セイの経歴
「『生きる目的』ね」
セイがモリテに来た時のことを思い出す。
あれは半年前くらいのことだろうか。
新入りのモリテが来る事を耳にしていたフリート。会長室で入寮するモリテの手続きをしている。
「来週からうちのモリ屋に入って来るセイだ。今日は顔見せで来てもらっている」
会長がセイのことを紹介し始める。
会って早々驚いた。若い。女性のモリテはそんなに多くない。何より女の足運びや振る舞いで感じた。目を見ればわかる。現役のモリテだろう。
「俺はモリ屋の隊長、フリートだ」
短く自己紹介をし、セイという女性は軽くお辞儀をする。
「まだ怪我が治ってないようだから、入隊は来週からになる。差し当たってセイは──」
怪我か、彼女の首元からうっすら包帯が見えた。一抹の不安がよぎった。
その後の手続きはあっけなく終わり、彼女はかえって行った。
応接間で会長と2人きりになった。
「訳ありだが、いい力持ってるみたいだし……フリート、セイの面倒を見てくれ」
「俺がですか、セイって女性じゃないですか。誰か女のモリテに頼んでくださいよ」
「まぁ。とにかくオマエにしか頼めないんだ。細かいことはこれを見てくれ」
言われるままに会長から渡された経歴書を手に取る。
ロワール-セイ
現在18才。エーカー街で生まれ育つ。
父は王家のモリテ。母は王都街で薬屋を営む上級回復師。
数ヶ月前、セイの父親は国王への反逆の疑いで投獄。母親も連行され、道中に逃亡し行方不明。
心体的ショックゆえか両親に対する記憶障害あり。
王城に回復師として引き取られたが、低いレベルのままだったため退城。
父親ゆずりの剣術には定評があったようだ。今まで別のモリ屋に所属していた。
だが先日セイの雇い主が襲撃に遭う。重症。しかし雇い主の命に別条はなく、怪我はなかった? それでも周りの目撃者達によって告発され、退所。
そうして今に至る……のか。
セイの経歴書を会長の机の上に放った。
「なんだこりゃ、こいつはどこまで貴族に目をつけられているんだ。大体この雇い主って国王派のやつだろ」
だいたいの想像がついた。はめられたのだ。貴族は利益とならない彼女の評価を下げ、傷をつけた。モリテとしての価値も下がる。
それにモリテとして主を守れず追い出されるのは屈辱だ。次の主を得るのは容易ではないだろう。
「だからこんなに離れた辺境のモリ屋まできたのか。いや、飛ばされてきたのか。モリテを辞めることもできただろうに」
苛立ちながら、放った経歴書の下欄を見る。
備考……解毒できない回復師