『ウンディーネさんとお水の精霊さんのパートナーさん』
朝食を食べている時、アンデイルさんから……。
「母さんに……会って貰いたい……御方がいるの……」
……と言われました。
顔を赤くしながら、照れた様子で。
え? それって、まさかアレですか。
お嬢さんを僕にください的な、そう言うお話ですよね??
アンデイルさんと過ごすようになって、まだ数日。
さすがにそれは早いんじゃないかと思います。
そもそも、わたしはアンデイルさんの本当の母親じゃないですし……。
かと言って、断ることもできません。
本当の母親ではなくても、アンデイルさんは、わたしの家族であり大切な娘です。
娘のお願いには可能な限り応じるのが親の務め。
わたしのお母さんも、そうしてくれてました。
だから複雑な気持ちを抱きつつも、首を縦に振ったのです。
そして食事を終え、しばらくすると……。
ドンドンドンッ!!
お家のドアを力強く叩く音が、聞こえてきたのです。
どうやらアンデイルさんのお相手が来たようですね。
それにしても、大きくて頑丈なドアがここまで響くとは……。
お相手のかたは、かなりパワフルなかただとお見受けします。
それもそのはず、ドアを開けた先に立っていたのは、銀色の毛をした大きな狼さんでしたから。
その狼さんは、わたしを見るなり地面にひれ伏しました。
『お初にお目にかかります、ウンディーネ様。私はアスィミと申します。以後お見知りおきを』
メイドさんみたいな口調で丁寧に挨拶をする狼さん。
なんだかティーニヤさんにお仕えしている、メイリーさんを思い出します。
ただ、予想してなかった展開だけに、わたしの思考回路は少しばかり止まっていました。
「…………あ、はい。えーっと……アンデイルさんが会ってもらいたいと言ったのは……」
状況を整理しつつ、視線をアンデイルさんに移します。
そのアンデイルさんですが、肯定するように小さく頷きました。
「うん……彼女のこと……」
「そ、そうだったんですね……」
てっきり相手のかたは男性かと思っていましたよ。
でも実際に現れたのは女性。
それも銀色の姿をした狼さんです。
狼さんが大好きなわたしとしては、一目惚れしてしまいそうな美しい容姿。
正直、シュヴァルツさんと出会ってなければ心を奪われてましたね。
ちなみにこの狼さんですが、体長はシュヴァルツさんよりも一回りほど小さいので、そこはちょっと可愛らしい感じがします。
ふむふむ、アンデイルさんは良い趣味をしてますね。
さすがは母娘と言いたいです。
まあ、血は繋がってませんが。
そんなことを考えているわたしの隣に、シュヴァルツさんがやって来ます。
シュヴァルツさんはアスィミさんを見据えながら口を開きました。
『お主、名付けをされたのか?』
『はい。アンデイル様より、名を頂戴致しました』
『アスィミと言ったか、良い名を授けて貰ったな』
『さようでございますか。シュヴァルツ様にそのように仰って頂けると大変嬉しく存じます』
シュヴァルツさんとアスィミさんはお知り合い同士のようですね。
少しの間、お二人の会話に耳を傾けていました。
すると突然、シュヴァルツさんが慌てた様子を見せたのです。
『ご、ご主人様。長々と話してしまい申し訳ありませんでした。どうかお許しを』
「いえいえ、気にしなくても大丈夫ですよ。ところで、お二人はどう言った関係なのですか?」
『同胞です。珍しい毛並みをしていますが、彼女も立派なフェンリルの一族です』
確かに珍しいですね。
銀色のフェンリルさんは、わたしも見たことがありませんから。
恐らくシュヴァルツさん同様、希少種なのだと思います。
でも今はそんなことよりも……。
「同胞? あ、もしかして……アスィミさんが見回りをしてくれていたんですか??」
わたしの質問にアスィミさんが応じます。
『僭越ながら私が、お屋敷の周囲を巡邏させて頂いております』
「そうなんですね。いつも、ありがとうございます」
『きょ、恐縮至極に存じます』
そう言って、アスィミさんは再び地面にひれ伏しました。
このあと、アンデイルさんからアスィミさんと血盟の儀式を交わしたことを聞かされます。
「それって、家族になったと言うことですよね? なら、アスィミさんもこのお家で暮らしたほうが良いのではないですか??」
『そ、そんな恐れ多い……それに私にはお屋敷をお守りする義務がございます。ウンディーネ様は勿論のこと、今はアンデイル様の身も守りたく存じます』
その言葉を聞いて、アンデイルさんの顔が真っ赤になりました。
素敵なパートナーさんと巡り合えて良かったですね。
母親として嬉しく思います。
だからこそ、アンデイルさんに確認したいことがあったのです。
「アスィミさんは、そう言ってますけど……アンデイルさんはそれで良いんですか?」
「少し淋しい……だけど……大丈夫……」
『アンデイルよ、我慢しなくても良いのだぞ。周囲の警戒なら他の者に頼めば済む事だ』
さすが、シュヴァルツさん。
良いことを言ってくれました。
それなのに……。
『シュヴァルツ様! それはお止め下さい。お屋敷でお世話になるなど、私の精神が持ちません!!』
突然、アスィミさんが声を荒げたのです。
「精神が持たない? それって、どう言うことですか??」
『も、申し訳ございません。私はフェンリルの一族と言えど劣等種に近い中位の存在。とてもではありませんが、ウンディーネ様から放たれる魔力の気を受け続ける事などできませぬ』
「え? わたし……そんなに危ないものを放っているんですか?! シュヴァルツさんは大丈夫ですよね??」
『血盟の儀式を受けていなければ、我でも耐えられるかどうか怪しいところですね。それだけご主人様の魔力は強力だと言う事です』
「うん……母さんの魔力は……異常……」
異常って……。
レベルアップするたびに、スキルポイントを魔力に振ってただけなんですけどねぇ。
反論しようと思いましたよ?
ですが、お話に参加していないフウカさんまで皆さんと一緒に頷いていたので、わたしは口を噤むことしかできませんでした。




