しばしの別れ
次の日、僕と父さんとアンフナムの3人で村の外に向かった。
アンフナムの対策とは、村全体を魔法陣で囲み大地のマナを使い土壌を安定させる、と言うものである。
ただ、微量な魔素を安定させるだけのなので、それほど難しい魔法を使う必要はないとのことだ。
今日は、村の外周を周るためにエリオ達が乗ってきたカムビを借りる事にした。
カムビとは、強靭な二本の脚で走り美しい羽とトサカ、鋭いくちばしを持っている。
商人達が荷車を引いているカムビは黄色だけど、エリオ達のカムビは薄い茶色だ。
アンフナムによれば、カムビは地域や育て方で個性が色濃く出るらしい。
僕は小一時間エリオから乗り方を教わり、父さんとアンフナムについて行った。
「これでええじゃろう」
魔法陣が完成した頃には、既に日が暮れ始めていた。
「感謝する、と言ってもまだなんの実感もないがね」
「まだ終わりではないぞ、魔法陣の基点となる三地点に祠を建てるのじゃ、これから先魔法陣を崩さぬためにものう」
「それじゃあ、俺らは明日の朝に立つ」モルガが言った。
エリオはもう少し残りたそうだったが、ラバーキンも仕事をしなければならない。
するとアンフナムは言った。
「ワシは少しの間ここに残る事にしよう」
モルガとエリオは一瞬驚きを見せたが妙に納得した様だった。
寝床にこだわりは無く、村の外れにティーピー《三角形の布製の住居》を張るそうだ。
理由を聞くと、アンフナムは元々特定の場所に止まらず放浪しているそうだ、この村の魔法陣の件もあり、この村に少しの間止まる事に決めたらしい。
モルガとエリオとの最後の夜は、少し豪華な食事会を開いた。
翌朝、モルガとエリオとの別れが訪れた。
「テオよ。短い間だったが世話になったな」
「とんでもない、君らが来てくれてとても心強かった、最もこれからが大変なんだがな」
父さんは古い友人が訪ねてくれた喜びと別れの寂しさが混じった、複雑な表情をしている。
「アルター、短い時間だったけどとても楽しかったよ、また会いに来ていいか?」
「もちろんだ、次に来た時はもっと上手くカムビに乗れる様になっておくよ」
僕はモルガとエリオが見えなくなるまで、村の入り口で見送った。
「さてアルターよ、君は来年成人を迎える様だが、テオの畑を手伝っていくのかな?」
峠の上から父さんの畑を眺めていると、いつの間にかアンフナムがそばに立っていた。
「わからないんだ、だからとりあえずアルケニア王国へ行こうか迷ってる、大きい街へ行って学校にでも通ったら何をやればいいのかわかるかもしれない」
アルケニア王国は、このアフロディーテ大陸の中心にあるヒト族を中心とした大陸で一番栄えている王国だ、商人から聞いた話だが王国には、いろんな仕事や娯楽があり、様々なことが学べるらしい。
「ふむ、アルターは畑の仕事はあまり好いとらんのかのぅ?」
「そんなんじゃないんだ、父さんの麦畑は好きだし仕事も楽しいよ、でもね、本当にこのままこの村で、ずっと麦を作り続ける、本当にそれだけでいいのかってずっと頭の中でぐるぐるしてるんだ」
僕の話を聞いたアンフナムは少し考え込んでこう言った。
「アルターよ、少し授業をしようか」