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魔剣を追うもの

……………………


 ──魔剣を追うもの



 伝説の魔剣“悪竜の宝剣”を狙っていたのはミカエラとマティアスだけではなかった。他のものたちもこの魔剣を狙っていた。


 ライン帝国から、オストライヒ帝国から。


 それぞれミカエラを殺すための武器として、伝説の魔剣を求め、この街に刺客が送り込まれていた。それぞれの国が互いを牽制する。


 宿屋で刺客が別の刺客に襲われることもあるし、通りですれ違いざまに相手を刺していく刺客もいた。それぞれが、それぞれのやり方で魔剣を先に得ようとしていた。


 伝説の魔剣があればミカエラを殺せると、そう信じて。


 勘違いはいくつかあった。


 ライン帝国は刺客を同じライン帝国の人間だと思っていたことである。彼らは刺客をミカエラの首を上げる競争をしているライバルだと思い込んだ。まさかオストライヒ帝国までもがミカエラを殺そうとしているとは思いもしなかった。


 それと同様にオストライヒ帝国側もライン帝国側の刺客の狙いを、魔剣を掴むことではなく、自分たちが魔剣を手にすることを妨害することのみにあると考えていた。


 そして、最大の勘違いは魔剣があればミカエラを殺せるというものだった。


 既に魔剣を手にしたマティアスが惨敗したことからも分かるように、魔剣があればミカエラを殺せるというのはあまりにも甘い見積だった。少なくとも最強の剣術である竜殺流の教えを受けたジークヴァルトから、さらに教えを受けたマティアスが敗れたのだ。碌な研鑽も積んでいない有象無象の刺客がミカエラに勝てるはずもない。


 そのようなことを知らずにライン帝国とオストライヒ帝国の刺客は魔剣の伝承を聞き取り、魔剣の位置を特定する。


 そして、彼らは魔剣の位置を掴んだ。


 両国の刺客が洞窟を目指し、その途中で小競り合いを繰り返す。


 死体が転がり、傷を負ったものが悲鳴を上げ、生き残ったものが洞窟を目指す。


 洞窟に無事に辿り着けたのはライン帝国の刺客たちであった。彼らは洞窟に松明を掲げて入り込み、その奥にある伝説の魔剣“悪竜の宝剣”を手にせんとする。


 だが、彼らは知る由もなかった。


 既に洞窟には先客がおり、既に魔剣“悪竜の宝剣”はそのものの手にあることなど。


「む。貴様、何者だ!」


「マティアス・フォン・マッケンゼン。ライン帝国の騎士」


「ライン帝国のものか。それならばその魔剣を我々に渡せ。我々は皇帝陛下より勅命を受けている。反逆者ミカエラを抹殺せよとの命令を受けているのだ。そのためにはその魔剣が必要だ。さあ、それを渡せ」


「分かってる。分かっている。君がどれほどの憎しみを抱えているか」


「憎しみではない。勅命だ。さあ、早くそれを渡せ!」


「今、その恨みの一部を晴らしてやろう」


 マティアスが“悪竜の宝剣”を構える。


「貴様! ライン帝国の騎士でありながら勅命に背くかっ! ならば、死ね!」


 男たちが一斉にマティアスに襲い掛かる。


「ふんっ」


 マティアスは目にも留まらぬ早業でひとり目の男を串刺しにし、ふたり目の男を首を裂く。他の男のたちの攻撃はマティアスに届いたが、不死身である彼には無意味だった。次々に一角獣流で討ち取られて行き、全員が果てた。


「憎い人間の血を吸って満足か、“悪竜の宝剣”よ。そうか。満足か。だが、もっと、もっと、もっとと。お前は貪欲なドラゴンだ。恨みに満ちたドラゴンだ。いいだろう。この手の男たちの血を吸わせてやる。それで満足しろ」


 マティアスはそう言って洞窟を出た。


「いたぞ! 魔剣を持っている!」


「奪え!」


 次はオストライヒ帝国の刺客がマティアスに襲い掛かってきた。


「一角獣流“突一型”」


 マティアスは一瞬で男たちに迫り、男を串刺しにする。そして、そのことに動揺したふたり目の男も串刺しにする。


「殺せ! 魔剣を奪え!」


「囲むんだ! 囲め!」


 男たちはマティアスを包囲する。


「一角獣流“突三型”」


 連続した突きが放たれ、男たちが次々に倒れる。


 今のマティアスは竜殺流と同じフィジカルブーストと筋肉の効率的な動き、そして生命のエネルギーの解放を行っている。一角獣流としても同じ一角獣流とは大きく異なった。威力と速度が段違いの剣術になっている。


「ば、馬鹿な。一角獣流がこんなにも強いだと……!」


「我が剣術を愚弄するならば死ね」


 マティアスの突きが刺客の喉を貫く。


「クソ! 負けてなるものか!」


 刺客の斬撃がマティアスの喉を裂く。


 だが、マティアスは平然と反撃し、その傷は次の瞬間には癒えていた。


「そうか。血を吸えば吸うほど力が伸びるのか。では、殺し続けよう」


 マティアスはそう呟くと刺客たちに逆に襲い掛かった。


 刺客たちは逃げようとしていたが、逃げられなかった。全員が頸動脈や肝臓、腎臓を突かれ、地面に倒れる。マティアスの剣は今や胸甲ですら容易に貫く威力を持っていた。その威力で心臓を貫かれた刺客が血を吹いて倒れる。


 やがて刺客は全滅していた。


 マティアスの周りには死体が転がり、血の海が広がる。


「ダメだ。ドラゴンの意識に飲み込まれるな……。殺しはこれで終わりだ……。また国に帰り、ジークヴァルト様のところに戻るのだ。そして、再び教えを乞う。そして、ミカエラ嬢との再戦を果たすんだ。意識をしっかり持て!」


 刺客を殲滅したマティアスはそう叫んで自分の手に“悪竜の宝剣”を突き立てた。


「そうだ。それでいい。戻ろう。祖国へ」


 マティアスはよろめきながらも、自分の馬を目指し、馬にまたがると一気にライン帝国を目指して駆けたのだった。


 こうして魔剣“悪竜の宝剣”はマティアスの手に渡った。


 “悪竜の宝剣”は生贄を求め続ける。これこそがまさに呪いであった。不死身の肉体と引き換えに与えられる呪いであった。人間の血を吸わせろと“悪竜の宝剣”はマティアスに訴え続け、そうさせようとする。


 辛うじてマティアスは呪いに耐え続け、ライン帝国へと戻っていった。


 そのころ、屍食鬼が出るようになったとの依頼を受けて洞窟の付近を探索に向かったミカエラ一行は刺し殺された死体を大量に発見する。それらは既に屍食鬼たちが貪りつつあり、屍食鬼たちは一掃された。


「洞窟には魔剣は残ってなかったよ」


「あれは世に放つべきではなかった。殺しておくべきだったか」


「さてね。だが、あんたの責任ってわけじゃないよ、ミカエラ」


「そうだといいのだが」


 死体を集め、燃やし、依頼を達成したミカエラたちは報酬を受け取ると、再び温泉街での滞在を楽しんだ。


 ミカエラは悩んでいたが、ディアナが引っ張り回して、遊びに連れていくことによって気が紛らわされた。確かに“悪竜の宝剣”は持ち出された。いつか酷い被害を生じさせるかもしれない。その時はミカエラがその“悪竜の宝剣”の主を斬るだけだ。


 ミカエラたちは今は休んでいる。


……………………

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