モリテ探し
ある朝、応接間には客が来ていた。会長との話し声が聞こえる。
ノックして部屋へ入った。
「フリートです。失礼します」
客間にいたのは、会長と1人の男。
「モリテを探している。息子の護衛してほしい。年は19。できるだけ歳の近いやつを──」
会話の途中だったが、一瞬心臓が止まったような感覚に襲われる。
「見て周りますか」
「ああ、そうしたい」
「フリート、案内役頼めるか」
いつもならすぐに答えるはずが、口籠もってしまう。
「──分かりました──その前にヴァンを呼んでもいいでしょうか。頼んでおきたいことがあります」
「構わないが」
「では後ほど敷地内をご案内します」
一旦退室するフリート。
フリートは応接室から離れた場所にヴァンを呼び出した。
「なんだよ、。いきなり呼び出しやがって。って、おい聞いてんのかよ!」
「ヴァン。頼みたいことがある。お前にしか頼めない───」
ヴァンはフリートからの頼みとやらを聞かされる。
「───いいのかよ、そんなことして。セイは」
「雇い主はルーファス家だ」
話を遮って、フリートは鋭く言い放つ。
「ルーファス家って」
ヴァンにも貴族社会の知識はある。ヴァンは鼻の下に指を当て、その眉間にはシワが寄る。
何かと黒い噂のある家だ。今の当主になってから急に力をつけ出し、怪しげな動きが多い。最近、養子を取ったとも聞いた。セイがそんなとこに──
「そうだ。お前ならわかるだろ。あんなとこのモリテになったら駒にされて死ぬだけだ。それに悪行の片棒を担がせられることだって……だから今日はセイを稽古場に、外に出さないでくれ。セイに伝えてほしい。給仕の手伝いを頼むと。今日だけは中に、頼む……」
俯くフリートをヴァンがたしなめる。
「ハッ、隊長ともあろうお方が女1人にここまで入れ込むとは」
「そ、そんなんじゃない。セイは」
「わかってるよ、お前にとって愛弟子なんだろ。守ってやりたいのはわかる。あんたの指示にも従う。だが、セイを縛るんじゃねぇ。いつかは手放す時が来る。それがモリテなんだからな」
フリートの肩を軽く叩き出ていく。
「あぁ……」
扉がバタンと閉まる。
「わかってない。お前にはわからないだろうな。俺はセイを、実の娘のように思っているなんて──」
セイが来て半年経った。セイは喋るようになったし、仲間もできた。笑うようにもなった。だが時折、どこか空虚な寂しげな顔をする時がある。
ふっとどこかへ消えてしまいそうな、そんな危うさがあった。