出会い
「実は街に行こうと考えてるんだけど」
僕がそう言うと父さんは驚いた顔をして言った。
「街に行って何をしたいんだ?」
「勉強さ、学校へ行きたいんだ」
「今教会で教わってるだけじゃダメなのか?」
「うん、多分」
正直何がダメなのかはわからない、生まれてからずっとこの村で暮らしてきた、街のことはたまに来る商人から話を聞いていただけだった。
「アルター、学校へ行くのも相当なお金が必要なんだ、街で暮らすための費用もかかる、何となく行きたくて簡単に送り出せる程うちは裕福でもないしな」
「うん、わかってる」
なんとなく想像はしていたが、まあ想像どうりの答えが返ってきたので少し落ち込むくらいだ。
「アルターは将来やりたいことがあるの?麦や野菜を作るのは嫌?」
母さんが心配そうに、優しく問いただす。ここは村全体で農業を営んでいる、いわゆる農村だ、村の人間は当たり前の様に農業を仕事にし年老いて死んでいく、それが当たり前なのだ。
「そんなんじゃないんだ、ただ、生まれてからこの村で暮らして外の世界のことを何も知らないまま死んでいく、それでいいのかって最近ずっと考えてるんだ」
僕はポツポツと喋った。
「アルター、お前も来年成人だ、焦るのはわかる、ただ考えなしに生き方を決めてはダメだ冷静にならなくてはね」
考えるといっても、どう考えていいのかもわからないんだ。
「明日、ラバーキンが何人か来る、父さんの昔からのなじみだ、ラバーキンの数えでお前くらいの子供もいるらしい、明日は仕事について来い、何か刺激になるかも知れん」
「わかった、そうするよ」
話は終わり、誕生日のお祝いが始まった。ラバーキンっていえば《小さきヒト》って言われる種族、いわゆる亜人だ、父さん亜人の知り合いなんかいたんだ、とか考えながらお祝いが終わり眠りに着いた、明日が少し楽しみになった。
翌朝、朝起きると母さんが朝食の準備を既に済ませていた、父さんも既に起きて仕事へ行く準備を終えていた。
「おはよう、父さん今日は少し早いね」
この時期、父さんは僕と同じくらいに起きてくるぐらいなのに
「おはよう、いや今日はラバーキンが来るっていてただろう、あいつらは俺たちと時間の感覚がちょっと違うからな、もっと早く来ると思ってたんだが、予想が外れちまった」
ぶつぶつと文句を言っていると、少し小さいが小気味の良いノックが扉から聞こえてくる、父さんが小走りで向かい扉を開けた。
「久方ぶりだな、モルガ」
「ああ、我が友人テオ・フログレス、少し老けたか?」
初めて見た亜人は確かに大人の出で立ちをしている、しかしそのサイズは14歳の僕より少し小さいくらいだ。
「モルガ、その子が?」
「そう、我が息子エリオだ」
モルガからの紹介が終わるとそいつは僕の方をまっすぐ見て挨拶を始めた。
「始めまして、エリオです、ツォーリン家のエリオです」
「アルター・フログレスです」
丁寧な挨拶に対して少しドギマギしてしまった、二人の挨拶が終わると後ろから2メートルもあろうかという老人がヌッと現れおもむろに挨拶を始めた。
「アンフナムという、少しの間世話になる」
老人は、穏やかな笑顔でそう言った。
キョトンとしている父さんを見て、少し楽しそうにモルガは話始めた。