地下闘技場にて
本日1回目の更新です。
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──地下闘技場にて
地下闘技場はそこそこ大きな街にあった。
活気のある街で、交易の拠点らしく、運河が通り様々な商品が行きかっている。街道でも馬車が列を作って移動している。商人たちの呼び声が響き、ついつい本来の目的を忘れて目移りしそうになる場所であった。
だが、ミカエラはただ領主オイゲンの背中を見て、つかつかと道を進んでいた。その様子には活気どころか、殺気が感じられる。
人々は思わずミカエラを避け、彼女の行く先には人の群れがなくなっていた。
「ミカエラ。勝負の前から気合が入りすぎてるぞ」
その様子にディアナは忠告する。
「一刻も早く、下種な貴族を討たねばならぬという気持ちがある」
「だから、貴族は殺せないって言ってるだろ?」
「殺せずとも方法はいくらでもある」
「物騒なことはやめろよ」
ディアナは不味いことになった場合の脱出ルートを計算していた。
不味いことになったら領主も放っておいてまっしぐらに城門を突破。騒ぎになって城門が閉じられる前に突破し、そのまま南を目指し続ける。そうすればこの領地からは抜けられる。報酬はパーになるが、お尋ね者になっては報酬も使えない。
「ここです」
「ふむ。文字通り、地下にあるのか」
「そうです。行くとしましょう」
領主は地下への入り口の番に立っていた傭兵に何事かを言うと通された。
そして、領主とミカエラたちは地下に潜っていく。
「おっと。これはこれはオイゲン殿。もう諦められたかと思いましたが」
「ほざけ、サミュエル。私は彼女をお前に渡したりはしない」
「ははっ! では、あなたの火竜流が拝めるわけですな」
サミュエルは棒のような男だった。パイプを吹かし、宝石を山のように身に着けてたセンスのなさとその棒きれのような体格から、なんとも悪印象しか受けない。まるで悪趣味を擬人化したような男だなとミカエラは思った。
「いいや。私は戦わない。助っ人を呼んだ」
「ほう。誰です? どこの剣術の達人を?」
「彼女たちだ」
領主はサミュエルにそう言ってミカエラたちを指し示す。
「はあ……。失望しましたよ、オイゲン殿。まさかあのような小娘たちに重責を押し付けるなどとは。地下闘技場は文字通りの殺し合いが繰り広げられるのですよ? それなのにこの小娘たちを自分の代わりにと? なんとまあ、愚かなこと──」
次の瞬間、サミュエルが吹かそうとしたパイプが真ん中からポキリと折れて、地面に灰が零れ落ちた。
「な、な……?」
「私を愚弄するな。次はお前の首がそうなるぞ」
サミュエルがミカエラが斬ったのかと思ったが、ミカエラの帯びている剣は抜かれた様子はなかった。金属音のひとつもしなかったし、そもそもパイプを斬られたのかどうかも分からなかった。
「お、面白い客人を連れてきたようですな。試合が盛り上がるのといいのですが」
「彼女は無事なのだな?」
「無事ですとも。私は借金のカタに手を出すほど落ちぶれてはおりません。ただし、返済期日までは残り1週間ですよ?」
「今日で終わりにする。彼女を返してもらおう」
「そうなるといいですな。ははっ!」
サミュエルはひと笑いすると立ち去った。
「見た瞬間からこいつは下種だと思った。目にもの見せてやろう」
「そうだ、そうだ。ぶちのめしてやれ」
ミカエラが腹を立てるのにディアナがはやし立てる。
「勝利をお願いします、ミカエラ殿!」
「もちろんだ。必ず勝利しよう」
ミカエラは頷き、領主の案内で参加登録を行うことになった。
「このお嬢ちゃんが出場するっていうのか? 冗談だろう?」
「本気だ。登録を頼む」
「分かった、分かった。これで手続き完了だ」
それからミカエラとディアナは選手控室で待機する。
「第1試合だ! ミカエラはいるか!?」
「私だ」
「うむ。来るがいい」
ミカエラは係員に従って地下闘技場の出場ゲートに立つ。
「第1試合! 火竜流王者クリストフに対するは無名の少女ミカエラ!」
観客たちがわいわいと騒ぎ立てる。
「おい。嬢ちゃん。棄権するなら今のうちだぜ。誰に頼まれて参戦したか知らないが、あんたじゃ俺には勝てねえよ。大人しく降参して、さっさとおうちに帰りな」
「あいにく、実家から追放された身でな。それにそちらこそ棄権したらどうだ? 足が震えているぞ? それほどまでに死が恐ろしいか?」
「てめえ……!」
そこでゴングが鳴った。
「死ねやっ!」
「“竜鱗裂き”」
ミカエラと男が交錯し、男ががくりと膝を突くとそのまま倒れた。
「第1試合の勝者はミカエラ! このまま勝ち抜けるでしょうか!」
アナウンスが流れる中、ミカエラは闘技場から控室へとまた戻った。
「嬢ちゃん。なかなかの戦いぶりじゃないか。まあ、飲めよ」
髭を生やした恰幅のいい鎧姿の男がミカエラに近づいてきて、ワインの入った革袋をミカエラに向けて差し出した。
「遠慮する」
「ああ? 俺の酒が飲めな──」
次の瞬間、男の手が光線に貫かれた。
「ああっ! なんだ!? 何が起きた!?」
「あんた、いい酒持っているんだって? あいにくあたしは禁酒中でね」
そこでディアナが姿を見せた。
「あたしの代わりに飲んでおくれよ」
「やめ──」
ディアナが男の口にワインを流し込むと男はびくびくと痙攣し泡を吹いて動かなくなった。ディアナは空になったワインの袋を捨てる。
「言ったろ。ルールなんてないって」
「そのようだな。卑劣な」
ディアナが言うのに、ミカエラは頷く。
「連中は舞台で勝てないと悟ったら、場外で殺しに来るよ。あのサミュエルっていういけ好かない貴族もあんたが負けるのを望んでいる。あたしも最大限援護するから、場外での戦闘に備えな。幸い、ここでは人が死のうが誰も気にしない」
ディアナが殺したワインの男は死体を抱えられ、大きなゴミ箱に放り込まれていた。
「そのようだな。全く、全てが悪趣味だ。気に入らない」
「傭兵崩れのように皆殺しにはできないからな。半分は客の護衛だ。客は勝たせたい選手を勝たせるためにライバルと潰そうとしている。そして、どの選手にとってもライバルになるのはあんただよ」
「それならば思う存分暴れてやり、恐怖を教育してやろう」
ミカエラは剣呑な目線を周囲に走らせ、周囲にいた選手たちが逃げ散る。
「おっかないお嬢様だ。まあ、暴れまくるのはストレス解消にもなっていいだろう。あたしはあのいけ好かない宝石貴族が落ちぶれていく様を見させてもらうさ」
ディアナの視線がVIP席にいるサミュエルに向けられる。
「ディアナ。ともに勝利を」
「ああ。相棒、ともに勝利を、だ。絶対に勝ち進めよな」
「無論だ。その点については心配することや、異論をはさむ余地はない」
ミカエラはそう宣言し、次の戦いに向かった。
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