痛み分け回復師
セイを部屋まで運ぶフリート。目の前で起きた出来事を反芻する。
一体どういうことなんだ、何が起きている? 信じられない。
セイの経歴書には解毒は使えない、会得していないとあった。だが実際には草爺を回復させた。完全にとまではいかないが。
そして今セイは草爺と同じ症状だ。セイは草爺を回復させたのか、それとも──
経歴書には報告書がついていた。
前の雇い主は賊に襲撃を受けた。その時首を切られ重症。目撃者も多数いた。だが、雇い主に怪我は見つからなかった。
セイが来た日……確か、セイの首元に包帯を巻いているのが見えた。
まさかとは思っていたが、セイは低級より上の回復技も使えるのか。
幾多の仮説がフリート脳裏を巡っていく……そして思い当たった。
──痛み分けか──
痛み分けは中級以上の回復師が使える技だ。
怪我人が重篤な場合、一つのダメージを分散させる。そして生存率を上げる。上級回復師や大勢の回復師がいない場合使われる、限定的な技だ。負傷箇所の分割。いや、あらゆるダメージを分割分散させることができる。
だが、納得がいかない。
痛み分けは普通、分散したダメージの移動先はあくまも怪我人の中だけだ。体の外にダメージを分けることはできない。
つまり他者にダメージを分割することはできない。痛みを受け取ることすら、聞いたことがない。
セイは草爺のダメージを、毒をと言う形で受け取ったのか。可能なのか、そんなこと。
だとすれば、どれだけの毒を受け取ったのか……
今はとにかくセイの病状だ。ヴァン達が帰るまでなんとか持ちこたえさせる。
セイをベッドの上に横たわらせる。震えるセイの手を握りしめる。
「絶対に死なせはしないっ……」