撒き散らされ、フリッツが驚愕の表情を浮かべる。


「なかなかやるようだな」


 ミカエラの間合いの外に逃げたフリッツが腰から短剣を抜いて構える。


「だが、そちらの水竜流は大したことがないな。本当に極めたのか」


「貴様……!」


 ミカエラが嘲るようにそう告げると、フリッツは一気に攻め込んできた。


「“竜鱗裂き二連”」


 ミカエラの“竜喰らいの大剣”はフリッツの短剣を握った両手と、首を切断し、鮮血が舞った。フリッツは力なくボトリと地面に倒れる。


「挑発に乗るとは。修行が足りないな」


 フリッツの死体を見て、ミカエラはそう呟いた。


 感情とは武器であるとミカエラは伯父から教わった。


 敵の感情を上手く操ることは勝利へと繋がる。過度な怒りは隙を生み、過度な恐怖は攻撃の機会を失わせる。そうであるが故に敵の感情をコントロールすることもまた勝利する上で必要なことであると学んだ。


 また自分の感情も武器とせよミカエラは教わっている。


 適度な怒りは敵への集中力を高める。適度な喜びは戦闘における恐怖心を相殺する。他の流派では無の境地こそが重要だというが、感情というものがエネルギーを持っているのにそれを使わないのは勿体ないではないかとジークヴァルトは語っていた。


「他に腕試しを望むものはいるか?」


「や、野郎ども! かかれ、かかれ! あの女を叩きのめせ!」


 傭兵崩れに一挙に70名あまり姿を見せる。


「これで全部か?」


「ははっ! いくらお前が強くとも、この数では手も足も出まい!」


「試してみよう。楽しみだ」


 そう宣言してミカエラは挑発的な笑みを浮かべた。


「ク、クソ! やっちまえ!」


「おおおっ!」


 一斉に数十名の敵がミカエラに襲い掛かる。


「“竜鱗裂き大乱舞”」


 襲い掛かった男たちの動きが止まり、それぞれが血を撒き散らすと地面に崩れ落ちる。無事だったのはまだミカエラの間合いに入っていなかった40名あまりの男たちだけだ。他は全員が一瞬にして命を刈り取られた。


「はひっ! ひっ! 冗談だろ! あり得ねえ!」


「怖気づいた、などと言ってくれるな。この程度のことで怯まれては退屈だ」


「畜生、畜生、畜生! 舐めやがって!」


 ここにいる傭兵団の頭目と思しき男が剣をミカエラに向ける。


「俺に続けえっ! この女を討ち取るぞ!」


「は、はい!」


 一瞬は怯んだ男たちが再び、ミカエラに向かってくる。


「そうでなくてはな」


 ミカエラは姿勢を低くし、しっかりと“竜喰らいの大剣”を構える。


「死ね──」


「“竜鱗裂き大円舞”」


 男たちは自分がどうなったのかも分からず、その場で動きを止める。それから鮮血が吹きあがり、男たちが全員地面に倒れた。ひとりの生き残りも存在しなかった。


 そして、ミカエラは血の一滴も浴びることなく、“竜喰らいの大剣”に付いた血を払う。鮮血がばしゃっと地面に散り、一瞬“竜喰らいの大剣”が脈打ったような感触をミカエラは手に感じた。


……………………

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