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侍ミコトは神と共に歩む者。

ノリノリで書けました。

 この学園の迷宮ダンジョンは生き物のように魔素を至る場所にランダムで生み出している。この魔素が凝固して創り出されるのが、ダンジョン内における魔物と()()である。宝物な中身も魔物も賢者アルタニアの記憶にある物が、階層のランクに合わせて創造される。

 故にどこで魔物に会うか、どこに宝箱があるかランダムなのだ。

 ミコト一行は新たなフォーメーションを決めてから一向に魔物と出会っていなかった。宝箱も見つからず、もういよいよ第一階層の終点へ近づいてしまっていた。


「もうちょっとで第一階層クリアだね〜」


 とカレンが気の抜けた声で発した。大分緊張感が緩んでいる。


「結局、イッソクイットー?って言うの試せてませんね」


「それなら最後のボス戦で出来るわよ。第一階層は確かゴブリンの魔法を使う親玉とゴブリンが三匹、あと耳飛びネズミも三匹いたかな」


 余りにも大勢な陣容にクララは思わず蛙の鳴き声のような呻き声を挙げる。表情もげんなりとしているクララにカレンがけらけらと笑った。


「大丈夫よ。あたし達は三人で第六階層まで走破してるからね」


 余裕余裕、と自信満々と言い結ぶカレンにクララは確かにと内心で頷いた。これまでの戦いを振り返り、ミコトとコハナの動きは加護(ジョブ)持ちのサバンに勝るとも劣らない。クララの父の言葉である、神々と対等な友である事を人の身で目指す民族。その力をクララは目にしてきたのだ。

 そして、パーティー一行は遂にボス戦前、最後の別れ道にたどり着いた。

 T字の別れており、向かって左の道は行き止まり。右の道はボスの待つ部屋へと続いている。パーティーの切込隊長、先頭を歩くミコトがメンバーの方へ振り返った。


()()()!」


「な、なんです…?」


 親しげにファーストネームを叫ぶミコトにクララが身体を一度跳ねさせて答えた。未だに慣れていない。

 ミコトは行き止まりの方を指さした。


「あっち、自動書記地図(マッピング)した?」


 クララは首を横に振り、自身の地図を取り出して広げた。カレンがクララの肩越しに覗き込めば、ボス前のT字路の先はどちらも未記入のままである。


「私、ソロで潜るなんて到底出来なくて…初日のパーティーで第一階層をちょっと回っただけなんです…」


 クララの決定的な弱点が()()な以上、仕方ない。本来僧侶なら一人でも学園迷宮であればソロで攻略も可能なのだが、攻撃が出来なければどんな魔物にも勝てるわけが無い。


「じゃあマッピングする、左の道。その後、ボス部屋向かう!」


「宝箱か魔物に会えるかもしれないしね。今んとこ魔石も宝箱もゼロよ。ついてないわねー」


 そして一行は行き止まりの道を歩み出した。しかし、行く先には魔物の気配もなく、また宝箱もなく地図を埋めるだけとなってしまった。




 ボス部屋前まで戻った一行は入る前に立ち回りの最終確認をする事とした。これまで最も数が多くて4匹程だった魔物が、今回は七匹なのが確定だ。


「まあ耳飛びネズミはアタシとコハナが処理すべきね」


 カレンは地面に(ロッド)で器用に耳飛びネズミの絵を描き、コハナとカレンの顔を簡略に描いた絵から矢印を伸ばし、コハナにも分かりやすいよう図で作戦を表した。コハナが頷き、カレンはミコトから矢印をゴブリンとゴブリンにハットを被せた絵へ伸ばした。


「んでミコトね。前回と同じ。ゴブリンと親玉の相手をして貰う、と。」


「応!クララは1番後ろ!コハナの傍に居て欲しい。私、怪我したら回復お願い!」


「は、はい!頑張ります!」


 クララは握り拳を作り、勢いよく頷いてやる気を示す。ミコトが普段浮べる微笑みを深くして頷いた。そして、ミコトはカレンへ向き直る。


「今回カレン手薄、護り。カレン呼んで。危なくなったら、すぐ」


「はいはい。コハナは基本的にクララの護衛ね。イッソクイットーの間合いって奴の中にいればいいんでしょ?」


 ミコトが満足気に頷く。カレンがクララをじっとりとした目で睨めつけた。


「ク〜ラ〜ラ〜?ぼーっと突っ立てちゃダメよ。今後あたしの位置がクララの位置になるんだから何となくでいいから覚えてよー。あと回復も忘れずにね!」


 言葉とは裏腹に、カレンは茶目っ気に片目を瞑って言葉を締めくくる。口調も責めるものではなく、どこか芝居めいたトーンでクララの緊張をほぐそうとする意図が皆に伝わった。当然クララも察しており、気を遣われた事の嬉しさを隠すように照れ笑いを浮かべて返した。




 ボス部屋の扉はとても荘厳である。これまでの殺風景な壁と道だけのダンジョンとは一線を画している。分かる人が見れば分かるのだろうが、ミコト達には何なのか分からない模様が細かく刻まれた両開きの扉である。

 ミコトが扉を開け、四人はぞろと中へ入った。入り終えると見計らったように扉は大きな音を立てて締まり、刻まれた紋様が青く光り出す。


「えぇ!あの、これって…?」


 ボス部屋が初めてのクララは扉を振り返り、扉の異様な様を指さした。


「あぁ、クララ初めてだもんね。ボス部屋に他のパーティーと一緒に入れないように鍵が掛かるの。勝つか死ぬか、脱出の魔法の魔石を砕くまで出れないわよ」


 脱出用の魔石は迷宮ダンジョンに入る際、パーティーに人数分配給される。使わなかった分は受付へ返還する事となっている。

 カレンの死ぬ発言にクララが恐怖に顔を青ざめて情けない悲鳴を挙げた。はいはい、大丈夫だから。とカレンが気合を入れる為に多少強めにクララの背中を叩く。カレンの力は思いのほか強く、クララは涙目だ。

 第一階層の迷路と同じ材質の壁に囲まれた大きな部屋。その最奥部にゴブリン達は佇んでいた。襤褸のフード付きのローブを纏い、少々身体の大きいゴブリンを中心に、左側に道中見たゴブリンが三体、右に耳飛びネズミが三体立っている。その奥に結界に護られた宝箱と扉があった。


「まだ…動かないんですね…気づいてないんでしょうか…」


「否、私たちが進む、中央まで。魔法使おうとする。すると戦い始まる」


「な…なるほど…」


「今回はラッキーね。ゴブリンソーサラーだわ。偶に回復と障壁魔法を使うゴブリンメイジだったりするんだけど、メイジの方だとウザったいのよね」


 普段のどこかのんびりとしてふわふわと微笑んでいる様子から様変わりしたミコトにクララは顔が引き攣るのを感じた。まるで別人である。表情が消え、酷く冷めた様に見える。見た目が良い分、人形のようだとクララは思った。

 まずミコトが歩き出し、遅れてカレン、さらに遅れてクララとコハナが続いて歩き出す。丁度部屋の中央部へミコトが脚を地に付けると同時にゴブリンソーサラーが(ロッド)を横に構え、魔力が練られていくのが視覚でパーティー全員に伝わった。それとほぼ同時にゴブリンらが歩き出し、耳飛びネズミが空を舞う。

 開戦だ、と言わんばかり。そこへ切込隊長ミコトは地面に足跡が残るほど強烈に地面を蹴った。

 カレンも急がないと、とクララが思うもカレンは悠々と杖を構え、魔力を練りながら歩く。クララは怪訝に思うも、戦いに集中しなければを気を取り直した。

 ミコトがゴブリンソーサラーの前へ壁と立つゴブリン一体の首を正確に斬り落とし、魔素の霧へと戻す。僅かに遅れてカレンの凝った火の玉(ファイヤー)が耳飛びネズミに当たり、一体の注意を引いた。耳飛びネズミと()()()()()()がカレンへ向かう。コハナがクララの傍で腰のポーチのようなものから星型の様な投擲用の小型ナイフ、シュリケンと言うらしい物を耳飛びネズミへ投げつけて一体を仕留める。


「か、カレンさん!危ないです!」


 ゴブリンが武器と掲げてカレンへと迫るも、カレンは我関せずと次の耳飛びネズミへ魔法を放つべく魔力を練っている。もう数歩でゴブリンが辿り着く距離まで近づかれ、クララは思わずカレンの元へ駆け出そうとするが、コハナに制された。


 「ちょっ…コハナさん!カレンさんを助けないと!」


 言っても伝わらないが、しかしクララは必死に叫んだ。言葉は分からずとも、コハナにはクララが何を伝えたいのか察するが、しかし首を横に振ってカレンの方へ指をさして視線を促した。


 「ミコトー!」


 ゴブリンの棍棒が振りかざされるが、しかしカレンの緊張感のない声が部屋に響く。

 ゴブリンらと戦闘していたミコトが声に反応し、驚くほど早く振り返ると地面を蹴った。蹴る音がクララらに届くほどである。ミコトとカレンの距離は25メートルをゆうに超えている。その距離を、ミコトが一歩で跳び帰った。

 ゴブリンの振り下ろそうとするよりも前に、ミコトが首を斬り落とす。クララが顎を落として呆けるのを横目に、カレンは得意げな笑みを浮かべて凝った火の玉(ファイヤー)を再度耳飛びネズミへ放った。

 ゴブリンソーサラーが背を向けたミコトへ凝った火の玉(ファイヤー)を放つ。カレンが使うファイヤーよりも僅かに大きい火の玉がミコトへ迫る。


 「ミ、ミコト君、後ろ!危ない!」


 迫る火の玉を、ミコトは振り向きざまにカタナを振り抜いて()()()()()

 またもやクララの理解の範疇を越した事実に唖然とする。


 「うっそぉ…」


 魔法って、斬れるの…?と呟くクララにコハナがケラケラとマスクの中で笑った。そしてミコトはあっという間に残った魔物へ再度突撃した。




 残ったゴブリン一体と耳飛びネズミを容易に殲滅し、前衛の無くなったゴブリンソーサラーを一太刀適わず二の太刀で消滅させる。すると、扉と宝箱に貼ってあった結界が消えた。

 ミコトがやはり、戦闘を終えた後にカタナを強く振り、鞘へと戻す。仲間へ振り返った時、表情はいつものほやほわしたミコトに戻っていた。

 パーティーメンバーが合流し、揃って報酬の宝箱の前へと移動する。


 「クララ〜覚えた?あれくらいの距離ならミコト、一歩で届くからあれくらいに居れば良いわよ」


 慣れたら一緒に突撃してもいいからね。と言うカレンにクララもそうなったら良いと思う。結局、今回もクララは何もしていない。迷宮ダンジョンへ潜ってした事と言えば、ボス前の戦闘でゴブリン相手に防戦しただけである。その事実にクララの表情が曇っていく。


 「クララいて助かったな」


 「いやぁ…私、何もしてない…寄生虫…」


 ミコトの明るい声にクララが自己嫌悪の声を漏らした。

 しかし、ミコトは歩みを止めてきょとんとした顔を浮かべてクララを見つめた。先頭のミコトの止めた足に釣られ、他のメンバーも足を止める。


 「ヒーラーは別に、攻撃する必要ない。」


 ミコトが真っ直ぐクララを見つめて言った。


 「ヒーラー、居てくれる。いざと言う時、回復してくれる。それだけで助かる!」


 他意のない。純粋で真っ直ぐな言葉。パーティー内に、自分の役割がきちんと存在すると、含みのない言葉がクララに向けられた。


 「こういうのって、何も考えて無さそうな子が言うのが良いのよね」


 「聞き捨てならない!」


 ミコトとカレンが互いに冗談で叩き合う。クララは姉に聞かされた、この学園でしか出会えなかったであろう、仲間。友達と言う存在を確かに感じていた。




 迷宮ダンジョンは一階層走破する事に受付へ戻る転移紋が設置されている。ボス部屋の奥はセーフティーゾーンとなっており、時計も設置されている。

 ボスの魔石と宝箱から解毒薬を回収した一行はボス部屋の出口を開けた。部屋の時計を見れば、閉園時間までもう半刻となく、次の階層は閉園までには走破出来ないだろう。時は寮の食堂が夕飯時に開店する時間直前の十七時を回っていた。


 「隅々まで回ったから結構時間立ってるわね」


 「お腹すいた」


 ミコトの元気か露骨に減っているのにクララは苦笑した。

 転移紋で受け付けまで転移した一行は離脱の魔石を受け付けに返し、そのままロビーで解散する流れになった。


 「私、パーティー申請しておく。クララの。先生に」


 ミコトとコハナは教授達の研究室がある教員棟へパーティー申請し、その後夕食にすると別れた。カレンは一度シャワー浴びるわ、と寮の自室へ戻るらしい。

 明日のパーティーメンバーを同じクラスにするクラス替えが行われる。このままなら、クララはこのパーティーでやっていける、はずである。迷宮内でのミコトの言葉がクララの胸中を温めてくれている。

 しかし、である。サバンのパーティーにいた時も、()()であった。サバンも、他の魔法使いの子も弓士の子も優しくクララを受け入れてくれていた。

 しかし、解散し日を跨ぐとクララは頭を下げられ、パーティーの脱退を懇願された。明日の朝、私はミコト達と仲間で居られるのか。不安が残る夜をクララは迎えた。

次回!王立アルタニア学園は!

とうとう迎えたクラス替え!クララを受け入れてくれるパーティーに出会えた幸せと、朝に拒絶されるかもしれない不安にくれるクララの朝は、一体どうなってしまうのか!


次回!「格闘士サバン怒りの咆哮」

タイトルは変更になる場合もあります。

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