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僧侶クララは異性が苦手である。

学園に入学したから四日過ぎても未だパーティーメンバーに恵まれない僧侶クララはら担任の生生である魔女クレアに相談する。

「パーティーが組めません。どうしたら良いですか」

「クラスメイトと組めないなら他のクラスの子と組めば良いじゃない」

天啓を得たクララは一人、迷宮ダンジョン受付前のロビーへと赴いた!

 冒険者学園の生徒が放課後に教授の元へ足を運ぶのは稀である。何せこの学園の生徒は卒業後、()()()()()()()()()()()()()()()()に分類される。前者は王国の貴族、次男以下の家督を継ぐ長男のスペア。家名を汚すことなく生きていくための箔付に卒業する者。若しくはその貴族たちの妻を狙う貴族令嬢や愛人を狙う平民の娘。これらに該当する者達は勉学に意欲的ではなく、放課後に教授の元へ訪れる事はない。

 後者は意欲的ではあるものの、勉学よりも身体を鍛える。実戦的な学園に備え付けの迷宮ダンジョンへ潜って腕を磨く。これらの理由により、やはり教授の元へ訪れる者はほぼ居ないのだ。


 だからこそ、教授一人に一部屋与えられた研究室はもはや私室と言って良い。冒険者業を兼業する者には「王都の無料宿屋」と陰で呼ばれていたりする。

 教授の一人、神より与えられし加護(ジョブ)が魔女のクレアも放課後になって研究室でリラックスし始めていた。

 自作の体臭を甘い香りに変える呪いをかかた、乾燥した葉を細かく刻み、丸めてキセルに詰めて火を付けた。仕事後の一服を済まし、さて昼食はどうするか、先輩の竜殺し(ドラゴンスレイ)の姉弟に奢ってもらおうかと思考をめぐらせていると軽いノックの音と共に少女の声が転がった。


「す…すみません…クレア教授にそ…相談したいことがー…」


 思わず魔女クレアは目を見開いて自室の戸を振り返った。

 え、嘘。マジ?生徒だよ。放課後に。

 同僚がお茶しに来るならいざ知らず、まさかの生徒!予想打にしなかった事態に思考が停止して思わず固まった。戸の向こうから、あれ、お留守かな…と不安そうな声が僅かに聞こえた。


「ま、待ちたまえ!少し時間が欲しい」


 返事が返って来た事に安堵する気配がする。

 魔女クレアはさっとローブの裾から(ステッキ)を取り出す一振し、キセルの灰を火皿へと落とした。窓が空け、軽い風を起こして換気する。

 じっとりとした目で部屋を見渡すが、かなり散らかっている。何せ訪れる者は同僚の冒険者兼教授の仲間ばかり。一部の教授はまだ若いクレアがこの学園の生徒だった頃から在している者もいる。気心知れた仲間しか訪れることしかない自室は徐々に散らかっていった。講義に使う資料や冒険者業務の薬作りの材料。自作の魔法を創るための資料や触媒等。片付けてる時間は、それなりに必要になるだろう。その間、廊下に生徒を立たせてる訳には行かないだろう。

 カッコ良い先生像が崩れるかもなぁと諦念の溜息を吐いた。


「どうぞ、入りたまえ」


「は、はい!失礼します!」


 と元気な返事と共に戸が開かれた。

 クレアが受け持つ担当クラス。

 一年紅玉組の生徒、神より与えられし加護(ジョブ)が僧侶のクララが申し訳なさそうに俯きながら入室してきた。


「そこへ座りなさい」


 杖振って自身の椅子と机、対面にクララの為の椅子が設けられた。クララが感嘆の声を上げるのを耳にしつつクレアは席へ着く。


「失礼します…」


 とクララが席へ着いたのを認め、クレアが切り出した。


「さて、今日はどうしたのかね?」


「は、はい!実は…」


 パーティーを組むことが出来ない。そう相談を受けたクレアは内心で首を傾げた。僧侶がパーティーを組めないのは考え難い。加護(ジョブ)の制約による武器の制限がほぼない僧侶は自衛可能なヒーラーとして非常に人気がある。ヒーラーの有無はパーティーの財布に直結する。回復薬の必要量が断然違う。金銭の余裕は武具を充実させて力の底上げが出来るのだ。一パーティーに一ヒーラー。それが望ましいものの、生徒は子供。冒険者という仕事内容は荒事ばかりと誤解を受けている。その為、男子が多くなる。当然、人気は剣士や魔法使いなど攻撃の花形や味方を護るパーティーの大黒柱盾役に人が集まるのだ。

 人格、にも問題は見受けられない。迷宮開園日を過ぎてはや三日。クラスでの生活を見ている限り、彼女の性格はやや引っ込み思案で自分から行動出来るタイプでは無いものの、協調性はある。異性とのコミュニケーション能力に不安があるものの、亜人に対する偏見もなく、クラスで浮いている様 子はない。


「確か、迷宮開園日にはサバンの所のパーティーに所属していなかったかな?」


「はい。そう、なんですが…私…実は問題がありまして…」


 視線を彷徨わせるクララに続きを促した。


「私、生き物が攻撃できないんです…」


 ある。あるあるである。ただでさえ少ない教授への質問や悩み相談。その少ない中でも八割は()()である。人間種で言うなら入学可能な年齢十二歳から十五歳。友人や兄弟と殴り合いの喧嘩くらいはしたことあろうとも生き物を殺すことなどそうそう体験する事ではない。小さな動物を狩るくらいの経験はあるかもしれないが、迷宮内は魔物に酷似したモノである。だからこそ。言うことは一つである。


「迷宮開園日初日にも説明したと思うが…」


「し、知ってます!迷宮内の魔物は迷宮の吹き出す魔素が凝固して出来た魔法の一種で、生き物ではないことは…!」


 知っていても、出来ないのだと言う。迷宮開園日初日、サバンのパーティーに何とか声をかけ、参加させて貰ったそうだ。初日は第一階層をぐるっと一周して戻るだけのものだったが、運悪く魔物に後ろから襲われたそうだ。その際に魔物相手に攻撃できない性分が露呈したのだが、サバンを筆頭にパーティーメンバーは気にしなかったそうだ。

 それはそうだろうと思う。豹族の獣人の女の子サバン。獣人は殊更仲間意識が強く、内側に入った者には甘い。殊更自分より弱いと認識した者を護る傾向が強い。

 やはり解せない。そんなパーティーに入ったのだ。何故、そのパーティーから脱退することになったのか。


「その日は、フォーメーションをどうするかって話をしながら解散したんです…でも、次の日…サバンさんから話があるって…」


 そして、頭を下げられながら告げられたそうだ。パーティーを、抜けて欲しいと。


「それから勧誘は受けていないかな?」


「いえ、一応その…男の子のパーティー二つから誘ってもらってるですけど…その…」


 サラマンダー程に赤面した顔を見れば答えは分かる。彼女の育ちを思えば致し方ない。つまりは最低でも同性がいるパーティーでないと参加出来ないのだろう。


「で、そのパーティーとは?」


「はい。ギガゴ君のパーティーと、コルネリウス君のパーティーで…」


 合点がいった、とクレアは納得した。厄介な輩に狙われてしまったものだと哀れに思う。前者のパーティーは問題ない。小鬼(ゴブリン)族と(オーク)族、小人(ドワーフ)族の三人パーティーである。中でも小鬼族と豚族は男しか産まれず、子孫繁栄の為に他種族の女性を迎える必要がある。伝統的に女性を強く尊重する種族であり、クラスの女子がパーティーに入れず困っていれば声をかけるのは想像に難くない。

 問題は後者のパーティーだ。この学園のある王国の第四王子のパーティーである。メンバーも自身の陣営の貴族の子息から選ばれており、権力で同じクラスにゴリ押ししてきた問題児達。側室の子であり、バリバリの貴族主義の差別教育を施された第四王子。王国の継承法上、権利はあるものの長子と次男は正室の子である。二人ともこの学園を卒業しており、長男は毒すら盛られても筋肉でどうにかしそうな程の健康優良児であった。その上武力に関してかなり優秀な成績を収めてる上、コミュニケーション能力も非常に高かった。今や高名な冒険者、竜殺し(ドラゴンスレイ)を筆頭に友人も多い。暗殺も難しいだろう。継承は絶望的。一応の箔付に入学した生徒がコルネリウスである。

 あとは簡単に推理できた。クララを自身のパーティーに入れるためにクラスの王国民に脅しかけたのだろう。学園内に身分の差はないものとしてるが、そんな建前を護るならクラス分けのゴリ押しなどしないだろう。さらには財力に物言わせた分不相応なレベルの装備の数々。弁えろと言ってもききやしない。惚れた腫れたの問題は厄介だなと魔女クレアは頭を搔いた。

 サバンのパーティーメンバーは同じクラスの人間種族の女の子である。二人とも平民で、王族や貴族等の天上人に脅しかけられれば屈してしまうのは当然だ。幸い、国王様も王妃様も非常に理性的で、脅しの内容が何であれ、実行されることは有り得ないのだが、十五の少女達には分かるまい。パーティーメンバーの二人に泣きつかれれば、サバンも渋々頷くしか無かったろう。


「事情は諒解した。それなら一つ良いアドバイスがある」


 そうクレアが言うと、クララは神に祈るように手を組んで、尊敬と感謝を満面に浮かべてクレアを見つめた。余りにも眩しく、クレアが僅かに目を細めた。


「簡単なことさ。迷宮ダンジョンのロビーで待機すると良い。これも説明したと思うが、各学年用の掲示板にはパーティー募集を張り出して良い事になっているし、生徒同士の交流場所となっている。あそこで迷宮に入るパーティーや帰ったパーティーに声かけるなり、掲示板を利用すると良い。」


 何も、クラスメイトだけがパーティー候補ではないよ、と締める。何せ明日からクラス替えだ。迷宮開園から三日間がパーティーのお試し期間。他クラスの子とパーティーを組んだ子を考慮してクラスをパーティー事に変える。冒険者は、パーティーメンバーとの信頼と連携が不可欠だ。交流しやすいように配慮が必要なのである。

 やや人見知り気味なクララの表情は硬いが、意を決したように一つ頷いた。


「わ、わかりました!頑張ってみます!」


「うん。行っておいで」


「し、失礼します!」


 クララは立ち上がり、深く一礼してクレアの研究室を後にした。





 制服からダンジョン探索用の装備に着替えたクララは早速迷宮ダンジョンの前のロビーへ向かった。

 多数のテーブルとソファーにチェアが設けられており、今も先輩方の生徒が幾つかのグループに別れて談笑していた。学年ごとに専用の掲示板があり、そこには紙が乱雑に貼られている。

 あれが教授から教わった掲示板かなとクララは足を向ける。掲示板の枠組みの色が上履きの学年を示す色とリンクしているようだ。先輩用の掲示板には、一年生用の掲示板と比較して貼られている紙が少なかった。一年、ないし二年もすればパーティーも固まってくるのだろうとクララは思った。むしろ、貼られている内容は何かしらの目的を共有する即席でその日限りのパーティー募集が多いようだ。

 一年生用の掲示板を睨むような視線で眺めていく。他よりも目を引く様に色鮮やかな募集用紙もあれば、簡潔に求める人材と現在のパーティーメンバーを書いただけのものもある。

 色鮮やかな募集は女の子が書いたのかも、と幾つか読んでいると、迷宮ダンジョンの受付の方から大声が聞こえて思わず振り返った。


「だ〜か〜ら〜撤退しとけば良かったのに!回復薬なくなっちゃったじゃない!ヒーラー居ないのにどうするの!」


「ごめん〜。ごめん〜」


 赤毛につり目の勝気な印象が強い全身黒ローブの少女と見慣れない服の柔らかい笑顔を浮かべた男の子だ。妙なイントネーションと発音、さらに見たことも無い服装。顔立ちも幼げで、丸くて小さい。自分よりも遥か遠くの異国を思わせた。

 一部の先輩方が視線を向けて囁いた一年生の単語を聞き逃さず、クララは二人に近づいた。話の内容からヒーラーが必要である事は明白で、一人は女の子である。自分を加えれば半分以上は女子である。男の子が苦手な私でもやっていけるかも!と両手を握って気合を入れる。


「あ…あの!すみません!」


「おろ?」


「何?」


「…?」


 とクララの声に反応して三人の視線が一斉にクララへ向いた。男の子の影からひょっこりと現れた黒。真っ黒であった。片口や太ももから僅かに肌が見えている。顔の半分はまたもや黒のマスクで覆われて目元しか見えない。しかも目も黒、髪も黒。もはや黒。しかし、胸元の僅かな膨らみが女の子であると教えてくれた。お陰でクララは少し平静を取り戻した。


「あのぉ…実は話を聞かせて貰いましてぇ…」


 しかし、自身を見つめる三つの視線に緊張がぶり返し、恐る恐る言葉を紡ぐことになってしまう。


「良かったら…パーティーに入れて頂けないでしょうか?と、思い…まして…」


 特にクララは赤毛の魔法使い風な少女を恐れた。学園の入学可能な年齢から同い年か年下は確定していると言うのに。

 (ロッド)を肩に担いで値踏みするように睨めつけるその様はくららを十二分に恐れさせた。


「…あたし達、一年生なんですけど?」


 学年を示すものは制服のタイと上履きの色のみなので、装備に着替えるとパッと見ただけでは年齢が分かりづらいのだ。


「あっ!す、すみません!申し遅れまして、私…一年紅玉組のクララと言います!加護(ジョブ)は僧侶です!!」


 ヒーラーである事を強調し、自身の有用性をアピールした。

 僧侶という単語に変わった装備の二人は瞳を輝かせた。しかし、赤毛の少女は訝しむ表情を浮かべた。


「あたし達の事、知らないの?」


「えっとぉ…すみません…」


「…他のクラスまでは噂が流れてないみたいね」


「噂…ですか?」


「そ、噂」


 赤毛の少女は自分の胸元へ手を運んだ。


「あたしの加護(ジョブ)はね。見ての通り魔法使いな訳だけどね。火の魔法しか使えないのよ」


 クララは目を丸くした。神より与えられし加護(ジョブ)で覚える魔法や技能(スキル)は無条件に使えるものだと思っていた。


「さーらにこの二人ね」


 そう言って赤毛の少女は黒髪の二人を差した。常にニコニコと笑顔を浮かべた男の子の表情がやや曇る。


「日の国の出身なのよ」


「おぉ!それは凄いです!」


 感極まる、といったクララの反応に赤毛の少女と黒髪の少年は目を見開いた。驚かれたクララは僅かに首を傾げた。


「あ、あれ?私、なにか変なこと言いました…?」


「あぁいや、だって、日の国よ?」


「はい!日の国の神々と人との関係はお父様から教わったんです!」


 日の国という東の小さな島国は、八百万の神々が現世に降りて人々と共に暮らしている、という話である。この大陸のように神々を上位者として敬い奉るのではなく、良き友人のように暮らすのだと言う。故に日の国の人間は神より与えられし加護(ジョブ)()()()()のだという。


「へぇ。そんな風に考えてくれてるところもあるのね。でもね、此処(王国)ではね。そうは考えられてないのよ」


 加護(ジョブ)なし。貴族から冒険者になった者や貴族、騎士等から蔑まされている者たちである。王国では神より与えられし加護(ジョブ)は一部の人間にしか与えられない。安易に力を得られる者を制限する考えである。これは決して正しくない思考とは言えない。加護(ジョブ)を持つに相応しくない、邪悪な思想の持ち主が強大な力を持つ場合の被害を抑える一面がある。たが、加護(ジョブ)を持つ者に選民思想が現れているのもまた事実であった。


「そんな訳でね。あたし達は言わば」


 火の魔法しか使えない魔法使いと加護(ジョブ)なしの日の国人。そんな落ちこぼれたちなのよ。

 貴方はそんなあたし達とパーティー組めるの?


 赤毛の少女の問いかける冷たい視線が、クララへと突き刺さった。

ゲームの空き時間になあなあと書いてます。飽きたら辞めます。この作品には非常に影響を受けた作品があり、その作者様から苦情を頂いても辞める予定です。

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