夢の中で
混濁する意識の中、夢を見た。
嫌な記憶。ベッドで目が覚めた時。使用人を名乗る女性が告げる。あなたの父は捕まり、母はあなたを捨てて逃げた。
どうして。どこにいるの母さん。一人にしないでっ、置いて行かないでっ。
何度も泣いた、頭が痛くなるほど。わめき続けた、声が枯れるまで。
でもそんな気持ちは時間が経つにつれ、忘れていった。記憶も忘れていった。
いつしか空っぽになった。
誰からも必要とされていない。ここからいなくなってしまいたい。
「♪〜」
昼間聞いた歌が聞こえる。母の子守唄だろうか。
母の腕に抱かれてウトウトしている私。父は茶を片手にこちらを覗きこむ。こんなに父が笑うんだ。
「生きて、生きていて欲しいの──」
はっと、現実に戻る。
目は開かないが、帰ってきた気がした。首元が冷たい。フリートさんが看病してくれているのだろうか。ゴツゴツ氷が心地良い。体が少し動かせそう。
でも、息が苦しい。細いストロー、一本で呼吸しているようだ。
このままいけば、楽になれる。楽にいける。誰かを守って逝ったことになるんだろうか。
父さん、母さん。
「生きて……生きて……欲しいの」
そう──
夢の中だけの存在でもいい。
幻でもいい。
信じようてみてもいいだろうか。
その言葉を。温かな笑顔を。
今はそれだけで生きようと思える。