パトリアの仲間
「今日から寮の仲間になるセイだ。女性だが剣技にたけている。腕の立つモリテだ。仲良くしろよ。困らせたら俺の鉄拳制裁を覚悟する様に」
フリートはセイの自己紹介をしながら、握り拳を見せつけ牽制を入れる。
「えーっ」
「そんなんじゃ仲良くなれねぇよ」
「どうせ女だろたかが知れてる」
新入りの入寮に沸く中、男のモリテ数名が頭を合わせて話している。何か企んでいるようだ。
「なあ、剣の相手してくれよ」
「俺も! 俺が教えてやるよー。こっちこっちー」
男達に腕引かれる新入り。
「あのフリートさん……」
少し心配そうに声を上げた。
「俺も少ししたら行く。セイっ、そいつらやっちまっていいからな」
フリートはにやけた顔で手を振り、送り出した。
セイが連れて行かれてから束の間。稽古場が騒がしくなる。中には歓声も聞こえる。
「あいつら何やってんだか」
書斎の椅子から腰を上げ、原因の場所へ向かって行く。
フリートが稽古場に着くと、段上にいるセイとヴァンを目にする。
「なんでヴァンがセイと試合してるんだ?」
新人相手に練習試合か。こんな初日から。
驚くフリートにセイを誘った男が声をかける。
「あっ、隊長遅かったですね。いや〜、思いの外あの新入り強くてですね。すぐ終わっちゃったんですよ。そしたらうちのモリ屋の意地を見せてやるってヴァンが──」
全くたるんでるぞ、モリテの意地はどうした……
だが、個人的にヴァンとセイの強さは気になる。この寮の中で2番目に強いのはヴァンだ。どうなるものか。
セイとヴァンの試合に沸く会場。
「ほう、さすがだなぁ。あのヴァンが押されてる」
なんならセイは楽しそうだ。素速く流れるような剣撃。
セイはヴァンの木刀を払い返した。その剣先がヴァンの額をかすめる。いや、少し切れたか。
ヴァンの頭から一筋血が流れた。
カランと木刀がセイの手から離れ落ちた。
「あっ、すみませんっ」
慌てたセイがすっとヴァンの頭に手をかざす。淡い光を受ける。その傷はすでに塞がっていった。
「なんだ」
額に手を当てて確かめるヴァン。
「ない。痛くねぇ。おまえが直してくれたのか」
申し訳なさそうに頷くセイ。
「すげぇな。あんがとな。……なぁ、おまえ回復師なのか?」
「え、あ。何って言ったらいいか……低級の回復師……です」
それを聞いて少し戸惑った表情をするヴァン。でもそれは一瞬で……
「そうかっ。回復師かっ! すっげぇよ! ってか俺に張り合うなんてオマエすげぇよ!」
ヴァンの反応にキョトンとしている。
「俺はヴァン。おまえ、俺ともう一回勝負しようぜ」
そう言われてセイが困った顔をする。見兼ねてフリートが段上に来た。
「全く、おまえおまえってさっき紹介したろう。セ・イ・だ。名前ぐらい覚えろ」
フリートがセイの前に来て、少し屈んで目線を合わせる。
「はぁー……気にすると思って、力のことは周りに言わなかったんだけどな」
そう言い、手を差し出す。
「セイがこの道を選ぶなら、俺は背中を押してやる」
フリートの手を取るセイ。
──父のような大きい手だ──
「今日からセイはモリ屋の仲間だ!」
大きな声が響く。その場にいるモリテ全員に知らせるように。
「うおぉっー! フリートが宣言したぞ!」
皆互いに顔を合わせ笑い出す。
「ってことは宴会だぁっ!」
「酒だ、酒盛りだっ!」
「飲むぞぉ!」
「歓迎会もなっ」
地鳴りの如く盛り上がるモリテたち。
「え、え?」
何が起きたかわからない様子のセイ。そこへヴァンが来る。
「認められたんだよ正式に。パトリアの仲間として。パトリアのモリテは家族みたいなもんさ」
認めてもらった…… しっくりこないが、その言葉を嬉しく思う。
セイの目には、家族と言われたパトリアの仲間たちが写る。
宴会の支度で盛り上がるパトリアのモリテたち。
夜までセイの歓迎会は続いた。