不安定要素
本日1回目の更新です。
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──不安定要素
領主の城に巨大ワイバーンの首を抱えて飛んでいくアギロ。
「領主の城に先に行かせておこう。あたしたちは途中まで歩いて帰る」
「そうするしかないな」
山を下りて、ミカエラたちは途中まで歩いていく。途中からアギロが戻ってきて、馬に変化するとミカエラたちを背に乗せて、軽快なテンポで領主の城に向かう。
「おおい! 頭は届いたかい!」
「届いたぞー! あんたらマジで凄いな! 領主様と隊長が会いたがっているぜ!」
そして、衛兵が門を開く。門を開いた先には巨大ワイバーンの首が鎮座していた。
「おお! 魔術師殿、剣士殿! よくぞドラゴンを退治された!」
「閣下。先に言っておかなければならない。これはドラゴンではなくワイバーンだ」
「……え? し、しかし、こんなに巨大なワイバーンは……」
「死体を見てもらえばわかるが、前足がこいつにはなかった。ワイバーンであることの証だ。それと死体から分かったのは、このワイバーンは何者かによって魔術を使って、意図的に巨大化させられたものだということだ」
「そ、そんなことができるのか?」
「死体を見た限りではそうだ」
ううむと領主たちが巨大ワイバーンの首を見て唸る。
「まあ、いい! これだけ大きければドラゴンと変わらんだろう。無事に討伐されたことを祝おうではないか。それから報酬の額も変わらんから安心してくれ」
「助かる」
ディアナが後ろでほっと安堵の息を吐いているのは分かった。
「今宵は宴だ! 村のものも呼べ! 盛大に飲んで、食って、歌おう!」
「いいね」
ディアナがにやりと笑う。
領主がそう言い、領主の城に村人たちも集まる。
肉が焼かれ、野菜が煮込まれ、ハーブが散らされ、色とりどりの田舎とは思えぬごちそうが並ぶ。パンも白パンで柔らかく、赤ワインの香りと味は芳醇だ。
「いいワインだね。ここで作っているのかい?」
「そうとも。ここはワイン作りで有名な土地なのだ。ここのワインは大陸中に出荷されるのだよ。ささっ、魔術師殿はいける口のようなのでどんどん飲んでくれ」
「悪いね」
ディアナは赤ワインをがぶ飲みしているが、彼女の酒の強さを知っているミカエラは何も言わなかった。
ただ、少し引っかかることがあった。
「この領地も戦争に巻き込まれたのか?」
「ああ。傭兵を10名ほど雇って、送ったはずだ。うちの領主様は見栄を張らないのがいいところだし、戦況も見えておられた。敵に対して我が国は敗北。一部の領地が併呑された。だが、俺たちには関係のない話さ」
「ふむ」
では、ここでは傭兵崩れは出ないだろうとミカエラは思った。
しかし、先の戦争というのはどのようなものだったのだろうか。ミカエラが知る限り、戦争を起こしていたのはライン帝国南部にある小国家連合と南の巨人オストライヒ帝国だったはずだが。
「しかし、それでは他の領主たちから恨みを買ったのではないか? その誰かが魔術で巨大化したワイバーンをけしかけてきた。そうは考えられないか?」
「ふむ。確かにその可能性は否定できないな……」
衛兵隊長のカミルは考え込む。
「だが、そんな余裕のある領主はいないと思うぞ。どこもここも尻に火が付いたような騒ぎだ。傭兵崩れが居座って、領地は荒れ、税収は低下する。それでいて負けたことで背負った財政的な負担をどうにかしなけりゃいけない」
カミルはそう言って赤ワインを飲み干す。
「ぷはっ! それでだ。うちの領地はワインがあったから助かったが、他はそうでもない。隣の領地なんて傭兵崩れが山ほど居座って、領地を乗っ取ろうとしているとか」
「それはここから北に丘を越えた先の領地のことか? ちょっとした街のある?」
「そうだ。通ってきたのか?」
「傭兵崩れを討伐してきた」
けろりとした表情でミカエラが言うのにカミルは唖然とする。
「た、確かにあのドラゴン……じゃなくて、ワイバーンか。あれを倒せる実力があるならば傭兵崩れの30名、40名程度どうということはないのかもな」
「傭兵崩れは300名だ」
「……すげーな、あんた」
「ディアナのおかげでもある」
そう言ってミカエラは千切ったパンを口に運んだ。白パンは甘くて美味い。
「どこもここも傭兵崩れのせいで荒れている。この領地は奇跡のようだ。しっかりと守り抜かれよ。この領地は今後、経済発展の中心地になるかもしれない。財政的に余裕があり、そして民は満たされ、外敵はいない。今後、大きな街などできるかもしれんな」
「まあ、隣の領地と結ぶ運河をという計画があるが、そこまで発展するものか」
「発展は急ではない。緩やかなものだ。どんな大都市も最初から大都市だったわけではない。城壁の跡を街の中で見かけることがあるだろう。あれは街の年輪だ。昔はここまでの街だった。今はここまで広がったということを示すものだ」
「ふむ。確かに」
「あなたたちも励まれれば、いずれ発展するだろう。私もそれと同じように研鑽を重ね、鍛錬を怠らぬつもりだ。昨日よりよい明日を。人々はそう願って生きるものだろう?」
「ああ。常に未来は良いものだと思ってる」
「それが発展への原動力だ」
人間は常に進歩する。それは明日は昨日よりいい日であってほしいと思うものがいるからだ。人がその一日に満足し、よりよい明日を求めなくなれば人間の発展はそこで止まってしまうだろう。だが、必ず誰かが求める。もっといい将来をと。
そして人類は集落を築き、それは村になり、それは都市になり、それは国家になる。
人類の歴史はよりよい未来を求め続けたことの結果だ。
少なくともミカエラはそう思っている。
そして、彼女自身もその考えに則って動いている。
昨日より強い自分を。明日は昨日より強く。明後日はさらに強く。少しでもいいから強くなりたい。そう考え、行動することでミカエラは進歩する。
ミカエラも最初は剣を振ることすらままならなかったのだ。
「ところで、ミカエラ殿の使っている剣術は何なんだ? 聞いたことのない技名だったし、それにあのワイバーンの真っ二つになった頭。何か特殊な剣術なのか?」
「竜殺流という。人間が単独でドラゴンを殺すための剣術だ。あの木刀を砕いたのは“竜爪砕き”という竜の爪を破壊するためのもので、ワイバーンの頭に刻まれたのは“竜頭落とし”の跡だ。空を飛ぶドラゴンを叩き落とすための技だ」
「単独でドラゴンを……? そんなことが可能なのか?」
「少なくとも私の師匠は13体のドラゴンを単騎で仕留めた。竜殺流によってな。私もいずれは竜殺流をマスターしたという証として単独でドラゴンを殺さなければならない。それが今の私のより良い明日だ」
カミルは信じられなかった。
ドラゴンを単独で殺す? カミルたちはバリスタを4基も準備して、それでも足りないのではないかと相談していたというのに。
この少女がその本懐を遂げたときを見てみたいと思った。
それはきっと素晴らしい瞬間だろう。
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