『精霊術師さんとNPCな日々』
私の名前はエリミア。
ハイエルフの精霊術師だよ。
ゴールドランクの冒険者で、三度のご飯よりも旅が大好き!
でも……神官をしているお姉ちゃんを見ていると、地に足をつけた方が良いのかなぁ?
そんな事を思ったりもする。
楽しい旅の中でも危険な事は多いからね。
だから貴族様であるティーニヤ様の護衛でイールフォリオに訪れた時。
この地に骨を埋めても良いかなぁ……とか思ったりなんかした。
それを後押しするように、ティーニヤ様から正式に護衛になって欲しいと頼まれたんだ。
更には、ギルドマスターの役職も貰っちゃいました。
名ばかりだけどね。
それでも嬉しいと言えば、嬉しかったかな。
だけど……もう旅に行けないんだなぁって、淋しさもあったんだよね。
それから数年は穏やかな日々が続いてた。
あくまで表面上の話だよ。
私の心の中は、ずっとモヤモヤしてたから……。
そんな、ある日のこと。
私宛に一通の手紙が届いたんだ。
差出人は復活の女神様である、レファリナ様!
それだけでも驚きなのに、手紙の内容はそれを遥かに超えるモノだった。
そして、私の中の旅への想いが爆発した。
だってそうでしょ?
その手紙は、新たな旅への招待状だったんだから!!
正しくは神様が新しく創った『エンシェントワールド』と言う世界を旅するもの。
私はそこでテストプレイヤーをやるらしい。
ところで……テストプレイヤーって、なんだろうね?
この時点での私は、旅に出られる事に舞い上がっていて、それをよく理解してなかった。
出発は3週間後。
旅をする期間は半年。
だからすぐにティーニヤ様にお願いしたんだよね。
必ず帰って来るから旅に出たいって。
ティーニヤ様は悩んでいたけど、最終的には気持ちよく了承してくれた。
ところがこのあとすぐに、私はとんでもない勘違いをしていた事に気づく。
なんとフォルンヘイムの1週間と、エンシェントワールドの1週間は3日もの差があったんだよ!
手紙に『エンシェントワールドの時間に慣れるように』と書いてあったけど……。
「なんのこっちゃ?」
……ってな具合で、スルーしてたんだよね。
でもあとで読み返したら、エンシェントワールドの1週間は7日しかないと知って、パニック状態に陥りました。
3週間後だから、ティーニヤ様には『1か月後に旅に出たい』って、言っちゃったんだよね。
その日に合わせて調整とかしてた。
それなのにさ、今さら『旅立つ日が早くなりました』……なんて言えるワケがない。
だって……私は町の皆から、『水の守護神』なんて呼ばれているんだよ?
崇められまくりなんだから、失望なんてされたら生きていけないよ……。
生きていけない? あっ、そうだ!
だったら、死んだ事にしちゃえば良いんじゃないかな?
罪悪感はあるけれど、後には引けない。
幸いな事に、お迎えに来るのは復活の儀式を行う、レファリナ様。
これを利用しようと思ったワケ。
儀式に立ち会う神官を、お姉ちゃんに頼めば、上手く誤魔化せるハズ。
その為に、お姉ちゃんの所に何度か通ったよ。
計画を話した時は、すごぉく困ってたいけど、なんとか協力してくれた。
持つべきものは、お姉ちゃんだね!
そして計画通り事は進み、私はイールフォリオから旅立ったんだ。
女神様に連れられて、やって来たのは『オペレーションルーム』とか言う巨大な部屋。
そこには各領地のギルドマスターや神官長、エルダードワーフなんかの姿があった。
私もギルドマスターをやってたから、手紙が届いたんだけどね。
なんで集められているのかは、極秘事項とかで明かされていない。
私に与えられたのは、はじめにも話した通り、とにかく世界中を旅すること。
でもその内容が思っていたのと、随分違っていた。
まず、私自身は旅に出ない。
旅に出るのは『アバター』と呼ばれる、私そっくりな分体。
そしてこの世界は、フォルンヘイムとなんら変わりが無いと言うこと。
最初はガッカリしたけどね。
やってみたら、これがかなり快適だったんだよっ!
仕組みはわからないけど、体は自分の思い通りに動くし、魔法も使える。
そして何より、モンスターに攻撃されても痛くも痒くもない。
もし死んだとしても、神殿で復活できちゃうんだよね。
私はハイエルフだから、モンスターを殺す事を禁じられている。
だから、どんなに危険な状況に陥ったとしても逃げるしかなかった。
でもこの世界なら死を恐れる必要がない。
そのお陰で、今まで行った事のない場所も旅してた。
やがてテストプレイヤーの期間が終わり、皆が各領地へと帰って行く。
だけど私には帰る場所がない。
そこで女神様に頼み込んで、このままオペレーションルームに居させて貰える事になった。
今度はテストプレイヤーではなく、『NPC』として。
それがなんなのか、良くわからない。
だって『NPC』もテストプレイヤーと同様に、自由に旅をして良いと言われたから。
ただし、『プレイヤー』と呼ばれる人族から依頼を受ければ、その者に同行しなければいけないらしい。
人族って、序列最下位の種族だよね?
その人族から依頼を受けるって……どゆこと??
いえいえ、嫌だなんて思いませんよ。
旅さえ出来れば文句などありませぬ。
しかしこの同行先のひとつに、魔族領と言われる『アスモディア』があったんだよね。
今思い返してみても、アレは凄かった。
高位の精霊族でも勝てるかどうか怪しいと思う。
特にゴルゴーン。
奴とは絶対に戦っちゃダメだ。
目を合わせたら、あっという間に石化されちゃうんだから。
バシリスクですら可愛く見える。
私はとあるパーティの助っ人として、ゴルゴーンの討伐に同行したけど……。
秒で殺されましたよ。
あ……違うかな。
神殿に送られる前に蘇生されたから。
エンシェントワールドはとても不思議な世界で、プレイヤーと呼ばれる人族は強靭な肉体があったり、魔力を持っていたりする。
それでも精霊族より上かと聞かれれば、そこまでじゃない。
良くてドワーフやエルフの強者と同等くらいじゃないかな?
ただ、私の事を助けてくれた神官だけは精霊族、いや……女神様に匹敵する強さを感じたよ。
特に魔力量がハンパじゃない!
蘇生を使える時点でも十分凄すぎなのにね。
ゴルゴーンが何度睨んでも、すぐに石化を解いちゃうんだよ?
普通に攻撃すれば、水の壁を作ってはじき返す始末……。
なにそれ? どう言う原理なの??
全くワケがわからない。
それはゴルゴーンも同じようでして。
一目散に逃げていきましたとさ。
めでたし、めでたし。
それにしても伝説級の回復魔法の他にも水魔法まで使えるって……。
凄い人族がいたもんだ。
あの神官こそ、水の守護神と呼ばれるべきだと思ったね。
そんな事を考えながら、今日の仕事を終える。
「ふぅ……疲れたぁ。エンシェントワールドは楽しいけど、たまには本当の旅がしたいよねぇ」
ため息を吐きつつ、愚痴をこぼしてみる。
すると背後から視線を感じたんだ。
振り返った先には、私の契約している高位の水精霊……アンデイル様が立っていた。
どこか怪訝そうな顔を浮かべて。




