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5名の激戦

……………………


 ──5名の激戦



「しかし、ここまで魔力を使うと流石に疲れるね。後で美味い酒でも飲まなきゃやってられないよ」


「助かった、ディアナ」


「まあ、後はあんたに任せるよ、ミカエラ」


「ああ」


 ミカエラは“竜喰らいの大剣”を構え、敵の混乱している隊列に突撃する。


 恐怖はディアナが示した。彼女のゼノン学派としての恐るべき力が、兵士たちの精神に恐怖を植え付けた。敵は怯み、恐れ、攻撃を躊躇している。


 今こそ攻撃の機会である。


 ミカエラは一気に敵隊列に向けて突撃し、剣を振るう。


「“竜鱗裂き大乱舞一閃”」


 歩兵たちが悲鳴すら上げられず倒れる。


「“竜鱗裂き大乱舞反転一閃”」


 オストライヒ帝国という大国の正規軍が成すすべなく斬られる。


「“竜鱗裂き大乱舞輪転一閃”」


 もはや、それは虐殺であった。


 兵士は自分たちを指揮してくれる指揮官を探して右往左往し、指揮官はまだ無事な自分の部下を探して右往左往する。


 そこに容赦なくミカエラが突撃し、相手を斬り刻み、駆け抜けていく。


 何度も、何度も、何度も、何度も。


 鮮血が舞い散り、かつては小国家連合を蹂躙したオストライヒ帝国の正規軍が壊滅していく。血の海にオストライヒ帝国の双頭の鷲の軍旗が沈んでいく。もはや戦闘にすらならぬ血塗れの虐殺が繰り広げられていく。


「た、助け──」


「ああ! 誰か、誰か!」


「化け物だ! 化け物がいる!」


「撤退命令は出ていないのか!?」


 オストライヒ帝国軍は完全な混乱状態で、情け容赦なくミカエラは刃を振るう。


「腰抜けども! かかってこい! 相手になってやる!」


 ミカエラが戦場で吠える。


 だが、もうオストライヒ帝国の士気は崩壊していた。


 歩兵で生き残っているのは100名程度。先ほどまでは5000名の猛者たちがここにいたのに、たったの100名しか今は生き残ていない。


 その100名も恐怖に震え、武器を構えることすらできなかった。


「敵騎兵ですよー! こっちに突撃してきます!」


「よし。俺たちも仕事をするぞ! ディアナ様、予定通りに!」


 ヴァルトルートがクロスボウを構え、ブルクハルトとテオが剣を構える。


「よいっと」


 ディアナが右手を振ると、騎兵の前方に突如として結界が生じ、騎兵が次々に衝突して、後続に押しつぶされた騎手が死ぬ。


「勢いは殺した! ヴァイスは援護! テオは俺の討ち漏らしを仕留めろ!」


「了解!」


 勢いを失った騎兵はただの馬に乗った歩兵に過ぎない。


「“爪の型一式”」


 そこに完璧な鷲獅子流をマスターしたブルクハルトが襲い掛かる。


 馬を斬り裂かれて落馬した騎兵がトドメを刺され、なんとか勢いを出そうとする騎兵が馬ごと斬り裂かれる。


 ブルクハルトの鷲獅子流は竜殺流ほどの派手さはないが、確実に敵を仕留める剣術だ。ひとり、またひとりと騎兵が討ち取られて行く。


「アイン」


 ヴァルトルートも後方から援護射撃を行う。


「ツヴァイ」


 的確に敵の頭を狙って。


「ドライ」


 確実に敵の命を奪ってブルクハルトたちへの突撃を許さない。


「はあああっ!」


 テオもブルクハルトの背後で剣を振るっていた。辛うじて生き残った騎兵が反撃を試みるのを、テオは叩き斬っていく。守りに硬い海蛇流はそう簡単には切り崩せず、逆にカウンターを受けて、騎兵は自分たちの血の海に沈む。


 戦闘開始から1時間。


「まだ息は上がってないか、テオ」


「まだまだです」


「上等。だが、これで終わりのようだ」


 周囲には無数の死体が転がり、ブルクハルトとテオも血を浴びて鎧から血が滴っている。騎兵たちは全滅し、生き残りはいない。


「終わったようだ」


 ミカエラはより血にまみれていた。


 まるで頭から血の入ったバケツで血を浴びせられたように、真っ白な彼女の髪と体を血が滴っている。


「勝った、んですよねー?」


「ああ。勝った。我々の勝利だ。オストライヒ帝国の企ては阻止され、民が苦しむことはなくなった。完全な我々の勝利だ」


 ミカエラはそう言って“竜喰らいの大剣”に帯びた血を払う。


「あんたは師匠を越えたよ。少なくとも対人戦においては」


「竜殺流はドラゴンを倒すための剣術。人に使えばこうなることは目に見えていた」


 単騎で、自然界の頂点に立つドラゴンを殺す。


 そのような破壊的な技の前には人間など塵芥も同然。


「騎兵が来ますよー。オストライヒ帝国の方からじゃないですねー。2体、小国家連合の方からですよー」


 ヴァルトルートがそう言い、2名の騎兵が姿を見せる。


「こ、これは……」


「な、何があったんだ……?」


 2名の騎兵は眼前広がる死体の山を見て愕然とした。


「オストライヒ帝国軍は壊滅した。もう心配する必要はない。領主閣下にそう伝えてくれ。“鋼鉄の虎”が敵の侵攻を食い止めた、と」


「わ、分かった」


 2名の騎兵は逃げるように立ち去った。


「さて、我々も帰ろう」


「そうしましょう」


 そして、ミカエラたちは帰路につく。


 途中の川で血を落とし、とりあえず血塗れではなくなった状態で街に戻る。街は騒ぎになっていた。彼らは領主からの布告を聞いている最中であった。


「我が領地に向けて進軍中であったオストライヒ帝国軍は撃退された! “鋼鉄の虎”の活躍により、オストライヒ帝国軍は撃退されたのである! これについて、税の引き上げや、民兵の動員は──」


 民衆は領主から派遣された衛兵が読み上げる布告に聞き入っていた。


「オストライヒ帝国軍は領地に入る前に撃退されたらしいぞ」


「凄いじゃないか! 俺たちの領地は守られたんだ!」


「しかし、“鋼鉄の虎”なんて傭兵集団聞いたことがないぞ。どこの誰だ?」


「きっと数万の傭兵団に違いない」


「そんなに大規模な傭兵団がいたなら事前に分かるだろ?」


 まさか5名の傭兵団が6000名のオストライヒ帝国軍を阻止したとは思わず、様々な憶測を飛ばし合っている。


「“鋼鉄の虎”には3000万ドゥカートの報酬が与えられる。これは領主閣下の私財からの報酬であり、領民に課せられる税ではない」


 その言葉は街に入ってきていたミカエラたちの耳にも届いていた。


「さ、3000万ドゥカート……?」


「けっ。たかが、3000万ぽっちかい。こちとら5名で6000名を相手したんだぞ? 8000万ドゥカートは貰わないと気がすまないね」


 ブルクハルトは顎が外れそうなほどに驚いていたが、ディアナは不満そうだった。


「報酬が出るだけいいではないか。我々は領主の作戦計画に従わなかったのだから」


「そりゃそうだけどねえ」


 領主は川を防衛線にするつもりで準備を進めていた。


 ミカエラたちが水浴びをした川では、戦争がいきなり終わったという事実に唖然としている掻き集められた傭兵団や私兵たちがいた。


 死体は屍食鬼が湧かないように燃やしたが、遺骨は残っている。6000名分の遺骨だ。それを見た騎兵は改めて領主にオストライヒ帝国軍が撃退されたことを報告していた。


「おおい! 教えてくれよ! “鋼鉄の虎”ってのはどこの傭兵団なんだ!?」


「そうだ、そうだ! 恩人じゃないか!」


 民衆たちが衛兵に迫る。


「あー。ブルクハルト・ブルーメントリットが率い、小国家連合の英雄と呼ばれるミカエラ様とディアナ様が所属する傭兵団だ。彼らが6000名のオストライヒ帝国軍を退けたとされている。以上だ!」


 衛兵はそう言うと、情報を求める民衆を押しのけながら馬に乗り、去っていった。


「ミカエラ様たちだって!」


「ドラゴン殺しの!」


「ブルクハルトってのはそりゃ凄い男なんだろうな」


「6000名を退けたなんて……」


 民衆がざわめくのを横目にミカエラたちは宿へ戻った。


……………………

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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろミカエラを退治するには自分の役割を忠実に果たすっていう現実世界の現代軍的運用する軍でもないと勝てないんじゃないかな
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