旅は道連れ
本日1回目の更新です。
……………………
──旅は道連れ
「おお。確かに受け取った。だが、報酬が足りぬのだろう? どうすればいい?」
「あんた、本当に義理堅いね。普通はさっきのバイコーンの首で応じろって言うもんだよ。ほっとくととことん毟られるタイプだね」
「そうか?」
ミカエラが首を傾げるとディアナと“竜喰らいの大剣”が笑う。
「そうだぜ、ミカエラ。お前さんは交渉が下手だ。そのために俺がお目付け役として付いて来たんだけどな」
「うむ。この場はどうするべきなのだ?」
「この魔女に報酬をやって、お前さんも報酬を貰っておけ。バイコーンを斬ったんだ。それに見合うだけの報酬は受け取っておかないとな」
「しかし、あの男爵からそこまで取り立てるのは……」
「大丈夫だ。貴族は金を持っている。貴族と坊主は食うのに苦労しない」
だが、父親を戦いで失い、傭兵崩れに領地を荒らされていたあの男爵に、そこまでの余裕があるようにはミカエラには思えなかった。
「あたしは報酬はもういいよ。あんただけ貰っておきな。バイコーンの角があれば、いろんな薬が作れる。それで満足さ」
「そうか。あなたは優しいのだな」
「おいおい。自分がこき使われて、男爵の分の報酬を肩代わりしたんだから、ここは怒るところだぞ? それだから人がいいって馬鹿にされるんだ」
「むう。そうなのか……」
「まあ、そういう人間も嫌いじゃないけどね。で、聞きたいことがある」
ディアナが尋ねる。
「これからお前さんはどこに行って、何をするつもりだい? その剣の腕前なら、傭兵団で一旗揚げるのもいいだろうし、どこかの貴族に仕えてもいいだろう。あんたの旅の最終目的地を教えてくれないか?」
ディアナの問いかけはミカエラには答えにくいものだった。
「最後の目的地は……決めていない。戦うに値する戦いがあれば戦うし、仕えるに相応しい主がいれば仕えよう。だが、それはかなり先の話だ。私はドラゴンを殺さなければならない。ドラゴンを殺すことで竜殺流を極めたと言えるのだから」
「ほう。ドラゴンを殺すのか? 当然、単騎で?」
「単騎で。そうだ。私はまずそれを果たさなければならないと思っている。もし、それを果たせたのであれば……誰か愛する人を見つけて結ばれたいものだ」
「でも、あんたはその誰かさんが自分より強いことを望んでいるだろう?」
「む。どうして分かった?」
ミカエラが驚いた表情を浮かべる。
「あんたみたいなお転婆を大勢見てきたからだよ。最後は結局自分より強いって条件を捨てるんだ。そのお転婆どもも火竜流を極めていたり、鷲獅子流を極めていたりしたからね。男は結婚する前に殺されちまうよ」
殺し合いで恋愛はできないとディアナは語る。
「しかし、ドラゴンを狩るのか。なるほどね。興味がある」
「む? 興味とは?」
「竜の体はどれも薬の材料になる。魔女にとっては宝の山さ。そいつが元気に炎を吐いているんじゃなくて、くたばっていればね。そして、あんたはドラゴンを狩るという。狩ったドラゴンを私に売る気はないかい?」
ディアナの申し出は意外なものだった。
「それは構わないが……。また私が世間知らずに変な値段で売ることを期待しているのではないか?」
「それは少し。ただ、全部買い取るんだ。それだけの割引はしておくれよ。大店だってドラゴンの死体を丸々ひとつは買い取れない」
「ふむ。異論はない。だが、いつドラゴンと戦うかは分からないぞ」
「だから、あんたに付いていくことにしたよ」
ディアナは衝撃的なことを述べる。
「私に同行すると?」
「女の一人旅ってのも存外危ないものだろう? 世界最高と言わずともそれなりの魔女が付いていってやるんだ。むしろ、礼を言ってもらいたいね」
「そうだな。あなたの薬学の知識や魔術があれば旅は楽になるだろう」
「なら、決まりだ」
ディアナがポンと手を叩くと旅行鞄が現れた。
「さあ、行こうじゃないか」
「準備はもうできたというのか?」
「帰ってこようと思えば、いつだってここには帰ってこれるからね」
「魔術とは……興味深い」
ミカエラはこの魔術は世界を変えるのではないだろうかとすら思った。
「さて、ほら、行った、行った」
ディアナに急かされてミカエラが外に出る。
「湖はどうするのだ?」
「今度は抜かりなくやる。こいつらに警備してもらう」
ディアナが指を鳴らすと、地面が蠢き、そこから土くれの巨人が姿を現した。
「ゴーレムか」
「これは見たこととあるか?」
「ああ。昔、野良ゴーレムを討伐したことがある」
「野良ゴーレム? そんなもの存在しないよ。ゴーレムってのは術者がいないとまた土くれに戻っちまうんだ。そりゃどこかに術者が隠れていたってオチだろうさ。あんたも命を狙われるような立場だったのかい」
「追放された身だ。今は何も語れぬ」
「なら、気が向いたら聞かせておくれ」
ディアナが生成した3メートルあまりの大きさのゴーレムは湖の方に向かっていった。
「それじゃあ、領主の城にお邪魔しようか?」
ディアナがそう言ってにやりと笑った。
彼女たちは迷いの森を抜ける。ディアナがいる以上、森で迷うことはない。あっさりと迷いの森を抜け、外でずっと待っていた衛兵たちと合流する。
「おお。ミカエラ殿、ご無事で」
「ああ。解毒剤も手に入れた。これで騎士殿を治療しよう」
「はい。では、馬へ」
そこでミカエラが困ったような表情を浮かべ、後ろからディアナが姿を見せる。
「その女性は……薬師殿か……?」
「そうだよ。あんたらが“マンティコアの毒針”なんていう猛毒を扱っているから出てきてやったのさ。ミカエラに感謝しなよ」
「おお。それはありがたい……」
まるで神でも拝むように衛兵たちが跪く。
「ちんたらしてる暇はないよ。ほら、アギロ。馬になりな」
黒いカラスは今度は馬に変化した。
「魔術!」
「凄い! 本物の魔術だ!」
ここまでの魔術となるとその操り手は限られてくるのだが、衛兵たちは素直にそれを“マンティコアの毒針”などという猛毒を癒せる人物の成した技として受け取った。
「乗馬の経験はおありか?」
「なんならユニコーンに乗ったことだってあるよ。疑うかい?」
「信じよう」
ユニコーンはバイコーンとは逆に清い身の女性に懐くというそうだ。それは昔の騎士物語に出てきたのでミカエラも知っている。
「それでは戻りましょうぞ!」
「凱旋だ!」
衛兵たちは声高らかに勝利を宣言して、男爵の城に戻っていく。
その後からミカエラとディアナが続く。
「外の雰囲気はいかがだ、ディアナ?」
「変わっているようで変わってないね。領主に仕える兵がいて、その兵は農民から税を巻き上げる。その税で貴族は裕福に暮らす。その魔剣の言う通り、貴族と坊主は飢えたことがないだろうさ」
ミカエラの問いに、ディアナはシニカルに答えた。
「貴族とて飢える時はある」
「その時は領民は死に絶えている。誰にだって死は訪れる。それが早いか遅いかだ。そして、貴族は遅く、農民は早い」
「ここの領主は戦で亡くられた」
「その戦を起こしたのも貴族だろう? 貴族同士の殺し合いは定期的に起きては、周囲に面倒をかける。また今回も傭兵崩れなんかが居ついたんじゃないかい?」
「よく分かるな」
「長年の経験と知識の積み重ねだ」
ディアナはそう言って小さく笑った。
……………………




