回復師のセイ
稽古場で訓練する2人。剣先から放たれる打撃を受け止め続けるヴァン。
「イテッ、おいフリート手加減しろよ。ケガすんだろ」
「この程度で」
「オマエは体力バカかよ、もう1時間打ちあってんぞ。そりゃ体にきてもおかしくないだろ。イテテ」
笑っているフリートの後ろにセイの姿が見える。
「あっ、セイ助けてくれよ、フリートがさぁ」
「おいコラ逃げんのか」
「へっ、逃げてるんじゃねぇ、休憩だ」
「全くヴァンの奴」
セイの元に走り寄るヴァン。ちょうど良かったとばかりに安堵の表情を浮かべている。
「わりぃ、セイ、フリートのヤツ思いっきりやりやがってよぉ。ちょ切っちまった。頼む、セイの力でちょちょいと」
「おい、そんな簡単にゆうもんじゃ──」
「いいんです、これくらいしかできませんから」
そう言ってセイはヴァンの腕に手をかざす。すると、ヴァンの腕にあった切り傷が治っていく。
「おー、さすが回復師だなぁ」
静かにセイの顔が曇る。フリートはヴァンを睨んだ。
「いえ、名乗れるほどではないんです。なにせ低レベルの回復しかできませんから、私なんか──」
嫌な記憶を思い出すセイ。
『アンタは捨てられたのよ──アンタを置いて逃げてった』
もう、どうでもいいことだ。モリテとして逝けたら。
「セイー、こっちにも来てくれー」
「はーい。じゃあ、行きますね。ヴァンさんが無事でよかったです」
セイは小さく会釈し呼ばれた方へ走る。
「おう! ありがとな!」
セイが見えなくなるまで手を振るヴァン。
「ったくバカ!」
隣から拳が飛んできた。
「痛っ、何すんだよ。せっかくセイに直してもらったのに」
「バカに治療は必要ない」
「はぁ?」
喧嘩腰のヴァンに冷たい視線を送った。
「本当に治療が必要なのはセイなんだからな」
「あー。あぁ」
俯き頭を掻く。
「あいつには生きる目的ってやつを知って欲しいんだ。今は回復師として必要とされるだけでも、セイにとっては生きる目的になるんだろうからさ」
これでもヴァンはヴァンなりに気遣っているんだろう。
「生きる目的か──」
フリートはそうつぶやきながら、セイが来た日の事を思い出していた。